知らない人

sideセラ


「うみゅ?」


むう。少し早く起きすぎたかの。誰も起きとらん。


「ふぁあ」


「あう」


おや、ベビーベッドのクリスとコレットが起きてしもうた。目をこすりながら、辺りを見回しておる。どれ、わしがあやしてあげようかの。


「おはようなのじゃ」


「…」


「…」


はて、2人とも固まってしもうたが一体…。


「セラ、セラ。大人になってるよ」


なぬ、だんな様!?本当じゃ!無意識にアダルティーなわしになっとる!


「ふえぇ」


いかん2人とも泣きそうじゃ!


ポン


「元に戻ったのじゃ。ほーれ泣かんでくれ。の?の?」


「せらねー!」


ポンと音を立てて元のわしに戻り、2人を交互に高い高いして、機嫌を必死に取る。


この子達は、わし、ルー、リンの事をお姉ちゃんと呼び、ジネット殿とリリアーナ殿以外には、アレクシアのみがママと呼ばれている。

まあ、夜中にこの子達の母親だったのは、アレクシアじゃったから無理も無いが、皆の中で最年長なのも関係しとるかもしれん。その事はアレクシアには絶対に言えんが…。


「大人になってるの見たの、初めてだっけ?」


「どうだったかのう…。赤ん坊の時にはあったかもしれんが、今のように人見知りするようになってからは、初めてだったかもしれん」


「えへへ!」


「えっへ!」


「おー、可愛いのう可愛いのう」


ベッドから起き上がって、こちらに来ただんな様に問われるが、はっきりと思い出せない。だがそれよりも、高い高いされて笑う子供達が可愛すぎて、思わず頬が緩んでしまう。


うーむ。やはりこの子達を見ていると、当分新婚気分でいるつもりだった気持ちが揺れて、自分とだんな様の子供が欲しくなってくるのう。

ソフィアが小大陸へと帰り、また夜の営みが戻れば少し考えてみるかの…。



「まてまてー!」


「えへへ!」


「えっへえっへ!」


家の中を子供達が、走り回っておるな。

という事は…。おったおった。だんな様がリビングのソファに座っておる。


「どうしたのセラ?」


「むふふ。ちょっとだんな様を、甘やかしたい気分なのじゃ」


「ははは。ありがとう」


座っているだんな様の体を横に倒して、自分の膝に頭を乗せる。

うむ。朝から母性本能というものが刺激されたのか、だんな様にこうしたくて堪らなかった。


ポン


む。体も反応したのか、ナイスバディなわしになってしもうた。


「重くない?」


「ちっとも」


元の少女姿でも吸血鬼なのじゃから、筋力や体の頑丈さは折り紙付きじゃ。特に重いと感じる事も無い。


「いやあ、このまま寝ちゃいそう」


「にょほほ。それじゃあずっとなでなでしてあげようかの」


だんな様の頭を撫でて居るが、自分の胸が邪魔で顔が見えない。元に戻るかの。


「つかまえた!」


「えへへ!」


「えっへ!」


どうやらソフィアから逃げていたらしい、コレットとクリスが同時に捕まっておる。


「ははは。捕まっちゃったね。クリス、コレット」


「仲がいいのう」


「…えっと、初めまして。ソフィアって言います」


「…」


「…」


うん?あ、そうじゃった。


ポン


「わしじゃよ、わし」


「え!?セラおねえちゃん!?」


「せらねー!」


「せらねー!」


急にソフィアに挨拶されたから戸惑ったが、そういえばボンキュッボンのわしじゃった。


「すごいセラおねえちゃん!変身できるの!?」


「うむ、もちろんじゃ。美人じゃったろ?」


「うん、すっごく!」


「にょほほ。そうじゃろうそうじゃろう」


うむ。ソフィアは分かっておるの。傾城傾国とはまさにわしの事じゃ!


「せらねー」


「ねー」


「あ、こらクリス、コレット。ぺちぺちしても変わりはせんわい。というか、朝に見てたのに、また知らん人の反応しよったな?」


「えへへ」


「えっへ」


やはり慣れておらんからか、またわしを見て固まっていた2人であるが、どうも、どこかに変身のスイッチがあるのかと思ったらしく、わしの体をその小さな手でぺちぺちと触っておる。

全く。可愛らしい顔で笑っても誤魔化されんぞ。


「どうやるんですか!?」


「うむ。よく食べて、よく寝て、よく運動する事じゃ」


「へえー」


うむ誤魔化せた。

わしが吸血鬼で、だんな様の血を吸ったら変身すると言っても、よう分からんじゃろう。


「パパ!」


「パパ!」


「ぐおお。やられたー」


ソフィアを誤魔化していると、寝ていたままのだんな様の腹に、コレットとクリスが飛び掛かっていた。しかもそのまま、だんな様の上で飛び跳ねている。


「パパ、クー、コーといっしょ?」


「うん?ああ、ははは。そうだね。パパもクリス達と同じで、セラお姉ちゃんに甘えてるんだ」


「へー」


どうやらわしに、だんな様が膝枕されているのが、珍しかったらしい。だんな様の腹の上で寝転がったクリスが、不思議そうな顔で聞いていた。


「よし、お外に行くかい?」


「うん!」


「いく!」


「コーも!」


「よーし出発!ありがとうねセラ」


「うむ」


うーむ。もう少しだんな様に膝枕してあげたかったが、仕方ないの。


まあ、チャンスはいくらでもあるか。


次の日


「んみゅ」


む。また早く起きてしまったの。まあ、早寝早起きは、吸血鬼の生活リズムじゃ。


「ふぁ」


「くしゅ」


おっと、子供達もじゃな。この子達も起きるのが結構早いの。


「おはようなのじゃ」


む?いかんまた大人の姿じゃ。元に戻らねば…。


「せらねー!」


「せらねー!」


「おお!わしだと分かるのか!」


元に戻っていないのに、子供達がわしの名を呼んだ!


「だっこ!」


「だっこ!」


「うむうむ。高い高ーい」


何ともまあ可愛らしいのう。にょほほほ。

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