人型殲滅兵器&婆型極大魔法発射装置 それと可哀そうな騎士2人

海の国


「ドナート枢機卿。守護騎士マイク出頭いたしました!」


「ご苦労マイク」


すぐに海の国へ転移したマイクは、そのまま現地の同僚の案内でドナートの前に来ていた。


「ベルトルド総長はなんと?」


「は。海の国にてドナート枢機卿の命を受けた後、小大陸に赴き、現地の情報を逐一通信魔具で報告せよと仰られました!」


「…他には?」


「いえありません!」


「…ベルトルドめ」


「ドナート枢機卿?」


どこか苦々し気な言葉で呟くドナートに、マイクは不思議そうにする。


「誰に同行するかは聞いていないのだな?」


「は?いえ、海の国の軍ではないのですか?」


「ええい。私に丸投げしよって」


今度こそはっきりと、ベルトルドに対して悪態をつくドナート。そしてマイクを見る目に憐みの色が出ていた。


「貴公はこれから、船の国の騎士が行う転移で、小大陸に渡る事になるが、同行者の中にユーゴ殿がいる」


「ユーゴ殿ですか?その方は?」


「…そうか。貴公は最近守護騎士になったばかりだったな。…なに、気さくな御仁だ。きちんと騎士として勤めれば大丈夫だ」


「はあ」


最近守護騎士になったばかりのマイクに、ユーゴとの接点はなかったが、そのせいで、ますます憐みのこもった目で彼を見るドナート。


「私の分の通信魔具はあるか?」


「は!こちらになります!」


「うむ。私も聞いているから、何か力になれるかもしれん」


「は!ありがとうございます!」


「それでは、ユーゴ殿が同行者をもう一人連れてくれば、すぐに出発する事になっている」


「は!」


「まあまずは、日帰りの強行偵察の様なものだ。橋頭保が築かれてからが本番だな」


「は!」

(やっぱり歴戦の勇者であられるドナート枢機卿は違う!!この偵察が本番ですらないなんて!)


微妙に勘違いをしながら、マイクは覚悟を決めて準備するのであった。



リガの街 ユーゴ邸


「婆さん。ちょっと日帰りで、小大陸へ行くことになったけどどうする?」


「ああそうだね。ソフィア、婆はちょっと散歩に行くけど、お姉ちゃんらしく、クリスとコレットの遊び相手を頼めるかい?」


「うんおばあちゃん!」


「ねーね。ねーね」


「ねー」


一旦家に帰って来たユーゴは、遊んでいる子供達を、微笑ましそうに見ているドロテアに声を掛ける。

それを聞いたドロテアは、ソフィアにコレット達の遊び相手を頼むと、ソフィアも大きく頷いた。ソフィアの周りにはコレットとクリスが、ねーねと言いながらころころとじゃれついていた。


「いい子だ。夕方までには帰って来ると思う。リリアーナ、悪いが頼んだよ」


「はいドロテア様。お気を付けて」


「そんじゃ行こうか」


「ああ」


ソフィアの頭を優しく撫でながら、リリアーナに彼女を頼むドロテア。そして、ユーゴと共に転移で海の国に向かうのであった。



海の国


「お待たせしました」


「待たせて悪いね」


「いえ…」

(エルフの老婆?まるでユギ様の様だが、老婆を小大陸に連れて行くのは…)


「そのユギの姉さ。まあ、足手纏いにはならんから、連れてってくれ」


「ユギ様の姉!?」


船の国の騎士クルトは、神の使いと紹介されたユーゴに一縷の望みを託していたが、そのユーゴが連れてきたドロテアに対して、小大陸で敬愛されていたユギの様だと思っていた。しかし、地獄と化した小大陸に連れて行っていい物かと悩んでいたが、まさか本当にユギの血縁者とは思っておらず驚愕した。


「それではクルトさん。マイクさん。今日はよろしくお願いします」


「はい」


「は!全力を尽くします!」


「さて行こうかねえ」


こうして、怪物2人と憐れな騎士2人が小大陸へと赴くのであった。



船の国 始まりの港


「何だこの数は!?」


「『報告!港と海岸は魔物で埋め尽くされています!大陸攻撃の準備と推測!』」


小大陸の人類が生まれた地とされている、船の国に存在する始まりの港。

そこへ転移した一行が見たのは、海岸線を埋め尽くさんばかりに集結している、魔物達の群れであった。


「撤退します!」


「まあ待ちな。ユギの墓はどこだい?」


「あ、あの小高い丘に!しかし、このままでは我々が!」


ヒョボ


何か風が叩きつける様な音が聞こえた。それと同時に、何かが破裂する音も。

見ると、海岸線にいた魔物達は消え去り、代わりに存在していたのは、血しぶきとナニカの欠片だけだった。


「それじゃあ遠慮なく」


「穴を増やすんじゃないよ。調査隊の拠点になる港町なんだ」


「分かってるよ。ったく信用ねえなあ」


「さて、大陸にいくつ大穴があったかねえ」


「よーし。早いとこ片付けますか」


その間にも消え続ける魔物達。


「な、一体何が!?」


「『報告!魔物達が消え去っています!何が起こっているか分かりません!』」


『こちらベルトルド。気にしなくていい。そのまま報告を続けてくれ』


混乱する騎士2人をよそに、マイクの通信魔具から平坦な声のベルトルドの声が聞こえる。


「おい婆さん。山からも来たぞ」


「そうだねえ」


「楽すんな」


「フェッフェッ。年寄り使いが荒いねえ」


「あんだけいたら、俺が纏めてやると山が吹っ飛ぶ」


未だに出て来る海岸線と港町の魔物達だけではない。見ると、離れた禿山の向こうからも、山を埋め尽くしながら魔物が溢れだしていた。


「そいつは船の国も勘弁してほしいだろうね。仕方ない【舞えよ 風の精 渦巻け 逆巻け 天へと上る 風の柱 対処する】」


かつて愚かにも、"7つ"と名乗った魔女とは訳が違う。

本来の7つの魔法とは、世界に介入して現れる通常の魔法では無いのだ。


そんな隙間を縫って現れ、意味が劣化した魔法ではない、世界を押し広げてこの世に非ざる現象を押し付ける、最初の、本当の意味での【魔法】が【始まりの魔女】によって解き放たれた。


「あああ!?」


「【報告!竜巻が!?いえ風の壁が出来ています!ああ!?天まで!本当に天まで伸びている壁が!?】」


『こちらドナート。気にするな』


1つの禿山だけではない。その周りの、それまた周りの禿山を、それの周りすらも巻き込んだ大気の壁は、海岸を目指していた魔物をへしゃげさせ、すり潰し、幾千に切り刻んで渦へと巻き込み、天高く運び込む。


「お見事」


「ふん。これしきさ」


かつて竜達すらも逃れる事が出来なかった風の牢獄を、ただの魔物如きが耐えられる筈も無く、生あるもの全てが塵へと化した。



「この馬鹿め。あんな小さな子をほっぽり出してからに」


小高い丘にポツンと佇む墓石を前に、そう悪態をつくドロテア。


「まあ、お前さんが目指して作り上げた新天地なんだ。ちょっとは手助けしてやるよ」


日が傾き始めたため、金色に輝きだす港町を見てそう呟く。


「今度はソフィアを連れて来るよ。またね」


長い別離での再会とは思えぬ短い時間であったが、ドロテアにはそれで充分であった。



ー塵も積もれば?塵は塵だー

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