おばあちゃん

リガの街 ユーゴ邸


「わあ。ここがおばあちゃのおうち?おっきい!」


「いや、ここはこの坊やの家だよ。暫くここで婆といよう」


「うん!」


鳥型魔物の襲撃後、かなり集中して索敵したユーゴであったが、後続が無いと判断して現地の指揮官に報告した後、ドロテア、ソフィアと共に一旦転移でリガの街に帰還していた。


「ただいまー」


「旦那様!?お帰りなさい!」


「ぱーぱ」


「クリス!パパだよ!」


丁度庭でリリアーナがクリスと散歩しており、リリアーナから息子を貰い受けて高い高いをするユーゴ。


「悪いがリリアーナ。ちょっと厄介になるよ」


「わあ。あかちゃんだあ」


「いらっしゃいませドロテア様。この子は?」


「妹の血を継いでてね。母親が忙しいから預かってる。そこで坊やがこの屋敷で一緒にいろって言ってくれてね。暫く世話になるよ」


「よろしくおねがいします!ソフィアです!」


「まあまあご丁寧に。私はリリアーナ。この子は息子のクリスよ」


「クリスくんっていうんだあ」


ドロテアがソフィアの説明をすると、ソフィアは元気よくリリアーナに挨拶し、リリアーナも満面の笑みでしゃがみ込んで挨拶する。


「ほらクリス。ソフィアお姉ちゃんに挨拶だ。ソフィアねーね」


「ねーね」


「あ!私の事ねーねって!」


「ははは。偉いぞクリス!」


クリスを抱いていたユーゴもしゃがんで、クリスとソフィアの目線が重なるようにする。

ソフィアは自分の事を呼んでくれた事に大喜びでいた。


「ねーね」


「わあまた!おててにさわっていいですか?」


「もちろん」


「わあ。きゅってつかまれた!」


「あらあらうふふ」


微笑ましい子供達の戯れに、笑顔になるユーゴとリリアーナ。ドロテアもどこか満足そうにしている。


「さあ、家に入ろう。実はもう1人赤ちゃんがいてね。女の子でコレットって言うんだ」


「あいたいです!」


もう1人赤ちゃんがいると聞いて、目を輝かせているソフィア。


「それじゃあソフィア。婆と行こうかね」


「うんおばあちゃん!」


「ばーば」


ユーゴはぴたりと動きを止め、信じられないように腕の中のクリスを見る。


「…潮風に耳がやられたな」


「正常だよ。そうだろうクリス?」


「ばあば」


「…なんてことだ」


「フェッフェッ」


「うふふ」


ソフィアの後に、クリスが口に出した言葉を信じられなかったユーゴであるが、クリスが2度も言葉に出したので信じるしかなかった。確かにクリスは、にやりと笑っているドロテアに視線を向けて、言葉を発したのだ。


⦅ご主人お帰り!お客さん?⦆


⦅お客人⦆


「わんちゃんとねこちゃんだ!」


「ただいまー。ウチで預かる事になったソフィアちゃん。仲良くね」


⦅はーい!⦆


⦅了解⦆


「きゃ!なめた!あはは!」


玄関を開けるとポチとタマが一行を迎えたが、2匹のペットの出現にソフィアは目を輝かせて近寄る。

するとポチは近寄って来たソフィアの手を舐めて、歓迎のあいさつをしたのであった。


「さあ行くよソフィア。坊やの家は人が多いからね。全員に会ってからまた遊んで貰いな」


「うんおばあちゃん!」



「という訳で、すまないがしばらく厄介になるよ」


「分かりました。どうぞごゆっくりしていってください」


「畏まりました」


ソフィアと共に屋敷に滞在する事を伝えるドロテア。特にリリアーナとアレクシアには、自分がいない時のソフィアの事を頼んでいた。


「ねーね」


「ねー」


「コレットちゃんもわたしのことよんでくれた!」


「ははは。ソフィアちゃんには弟と妹が出来たね!」


「うん!」


一方ソフィアの方は、クリスだけでなくコレットからも、ねーねと呼ばれたことに感激しており、2人の子供達に挟まれる形でソファに座っていた。

それをユーゴも祝福していたのだが…。


「ばあば」


「ばーば」


「…婆さん、俺にすら掛かる幻覚魔法をいつの間に…。20くらい唱えた?」


「フェッフェッフェッフェッ。賢い子達じゃないか」


自分の子供達が、ドロテアを指さしてばーばと呼ぶことに、幻覚を見てるのかと首を傾げていた。


「あ、こら。パパが降ろしてあげるから。落ちちゃう落ちちゃう」


ソファから降りたそうにする子供達が、落下する前にカーペットに降ろすユーゴ。


「ばあば」


「ばー」


「歩いたあああ!?ちょ!?ジネット!リリアーナ!子供達が独り歩きしたああ!」


「え!?コレット!?」


「まあまあクリスちゃん!」


なんとコレットとクリスは、生まれて初めて自分の力だけで歩いたのだ。

その衝撃にユーゴは、叫び声を上げて妻達に知らせる。

母親達も急いで我が子の下に向かうが、子供達の向かう先は自分の親では無かった。


「フェッフェッフェッフェッ。フェッフェッフェッフェッ」


子供達の向かう先は、ソファに座るドロテアがおり、よちよちと歩きながら彼女の足へと到着すると、そのまま足を掴んで支えにし、ドロテアを見上げていた。


「コレット。ママの所へもおいで」


「まあまあ。クリスはドロテア様が大好きなのね」


敗北感に打ちひしがれているジネットと、ニコニコしているリリアーナだが、真っ先に反応してドロテアに文句を言いそうな彼女達の夫は、自分の"倉庫"から取り出した写真魔具を使い、子供達を無言で写真に撮りまくっていた。


「うむ。わしもお爺様っ子だから分かるぞ」


「はいおひい様」


幼い頃はしょっちゅう、自分の祖父に抱き着いていたセラが、懐かしそうにしている。


「いやあ、お姉ちゃんもお母さんとしてプライドがあるからねえ」


「そういうもんかの?」


コレットの初めての歩き先が、自分でなかったことに落ち込んでいる姉の姿を見ながら苦笑するルー。


「りんおねえちゃん!あかちゃんたちのおばあちゃんも、おばあちゃんなの?」


「うーむ。難しい所だ」


「ソフィア。婆の所へおいで」


「うん!」


「フェッフェッフェッフェッ」


今日も今日とて、ユーゴ邸には笑い声が響いていた。

どこか勝ち誇っているような気もしたが…。

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