触れてはいけない男の逆鱗に触れる
本日投稿3話目です。ご注意ください。
魔の国 情報部
「来たか」
「はっ」
魔の国の情報部に1人の男が呼び出された。
単眼族の男であったが、魔の国にいる者達なら、特に変わった所のない男と評しただろう。
「近くに寄れ」
「はっ」
「お前に極秘の任務を与える。知っているのは我々と国王陛下だけだ」
「はっ」
ダークエルフの達人を除いた中では、この名も無い男こそ魔の国における最高の暗殺者であり、ダークエルフに知られるわけにはいかない作戦でも動かせる人材であった。
そしてそんな男でも極秘と言われ、関わっている者が国王陛下と目の前の情報部の長だけと知ると、流石に緊張する。
「ダークエルフの御子、ジネットと腹の子を消せ。この件に関わるのはお前ひとりだ」
「はっ」
つまりそれは、誰にも知られることなく、国からの援助や支援も無しに他国で暗殺を行えと言うものだったが、名も無い男は命令を承諾した。
内容を考えると、むしろその方が良かった。魔の国にいるダークエルフを欺くのは並大抵の事では無いのだ。
「剣の国のリガの街にいる。この転移魔具の触媒を持っていけ。私の私物だから記録のどこにもない。頼んだぞ」
「はっ。それでは」
「ああ」
余計な会話も無く、女性とお腹の子を殺すというのに、あまりに短いやり取りを終えた2人であったが、始まりが短い物であると同じく、終わりもまた一瞬であった。
◆
リガの街 ユーゴ
はん?また腕利きが転移だあ!?
一体どうなってんだよ!そろそろ出産の予定を婆さんと話したりで忙しいんだけど!
ポチ警備隊長、並びにタマ警備隊長!ちょっと見て来るから留守を頼むぞ!
「わん!」
「にゃあ」
全く。ジネット関係じゃなければいいんだが。
◆
リガの街 夜
(やはり屋敷の中が見えない…)
昼にリガの街に到着した名も無い男は、ジネットの場所を市民から確認すると、すぐにその屋敷の下見に来て屋敷の中を見ようとした。
この男の特異な能力として、目に魔力を集中すると、物体を透視して生物だけを見る事が出来た。しかし、何故かその能力はこの屋敷に通用せず、見れるのは屋敷の壁だけであった。
まだ日が明るかったためその場は一旦帰り、その後、改めて夜に暗殺をしようとやって来たわけだが、やはりこの屋敷の内部にいるジネットを確認することが出来なかった。
(時間は無い…)
男には時間が限られていた。情報部で最も凄腕の男が居ないとなれば、リガの街に長くいればいるほど、国元のダークエルフ達に嗅ぎつけられる可能性が高まるのだ。すぐにジネットを暗殺して街から離れる必要があった。
(仕方ない。行くぞ)
闇夜に紛れ、屋敷の壁を飛び越えた名も無い男であったが
「不法侵入って言葉を知ってるかい?」
(なんだと!?)
着地したのは草が生い茂る平原であり、断じて先ほどまでいた街中では無かった。
(転移!?)
「変装した単眼族の暗殺者っぽい男がうちに何の用だい?」
混乱するも、すぐに冷静さを取り戻した男は隠し持っていた短剣を右手で構え、目の前の男に切り掛かった。転移でどこかへ連れてこられた上に、正体まで見破られているのだ。殺すしかなかった。
「ちょっとは躊躇えよ」
「ぎいっ!?」
(だが仕留めた!)
膝に発生した激痛に、思わず声を漏らしてしまう名も無き男。しかし、何らかの手段で膝が破壊されたが、首筋に切りつけた短剣には確かに感触はあったと勝利を確信していた。
「わざと切られなくてもいい確認方法とか知らないかい?」
(馬鹿な!?)
聞こえるはずのない、しっかりとした言葉が上から聞こえてきた。
立つことが出来ず見上げる形で確認すると、生きているどころか血の一滴すら流れていない男が、自分を見下ろしていた。
(無念!)
明らかに自分よりも格上に無力化されたことを察した名も無き男は、奥歯に仕込んでいた毒薬を飲み込む。もしジネットが身重であるという情報が誤りであった場合、自分が敗北する可能性があると考えた名も無い男が仕込んでいた保険だった。
「ああ、ダメダメそういうの。それこそ聞きたいことがあるんだよ」
(は?)
気がつくと、確かにさっきまで喉に感じていた毒薬の熱さが消えていた。
「代わりにこっちをどうぞ」
「ぐっ」
一瞬我を失った隙に、名も無き男の口に別の薬が押し込められた。
「よーしよし。お前さんの目的は何だい?」
「だれぎゃあ゛あ゛あ゛あああああああああ!!?」
そんな事を言うはずが無いだろうと内心小馬鹿にしていた名も無き男であったが、突如体に激痛が走る。まるで、毛穴の一つ一つから急所を打たれた様な痛みが続いているのだ。体が勝手に捻じれて踊りだす。
「マジで痛いんだろうな…。ほら正直に言わないとそれが続くぞ」
「い゛あ゛あ゛あ゛あああああああ!?」
暗殺者の意地として口を閉じようとするも、肉体の制御はとっくに効かず、絶叫が喉から溢れる。しかも、これ以上ないと思われた痛みは更に加速していた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああ!!?」
「マジでおっかなくて次から買えないんだけど」
もはや限界だった。失神することも許されず、脳に針が突き刺さるような痛みまで加わり始めたのだ。
そのため…
口にしてしまった…
破滅の言葉を…
「ジネ゛ッドの゛あ゛ん゛さ゛づだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「あ゛?」
ミシ
ピキ
「ひいいいいい。ひいいいいい」
痛みから解放され、涙で顔がぐちゃぐちゃになっている名も無き男はそれどころでなかったため気がつかなかったが、見下ろしている男の足元は陥没し始め、周囲の空間がヒビ割れては元に戻るを繰り返していた。まるでナニカ巨大すぎるモノに耐え切れないように…。
「おい。利用するとかじゃなくて殺すって言ったか?今」
「ぞう゛だああああああ!!」
パリン
ついには、空間がヒビどころか完全に割れた個所が出始め、地面の陥没は周囲にまで及び始める。
「誰が命令したよ。言えやおい」
「情報部の長だ!ぎゃあ゛あ゛あ゛あああああああああ!?国王陛下もだあああああああ!」
見下ろす男に髪を掴まれて頭を上げられた名も無い男であったが、最後の意地と魔の国の国王の名前は出すまいとしたが無駄であった。痛みに我慢できず、決定的な言葉を発してしまった。
グシャリ
「ああ…そう…」
何気ないように発せられた呟きは、周囲と同じように、名も無き男が潰れて破裂した音に掻き消えて行った。
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