日常編

一段落

ユーゴ邸 ユーゴ


朝か…。

もう夜も遅いしと油断したのがいけなかった。ルーと凜が突撃してきたうえに、ルーは久しぶりだったからかかなり積極的だったし、凜は恥じらいながらとても可愛らしかった。

というか2人で来るとか仲良過ぎじゃない?


起こさないようにそっと抜け出してっと。

お風呂沸かさないと。



キュッキュ

カッ!


うむ。ブラシ2等兵今日もご苦労。休め。

今日はお前の日頃の働きを称え、勲章を授与するものである。はい、撥水加工済みのリボンね。ぺたりと貼り付けてっと。

よろしい。今日から貴官はブラシ1等兵である。今後ともよろしく頼む。


カッ!!!


うむ。見事な敬礼。直立不動だ。

お湯用の魔石をポチリと。ではブラシ1等兵、兵舎に戻ってくれ。


カッ!


うむ。



トマトか…セラの分は退けておこう。なんとか食べれるようにしているみたいだが、朝から倒れるのはマズい。


「あなた、おはようございます」


「旦那様おはようございます」


「おはよう」


朝食の支度をしているとジネットとリリアーナが浴室からやって来た。ここ数週間、俺が昼夜関係なしに祈りの国と騎士の国を行ったり来たりしていたからな。2人には俺を待たずに寝てもらうよう頼み込んでいたから、起きるのも早かったようだ。妊婦さんに深夜遅くまでとかダメ絶対。


「リンちゃんの事、無事解決したようですね」


「うん。疲れて起きるのは遅くなると思う」


「あらあら。うふふ」


俺のせいじゃないよ?ほんとだよ?

だから慈母の笑みは止めて下され。自意識過剰じゃない、絶対そういう笑みだ。


「お手伝いしますね、あなた」


「ありがとう」


最近ちょっと忙しかったから、今日は皆とゆっくりしよう。



「ジネット、リリアーナ。こっちこっち、座って」


「ふふふ。ええ」


「あらあら」


朝食も終わりリビングに入って来た2人をソファに座らして、手を握る。


「しばらく予定もないし、当分はこうやっていられると思う」


あっても本業の製作業だ。

見てろよ宿敵徴税官め、今度は知人の神の像だ。会ったことあるのは俺くらいだろう。


「うふふ。旦那様、赤ちゃんはどうなってます?」


「日に日に大きくなってるよ」


リリアーナの言葉に返事をしながら、ついお腹の方に顔をくっ付けてしまう。

ごめんね赤ちゃん。最近パパ忙しくって。


「勿論ジネットもね」


「もう」


羨ましそうにしているジネットのお腹にも顔を寄せる。

子供の成長記録残したいんだけど、ビデオカメラないかなこの世界?婆さんに聞いてみよう。無くても写真でアルバムだ。

学校は…魔法の国?伝手はあるから裏口でも余裕だ。不可抗力だが、あの爺さんが居たことも風竜が目覚めた一因だ。まさか奴を仕留めた俺の頼みを断るまい。断れないよなあ?


しかし、問題があるとすれば子供と離れ離れになる事だ…。だが、剣の国は未開領域の最前線みたいな所があるから、あんまり力入れてる余裕がないし、騎士の国はちょっと前なら候補だったが、今のゴタゴタを考えると脱落だ。うーむ。


「あなた?」


「え?ああ、ごめんごめん」


ちょっと思考が未来に飛び過ぎた。今は無事に生まれてくれるだけでいい。それもまだ先だが。


ん?

暫くそうしていたが、家の前に3人いるぞ?

ああ、がきんちょ達だ。庭も屋敷も広いから探検にはもってこいなのだろう、たまに侵入しようとしてくるのだ。


「あなた?」


「どうもがきんちょ3人衆みたい。ちょっと遊んでくるよ」


「はい、いってらっしゃい」


2人に微笑ましい顔で見送られた。よく俺に突撃してくるから、2人とも顔見知りだ。


最寄りのブラウニー2等兵!誰か絨毯に宿ってくれ!3人衆を乗せるから!箒は股間に食い込むからダメだ!こっそり試させてもらった箒2等兵は黙っておくように!


「また門の鍵開いてるよ」


「あのおっさん結構不用心だよな」


「心配」


ええい3人衆め、お前らには反応せんが色々仕込んどるんだぞこの屋敷。最高魔導士の爺さんですら、見たら青くなって周れ右するくらいの奴を。というか開いてるからって侵入しようとするんじゃない。


「こら悪ガキ共め」


「やっと着いたぞ」


「門から玄関まで広すぎだろ?」


「こんにちわ」


まあ、言わんとすることは分かる。ここに着くまで分単位というとんでもなさだ。


「って、うおすげえ!絨毯が浮いてる!」


「どうなってんだ!?」


「魔法?」


近づいて何か分かったのだろう。浮いている絨毯に興奮する3人衆。


「そら乗せてやる」


「うおおお!?」


「すげえ!?」


「ふかふか」


1人ずつ乗せてやると顔を赤くして大興奮だ。1人相変わらずマイペースだが。

さて。


「出発しまーす。行先は、えー。屋敷の周り一周でございます」


「おお!?動いた!」


「すげえ!」


「大分距離長そう」


だよな、俺も長いと思う。



「おおお!?なんでじょうろも浮いてんだ!?」


「って庭に川があるのかよ!」


「あ、箒がさぼってる」


「ブラウニーって言う妖精が宿っててな、古い家具とかお前さん達が乗ってる絨毯にも憑りついてもらってる。小川は俺もびっくりした。後、あのサボってるのは…まあ許してやろう」


普段ならブートキャンプ送りだが、こっそり乗せてもらった奴でもある。今回は許してやろう。



「じゃあなおっさん!ありがと!」


「またな!」


「ばいばい」


「気を付けて帰れよー」


一通り屋敷の庭も周って、3人衆もご帰宅だ。手を振りながら門を閉める。


「あ、あの勇吾様。おはようございます」


「おはようございますご主人様!」


「おはよう」


家に帰ると、ルーと凜が起きていた。凜の方はすごく恥ずかしそうだ。


「改めてよろしくね凜」


「は、はい!」


改めて挨拶すると、凜が可愛らしい笑顔をしてくれた。落ち着いたら少し不安になったのだろうか?


「ではお掃除の時間です!行きますよ凜ちゃん!まずはベッドです!」


「あ、ああ…」


昨夜の事を思い出したのだろう、また顔が赤くなってしまった。

寝室へ行く2人を見送り、俺も作業場に向かう。一家の大黒柱なのだ、気合を入れて作るとするか。

竜の頭を足で押さえつけて槍で刺す闘神マクシム。これでいこう。

今日もいい日だ、暫くゆっくりしよう。


神辞典


"闘神"マクシム

神々と竜との戦いにおいて、最も竜の首を上げたとされる戦神の1人。ぼさぼさの髪と白い槍を携えた姿で、絵や像で表される男神。元々は他の神とも交流があまりなく、一人己を高める変わり者と思われていた。


神々が竜の奇襲を受けると槍一本で竜達に立ち向かい、先陣を務めた竜達の長のバルと対峙。下位の竜を薙ぎ払いながら、絡みつくバルの体をものともせずに足で押さえつけ、その頭蓋を槍で突き刺した。このバルの死は竜達の行軍を大いに遅らせ、神々が撤退に成功する原因となった。

その後も戦争当初から活躍し、多くの神々を逃がすために殿を務め、神々の反撃が開始されると常に一番槍を務めた。


その獅子奮迅の活躍から神々からも多くの尊敬を勝ち取り、求道系の冒険者や修練者から信仰され、祈りの国にあるマクシムの神殿には戦士が絶えず訪れている。


ーおお輝きの槍よ 竜達が恐れるその御業 神々ですら並び立つ者なしー


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