切っ先
うふふ
ぼうや ぼうや
おなまえどうしようね?
ままもはやくあいたいわ
おい!色ボケ聖女!起きろ!
あら?じねっとさん?
あらあら?
「起きろ!胸を退けろ!」
「でも旦那様はこちらに」
今日は胸の下にいませんよ?
「私がいるだろう!聞こえているのにわざとか!」
まあ!下にジネットさんが!?
「退けますねー」
あら旦那様。おはようございます。
お腹に赤ちゃんがいるのが分かってから私とジネットさんの夜の営みは無くなりましたが、出来るだけ私達とも一緒に寝るようにしてくれている。
マタニティーブルーダメ絶対、と言ってましたがどういう意味なのかしら?
「今日も母子ともに健康でございます」
「うふふ。よかったです」
旦那様は赤ちゃんの事も見えているようだ。どういう風に見えているんだろう?
「じゃあ俺はお湯溜めて来るね」
「お願いします」
「子供が生まれたら俺って言うのはよくないか?パパ?へっへっへ」
「それなら私はママ…か。ふふ」
旦那様が自分の呼び方に考えながら浴室の方へ向かった後、それを聞いたジネットさんも笑顔になりながら自分の事を呼んでいる。
うふふ。ママですよー。
◆
「お、おはようございますリリアーナ殿」
「おはようございます!」
「おはようリンちゃん、ルーちゃん」
台所で料理しているとルーちゃんとリンちゃんが起きて来た。リンちゃんはお顔が赤いけど大丈夫かしら?
「あの、リリアーナ殿は聖女であらせられたのですか?」
「ええ先代の聖女を務めていました」
なんだかもうずっと遠い昔のように感じる。
うふふ。
「それでなんでもユーゴ殿に危うい所を助けられたとか」
「あら、ルーちゃんから聞いたのね。ええ、悪魔に襲われた所を助けてもらいました」
「旦那様カッコよかったんですよね!」
「ええ、旦那様を呼んだらすぐ来てくれたんですよ。とってもカッコよかったんですから」
あの時を思い出す。私の前に立ち魔王を相手に守ってくれたあの時を。そしてあの後…。
「街中をお姫様抱っこで帰ってきましたしね!」
「もう、ルーちゃん」
私、顔に出やすいのかしら?
そう、抱っこされながら街の中を通って神殿に帰った。皆に旦那様のお嫁さんになるって分かってもらいながら。
うふふ。
「だ、抱っこされながら…街中を」
あら。リンちゃんの顔がもっと赤くなった。少し恥ずかしかったかしら?
「おはよールー、凜ちゃん」
「おはようございます!」
「お、おはようございます…」
旦那様も来た。昔を思い出したらまた抱っこされたくなってきた。後でしてもらおう。
あらあら。リンちゃんもっと赤くなっちゃったわ。
あら?旦那様が近くに?
「きゃっ。旦那様!?」
「いやあなんだか無性に抱っこしたくなって」
もう。お料理中なのに。
思わす首に腕を巻いて胸に顔を埋めてしまう。
「ずるいです!ルーもして下さい!あと凜ちゃんにも!」
「ル、ルー!?」
「いや凜ちゃんにやったらセクハラだからねえ」
「い、いや、その嫌がってるというか、そんな事は別に…そのう」
「嫌そうじゃないでしょ?凜ちゃんお父さんがいなかったからそういうのに憧れてるみたいなんです」
「ああ…なるほど」
旦那様とルーちゃんが何か内緒話をしている。あ、旦那様の顔がすごく優しいものになった。
「それでは失礼して」
「きゃっ!?」
リンちゃんもお姫様抱っこされたけど、大人びてるけどまだ女の子なのね。随分可愛らしい声を上げている。それに顔がもっと赤くなってしまった。
「嫌じゃない?」
「は、はぃ…その男らしいというか逞しいというか、その、あうぅ」
「降ろすねー」
「あ、はい…」
旦那様もルーちゃんも微笑ましくリンちゃんを見ている。きっと私も。
「それじゃあお風呂に行くのです!」
「あ、ああ…」
ルーちゃんがリンちゃんの手をつないで出て行く。
「どうでした?」
「ル、ルー…。私、こんな…どうしたら」
「大丈夫です!足りなかった分を取ってるだけなんですから!全然おかしくありません!」
「そ、そうかな?」
「そうです!」
なにか会話しながら浴室まで行っている様だけど、旦那様は相変わらず優しい顔だ。
「それじゃあ朝食作ろうか」
はい。でもその前にもう一度抱っこしてください。
◆
祈りの国 総長執務室
「"切っ先"の居場所が分かった」
早いなおい。
ベルトルド総長の執務室に昼過ぎに来たが、もう場所が割れた奴がいる。
「連中は目立つ。見つけることだけに集中して人材を使えばそうかからん」
まあ骸骨死霊術師に2m越えの東方人、そんで"切っ先"は身の丈並みの剣を背負ってると来た。大道芸人かな?
「廃村を根城に1人でいる。連絡はどうやら"骸骨"か"7つ"の使い魔でのようだ」
まあ、混乱と争いが必要だって理由だけで手を組んでるのだろう。全員が高い位階なのだ。それこそ、隙を見せれば狙ってくるだろう。集団行動なんて無理だ。
しかしバラバラなのはめんどくさいな。
「見つけた者が転移で帰還している。彼に連れて行ってもらってくれ」
「分かりました」
さて、お仕事だ。これくらいの奴になると口を割るかなあ。
◆
「"切っ先"はあの一番大きな家の中です。御武運を」
「ありがとうございます」
転移でやって来たが、どうやら悪魔騒動の時に本殿に詰めていた守護騎士らしい。かなり俺に緊張している。いや、"切っ先"にだよね?
さて、監視なし、魔法的警報なし。が、気配の探知範囲が広いし密度も濃い。よくこいつに見つからずに帰ってこれたな。流石に守護騎士団、こっちも精鋭か。
お邪魔しまーす。
おはようございまーす。
どうやらお眠の時間だったらしい。ドッキリといこう。
むさ苦しい髭だなおい。いつからか髭生えてこなくなったんだよなあ。
ところでその2m近い剣を背負ってどうやって寝てんの?そっちに感心するわ。
口に薬をポイっと。
「!?」
流石に気が付くか。
おおすげえ。よくその剣を背中から取り回せるな。というか会話をしよう。自白薬はノーカンだ。
馬鹿みたいな剣の、これまた馬鹿みたいな切っ先が俺の胸目がけてやってくるが指先で止める。ナイスガイな服屋の店長の世話になるのも悪く無いが、いちいち替えを持ってくるのもめんどくさい。
「!?」
流石に驚いたか。心拍数上がったぞ?
「少しお話をしたくて」
自白薬はノーカンになってしまったからな。
剣を引き戻そうとするが、筋力が足りんよ筋力が。
しゃあない。
ヒョボッ
「ぎっ!?」
拳を"切っ先"の手足に当てて寝転んでもらう。しかし呻き声一つだけか、口割らんかもなあ。
「ご就寝中に申し訳ない。少しお仲間の事について尋ねたくて」
「…」
こいつが寝ていたベッドに腰かけて尋ねるが、ダメだなこりゃ。一応試すが手足が折れても何とかして俺を殺そうとしている。位階が上がると精神もタフになる奴が多いからやっぱりめんどくさい。
「はーい、お口開けてくださいねー」
◆
効いたよ。
婆さん何原料に使ってんだ?怖くて次から買えないんだけど。そりゃ、あれを使われた奴は可哀そうだとか言うはずだわ。
しかし、やっぱりお互い不干渉とのことで使い魔を使っている"骸骨"と"7つ"以外、それぞれ場所を知らんらしい。やっぱりめんどくさい。
あ、守護騎士さんお疲れ様です。遺体はそのままなんで確認のため持ち帰って下さい。
あー、"骸骨"と"7つ"の場所割れんかなあ。そうしたら芋づる式に全員なんだけど。"拳死"とか一番要らねえからな。
◆
総長執務室
「感謝する。それと"拳死"らしき奴の目撃情報が入った。遠からず割れると思う」
知ってたよ、クソ
◆
人物事典
ハロルド:最優先抹殺対象 国家脅威度中 個人戦闘力【特別最大評価】
人間種、身長180cm、肌の色白、瞳の色青、毛髪茶、常に身の丈ほどの大剣を背負っており判別は容易。似顔絵は別紙。
"切っ先"のハロルドを発見または、それに準ずる有力な情報を入手した場合、即座に帰還し総長に報告すること。万が一戦闘に発展した場合、すぐさま撤退。不可能な場合情報を残す事。
騎士の国の勇者2名と3名の特級冒険者を同時に相手取り全員を殺害したことで名を上げており、戦闘力の評価では特別の評価を下している。また、この際の戦闘での彼らの死因は全て刺突であったことが二つ名の異名となっている。
現在は、"7つ"、"骸骨"、"拳死"、"蜘蛛"と行動を共にしており、最優先での対処が必要である。
総長からの追記
殺害済み
検死官からの報告
ー胸から背に掛けて大きな穴が開いており即死だと思われるー
ーははは!貴様の鍛え上げられた技による切っ先は、そこらの枝の切れっ端より劣ったぞ!-
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