屋敷へ帰宅
リガの街 商店街
「その…ルー殿…でしたか?」
「はい!どなたか探してらっしゃったみたいですけど?」
「え、ええ、、この人物を」
「どれどれ?」
突然ルーと名乗った少女に凜は困惑していた。男からは何度もあったが、同性から声を掛けられた上にどんどんと話を進められたのは初めてだったのだ。
「東方の人ですか?うーんルーは見たことないですけど、ひょっとしたらご主人様は見たことあるかもです」
「な、なに!?貴女の主人とやらはどこに!?」
「さっきふらっとどこかへ」
「どういうことなんだ!?」
「この人とどんな関係です?」
「私の父と母の仇だ!」
(しまった!母上ごめんなさい!いや、間違いではないか)
思わせぶりな事を匂わせておいて肩透かしさせるような言葉に凜の血圧が上がり、つい写真の相手が自分の仇であることまで言ってしまう。その上、思わず母まで含んでしまったが、彼女の母の心労を考えたらあながち間違いでは無いだろう。
「お父さんとお母さんの仇ですか…へー……東方からです?…」
「ああ、海を渡って来た。後、まあその、母は間接的だが…」
律儀に修正するあたり、彼女の真面目さが伝わる。
「…それなら猶更ご主人様を頼るといいかもです!」
「だからのその主人とやらは…」
「ごめんねルーおまたせー」
(黒髪黒目、同郷だ。この男がユーゴ?)
そうこう言っている間に、道の奥から男が声を出しながら出て来た。
恐らくこの男性がその主人とやらだろうが、街で聞いた同郷の男であることに凜は驚いた。
「あ、ご主人様お帰りなさい!」
「ただいまー。こちらの女性は?」
「お困りのようだったので声を掛けてですね」
「凜と申します。いきなり失礼ですが、この男に心当たりはありませんか?」
(水草の名前は有名すぎる。黙っておこう)
故郷では知らぬ者無き名前を出すと面倒なことになると考えていたため、大陸では姓を名乗っていなかった。
「これはこれは、ユーゴと申します。彼女、ルーの旦那です。どれ、拝見します…」
(夫なのか?ご主人様?彼女、私よりも若いのでは…)
歳のわりに大人っぽく見える凜に対して、ルーは明らかに幼い容姿であり2人の関係性を邪推してしまう。
「失礼ですがこの男とどのような関係で?」
「ご両親の敵討ちだそうです。1人で海を渡って知らない土地にです」
「両親の…仇?…ここまで?」
「大声で喋った私が悪いのですが、仇の相手を調べて回っていると噂が流れるとやりずらくなるので、どうかあまり話さないで頂きたいです。あと母上の方はその心労が祟っての事で間接的でして…。して、心当たりはありませんか?」
東方出身が人を探して回っていると、仇を探し回っているでは噂になる速さは全く違うと考えていた凜は、出来ればその事を声に出してほしくなかった。血圧が上がって喋ってしまったのは凜であったが。
ついでに言うと彼女は母に愛情深くだったものの、そこそこ厳しく育てられたので嘘つきは地獄で舌を抜かれると最近まで真剣に思っていた。そのせいで、何度も訂正をする。
「……」
「ユーゴ殿?」
「あ、ああ、失礼しました。この男、業魔と名乗っていませんか?」
「業魔!?そうです!奴めこっちでもそのまま名乗っているのか!奴は一体どこに!?」
追われるのに嫌気がさして大陸に渡ったと考えていた凜であったが、大陸でも同じ名を名乗っていることに対して歯噛みしながらユーゴに詳細をねだる。
「お礼参りを気にして…ごほん。すいません手配書をよく読んでてそれで、私もどこにいるかまでは…伝手を頼らねばなりせん。一度私の屋敷に来てください。私も思う事があって直ぐに聞きに行きますので」
「おお!ありがとうございます!お手数おかけしますがどうかよろしくお願いします!」
「いえいえ。最後に本当に失礼なのですが、御年齢を教えて頂けませんか?」
「?ついこの間成人し20になったばかりですが?」
「…」
「あの?」
「失礼しました。どうぞこちらへ、案内します」
(なんという幸運!知っているばかりか伝手まであるとは!)
「旦那様がいてよかったですね凜さん!」
「ああ!ありがとうルー殿!」
凜は自分に声を掛けて、ユーゴと引き合わせてくれたルーに心底感謝していた。
◆
敵討ち?
20歳になったばかりで??
両親の????
1人で?????????????
何の縁も所縁もない土地に来て?????????????
それはいかんだろう
◆
「ようこそ我が家へ」
「いらっしゃいませ!」
「お、お邪魔します」
(なんと大きなお屋敷なのだ)
ユーゴに連れられ門をくぐった凜であるが、招かれた屋敷の大きさに度肝を抜かれた。庭も考えたら、名門と呼ばれた実家の敷地全部を合わせたよりも大きいかもしれないほどだったのだ。
庭園に植えられた咲き誇る花々と、その間を飛ぶ蝶とじょうろを横目に屋敷へ近づく。
(ん?じょうろ?)
「ただいまー。さあ、どうぞ凜さん」
「ただいまなのです!」
「お帰りなさいませ。ユーゴ様こちらの方は?」
(侍女?この人は一体?商人なのか?)
一瞬奇妙な物が視界に移ったが、玄関の扉を開いた先にいた侍女に目を奪われる。人形の様な端正な顔をしているが、話している間表情に全く変化がなかった。
それに侍女がいる事に、ユーゴの正体が益々分からなくなった凜であった。
「アリー、こちらは凜さん」
「そういえば凜ちゃん、どこかに泊まってます?」
「え、あ、そのう…持ち合わせが…」
「帰る場所がないじゃないですか。野宿するつもりなんですか?」
「ああ、いや、そのう」
「………それなら是非うちに泊まって下さい。伝手を頼りますが、いつになるか分かりませんし」
「わあ!歓迎しますよ凜ちゃん!」
「よろしいのですか!?」
「ええ勿論。アリー、客室は使える?」
「勿論です」
「何から何までありがとうございます!」
(た、助かった!本当にありがたい!)
はっきりと懐事情が厳しい凜にとってルーが宿の事を聞いてくれたのは福音そのものであり、情けない気持ちもあったがそれどころではない手前まで来ていた。
それにどうやらルーも乗り気の様であったのも助かった。出会って一日と経っていなかったが、自分の事を親身になって声を掛けてくれたルーに対して、友情の様なものを感じていたのだ。
当然ユーゴに対してはそれ以上の感謝の念も。
「おお、だんな様。お帰りなさいなのじゃ」
「ただいまセラ」
(ルー殿以上に幼いぞ!?)
感謝の念は抱いたが、奥から出て来た少女が旦那様と呼んでいるのを聞き、ひょっとしてそういう趣味の人なんじゃないかとの疑いもますます強まったが。
「あなた、ルーお帰りなさい」
「お帰りなさい旦那様、ルーちゃん」
「ただいまジネット、リリアーナ」
(まだいるのか!?ひょっとして私危ない所へ!?)
「さあ、凜ちゃんこっちなのですよ!」
「あ、ちょっと!?ルー殿!?」
少し身の危険を感じた凜であったが、ルーが強引に屋敷の中へ連れていく。
「ルーちゃんその人は?」
「後でちゃんと説明しますね!」
「お客さんなんだ。暫く泊まってもらうよ。それとちょっとまた出かけるね。そんなに遅くはならないはずだから」
「分かりました。行ってらっしゃいあなた」
「これから凜ちゃんのお部屋になる場所を案内しますね!」
(こ、これからどうなるんだ!?)
ルーに手を引かれながら屋敷の奥へ奥へと誘われ、想像だにしなかった展開に混乱する凜であった。
◆
後はどうとでもできる
◆
ー化け物と何の関係がないにも関わらず1人の妖魔の死が決定された。全くあずかり知らぬ所であったが、化け物の神経を逆なでしすぎたのだー
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