幕間 蠢く者 企む者 潜む者 恐れる者 恐るべきモノ

人里離れた廃教会の暗がりに複数の男女の姿があった。


「ようやく大陸が荒れそうになってるけどどうするの?」


「知れた事、種火を守り大火にする。我々の位階を上げるには更なる大火、更なる争いが必要だ」


「そうとも。今のままでは殺し過ぎると目立つ。単なる人を殺すだけでは微々たる強化だが、戦争となれば塵も積もればだ。それに強者もいるだろう」


「ほっほっほ。お主等効率が悪いのう。儂の様に死霊術を使えれば魂も活用できるというのに、死んだ瞬間の魔力しか取り込めんとは」


「うるさいわね骸骨ジジイ。私は私のやり方で"8つ目"に到達するのよ」


「お喋りは終わりだ。騎士の国に入り焚きつける。行くぞ」


共通点があった。

皆、祈りの国の最優先抹殺対象であるという共通点が…。



???


明かりも灯らぬ部屋に、数人の男女が円卓に座っていた。年頃は様々で、年老いた者もいれば、子供の様な見た目の者まで様々であった。


「騎士の国と魔法の国に何があったか、大体の事は分かって来た。6つ相当の魔法も効かん大蛇の化け物とやりあったせいらしい」


「それほんとに蛇か?神話にいた竜とかじゃ?」


「冗談はおよし。竜が本当に実在したなら儂等は生まれてもおらんよ」


「夢がねえ婆さんだ」


「話を戻すぞ。その蛇が何故か死んでいた事、これは気にはなるが我々には関係ない」


「え?そんな化け物が死んでたんですか?」


「そうだ。千切れた尻尾だけがあったそうだ。話を戻すぞ、次は誰も口を挟むな。これによって騎士の国が揺るいでいる。多くの戦死者と勇者の死亡、次いで軍大臣の処刑。軍大臣については何があったか分からんが…。ともかく王権が揺らいでいるのだ、付け入る隙がある」


「そんじゃやるのか?」


「やる。騎士の国がこれ以上勢力を伸ばすと、人間種の勢力が大きくなりすぎる。削がねば必ず魔の国に手を伸ばそうとするだろう。魔法の国を挟んでいるが、今回の一件で思ったより頼りにならないことが分かった。混乱している今しかない」


「国王を暗殺するんですか?無理なんじゃ?」


「心当たりが1人いる。ダークエルフの凄腕だ。連絡を取る」


「ほほう、お主が凄腕とまで言うか」


「ああ、魔の国から離れているが、場所は分かっている。上手くいくか分からんが、未熟者の妹がいるからそいつを利用する。そいつを頷かせた後に騎士の国に再び入る。異存は?…無い様だな。では解散」


角の生えた者から、目が三つある者など様々な者達が席を立っていくが、話を進めていた男は褐色の肌に銀の髪を持つ男であった。



◆◆

地下深く


「ふっふっふ。いい、いいぞ。大蛇とやらが暴れてくれたおかげで、我らが神も刺激された」


「はい竜司祭様」


「これで忌々しき神々と、地上を這う鱗無き者どもを抹殺して、我々が再び地上に舞い戻るのだ」


一見2足歩行している人型だが、良く見ると体には鱗がびっしりとあり尻尾もある。そして顔は、蜥蜴の様な、鰐の様な顔であった。…あるいは…


「もう少し…もう少しで目覚められる。我らが神、竜よ!」


司祭が見上げる先には、大きな大きな鱗の塊が少しずつ動いているように見えた。



魔法の国 最高魔導士執務室


かなり広い執務室にも関わらず、部屋中に置かれた本や何か分からない魔道具も幾つかあるため、狭く感じる執務室に魔法の国における最高の地位、最高魔導士の肩書を持つ老魔法使いエベレッドが今回の大蛇騒動の被害と騎士の国に混乱が予想されるとの報告書を見ていた。


「頭が痛い」


「はい。これほどの被害に魔法が効かぬ生物がいるとは…それに連絡が」


「それもあるな…この騒動、儂に連絡無しじゃったのよなあ。耳に入ってたら他のやりようもあったんじゃがなあ。まあ、竜なんぞが出てこなかっただけマシかの」


「竜…ですか…?実在するのですか?」


目を瞑りながら椅子に深く座るエベレッドと、隣の秘書が会話をしていた。


「おるとも。神々もな。まあ、儂くらい歳を取っていたらそういう経験くらいある。見たり出くわしたり」


「なんとまあ、その時はどうされたのです?」


「うむ。こりゃいかんと逃げ出した。無理無理あんなの」


「エベレッド様でも…。ということはその竜は今も?」


「いや…」


老魔法使いは昔を思いだす。

あの天を思いのままに操った風の怪物が、更なる"怪物"に叩き落された光景を…。


「そういえばさきほど、他にも頭痛の種があるようなことを」


黙り込んだエベレッドに気を使って別の話題を出す秘書であったが、それもエベレッドが黙り込んでしまった原因が遠回りに絡んでいた。


「…うむ。こういう荒れた時代には色々噴出するんじゃよ…。機と見てな。不満やら野心やらが。今回の一件、そうならなければいいが…」


「なるほど」


(そうなると出て来るんじゃよなあ…あの男が…。昔の様にあの男が大陸中を駆け回るような事態になって欲しくないんじゃが…。儂の胃と地図職人のためにも。いらんことして出くわした奴は知らん。大人しくぶっ飛ばされるといい)


竜が叩き落された地点がどうなったかを思い出しながら、エベレッドは独り言ちる。




「名前…名前…。男の子用と女の子用を2つずつ…。いやわかってからでいいか?」


今日も平和である。



◆◆ ◆

今日のやらかし


空を飛んでいる竜を叩き落そうと両手を合わせて振り下ろすと、竜が爆散。そのまま空気の塊と飛び散った強固な体の一部が地上に激突し、巨大なクレーターを作ることとなった。


魔物辞典

"大竜巻"、"風竜":ハリ

東部の未開領域山岳地帯にて休眠状態であったが、当時個人的に周囲を調査していた最高魔導士エベレッドの膨大な魔力を感知し覚醒。緑の体色、発達した翼が特徴で、戦争時はその渦巻く魔力で作り出した竜巻によって何人も触れさせることがなかった。

辺り一面に複数の大竜巻を作りながら空へ飛翔するも、大地へと叩きつけられバラバラになってしまう。屍の一部はエベレットが交渉し持ち帰る。

「いやあ、あれは凄かったの。肉片だらけじゃったもの。後、クレーター」最高魔導士エベレッド



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