第20話 旅立の前に
早朝。
細剣を抜き放ち構えると金色の風弾と化したエリスが突っ込んできた。エリスが持つのはどこかで見た透明な長剣である。まるで水晶にような透明さでもありながらもとてつもない強さを秘めているようにも見える。ソレをギリギリのタイミングで逸らすとエリスはその場で剣を振り回し動きを制御する。
「〈パイクー」
その隙を見逃さないように細剣を鋭く突き刺すように繰り出しながら声を上げる。
「〈トライ・スラッシュ〉」
ただそれもエリスの計算であったようで正三角形を描くかのような斬撃をギリギリ躱す。
つい数週間前まではこれで決着が付いていたのだが此処最近では今のでは仕留められていない。そんなエリスの成長を感じながらも唱える。
「《雷槍よ》」
細剣に魔力を集めて術式を練り上げる。流石は
「えっ……《輝きよ・」
一瞬可愛らしい声が漏れるも即座に戦闘モードに戻り打ち消そうとしてくる。ただしそれはやはりエリスの本分では無いので術式展開が遥かに遅い。
「《踊れ》」
細剣を中心とした周囲に7つの雷槍が浮かび放たれる。
黒魔術《サンダー・ピアス》の七同時起動。それは絶技《セプテントリオン》と謳われるものでもある。
「ついでにだ。《
なんでも無いように俺はエリスの展開した対抗魔術を霧散させる。エリスが展開しようとした術式を寸座に練り上げ叩き潰したのだ。
「なら〈魔払いの道〉」
エリスはだらりと剣を構えたかと思うと流れるように動き出し雷槍を剣で切り裂いていく。ここ数日でエリスが身に着けた
ただそれもエリスが【先導者】であることを知られていたらあまり意味のないことだ。なにせそれは習得こそはかなり早いものだし俺の【救世主】の中にも既に内包されている。故に癖は知り尽くしている。
「《爆ぜろ》《謡え》《凍てつけ》」
複数の炎球が無数の音響波が横殴りの吹雪が吹き荒れる。それは前方引いてはエリス周辺全てを対象とした広域攻撃の魔術である。
「くっ!〔障壁〕」
エリスが剣を地面に突き刺すと3m大の水晶の障壁がせせり上がり全ての攻撃を阻む。その上で攻撃衝撃の全てを魔力へと変換している。
「〈ロックバースト〉」
バスケットボール大の岩が出現し爆発し無数の破片が散弾みたく障壁を襲う。一瞬だけ傷つくもそれらは瞬く間に修復していく。そしてその度に障壁は強くなっていく。
「《
「〈マナ・ファランクス〉」
水晶の障壁が段々とマナに変換され正六角の魔力障壁となる。全てを押し止める魔力と水晶の障壁に阻まれ雷槍は霧散する。
「「〈クリムゾン・スフィア〉」」
互いに最大火力の【賢者】の技をぶつけ合う。俺の【封印神】【賢者】【救世主】の3つの
そのほんの刹那の間に腰のベルトに携えた銃を抜きつつも発砲する。ただそれはエリスもしていたらしく中央で甲高い金属音が響き潰れる。そして紅球同士がぶつかり合い周囲に爆風をまき散らす。そしてその爆風に互いに巻き込まれてウィーーンと音がする。
「お疲れ様です。お姉さまに新一さま」
ミリアちゃんが水筒とタオルを渡してくれたので汗を拭い水分補給する。
「俺が【封印神】【賢者】【救世主】【騎士】【魔法士】【魔銃士】でエリスが【先導者】【賢者】【魔法士】【騎士】【斥候】【隠密】【冒険家】だよな」
「ええ。【先導者】がもう少し上がると組み替えようと思ってるうわ」
こう考えると
「《コロッセオ》か。ここのは経験値は残るんだな」
先ほどまでエリスと戦っていた場所を見ながらぼやく。知っている決闘場だと経験値は残らないのでコッチの方が便利だ。いや決闘場の場合は時が戻されているという方が正しいのか。
「ええ。ここ以外では決闘都市ゾロアスくらいですね」
なんか永遠と火でも焚いていそうな場所だな。いや確か。
「陽光の騎士の国だよな」
初代【
また世界を救った功績として複数の国から土地を下賜され建国された国がアポロディアス陽公国でありその第二の都であり有名観光地でもあるのがゾロアスである。
「はい。彼についても様々な噂がありますが原初の英雄として祀られています」
「まさかな。まあ【勇者】一行は行くだろゾロアスには」
「ええ。あの都市は鉱山都市でもありますし様々な武器防具が手に入ります。幸にして我が国では彼に下賜可能な聖剣が複数存在したので既に2本は彼のもとに。〈聖剣召喚〉も合わせて3本使えますがスピードファイターの【勇者】は珍しいので」
「聖鎧か。確かにアイツには似合わんな」
「新一さんも鎧ですか?」
「いんや。俺はローブで充分だわ。2人が縫ってくれたんだろ?」
全身が黒く幾つものポケットはアイテムボックスと化していたり試験管ホルダーにリボルバーの弾倉のホルスターもある。また防刃・防弾性能も良く気配遮断効果もあるとのこと。
「うん。力作」
「まあ、新一さんも【勇者】一行ですから」
流石に前回までの装備は使えないんだよね。アレは差し違えてでも殺すって感じの為に自力製作したオーダーメイドだし。
「感謝してるぞ。礼がまだだったか」
無限収納の中身を思い出し丁度良いのを取り出した。
アミュレット2つとメガネに黄金の靴である。靴というかブーツに近いが性能は部分的にはとはいえども聖鎧を遥かに凌駕するものだ。
「アミュレットは異物排除と自動回復に魔力タンク。そして同系統アミュレット装備者との相互念話だな。距離は一応無制限。通信できん場合もあるけど」
「ソレだけでもとんでもない代物ですけど」
「うん。私も見たことがない」
「オリジナルだからな。メガネはミリアちゃんに。効果は叡智の導。色々と使えるはず。で靴はエリスに。飛翔効果持ちで移動速度や時間は装備者の魔力や敏捷に依存する。魔法金属複合製だけど表面にオリハルコンメッキだから強度は折り紙付き」
「凄いステータスも見える。これは便利」
メガネは普通の黒縁かつ丸眼鏡だがミリアちゃんには似合っている。なんかこのまま成長すれば委員長みたいになりそう。
「これ軽いわね。格闘戦でも使えそう」
「【先導者】のセリフかよそれ。まあ運動性があるから良いけどさ。そう言えば明日からは」
「ええ。【勇者】一行と合流して迷宮攻略ですね」
世界でも有数な未踏破ダンジョンの1つ。
《霊魔の煌窟》
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