第46話

 俺は静かにゆっくりと椅子に腰掛け、目をつぶり今までの熊倉さんとの特訓や、みんなの言葉を思い出していた。


『オマエ モ ゲーマー ナラ コノ 100エン デ イキノコレ』


 ああ、生き残ってやるよ。


 カルロ、お前を倒してな。


『絶対優勝して全国行って世界一になってください! 俺応援してるっす!』


 任せろよ。


『勝ちへのパターンが同じことがたまにない? 勝ったからそのやり方だけを安定した戦いと思ってない?』


 大丈夫だよ、志穂。


 変えてきた、小さな変化から初めて熊倉さんとの特訓以外で色々と変えてきたよ。


『ハイレベルな格闘ゲームのセンス、そう言わば格闘ゲームへのハイセンスをお前が持っているかもしれないのにここでコンテニューせずにゲームオーバーか?』


 真柴さん、俺は今まさにそのコンテニューする時だよ。


 ゲームオーバーなんかしない。


 クリアする。


『これから会得する技術は攻めの為の守りと守りの為の攻めだ』


 熊倉さん、ありがとう。


 カルロ戦までに使ってきたよ。


『世の中って何だよ! 俺たちが大人になったら世の中が変わっていくことだってあるじゃんか!』


 大槍、そうかもな。


 わずかだけど、世の中の出来事からしたら些細な一瞬の出来事かもしれないが、俺とカルロのこの対決の瞬間だけでも少しずつ変化していくのかもな。


『そうウルフォ4に限らず、間合いは格闘ゲームでは駆け引きにもなっている』


 そう、その通りだよ。


 守りながら相手の隙を見て攻撃していくんだ。


『俺は、何かに本気になれない』


 今が、今がその本気になるかならないかの時じゃねぇのか?


 今間違いなく、俺は本気だぜ。


 全ての言葉を思い出し、目を開けると会場はちょうど開始されたようだ。


「では皆様! いよいよ全国ランキングトップのメアリー・カルロ選手と今大会の優勝者苺大将選手の最後の戦いです! チャンピオン防衛か? 新たなる世界一のプレイヤーの誕生か? 今始まります!」







 俺はゆっくりと椅子に座り、いつものように右手でレバーを持ち、ボタンをいつでも打てるように左手のみで近づけた。


 長い、長い時間だった。


 最強をかけて、今のこの瞬間のために俺はいる。


 始めよう。


 俺とお前の至高の戦いを。


 1ラウンドが始まった。


 お互いじりじりと距離を始まったばかりのラウンドの距離をとっている。


 お互いのキャラクターが離れたところで、カルロが一瞬で入力した必殺技を放ち、俺もほぼ同じ早さで入力した必殺技を放ち、お互いダメージを受けずにゲージを貯める。


 カルロのキャラクターがジャンプして蹴りを浴びせるもガードされる。


 またお互いのキャラクターが離れたところで、俺は一瞬で入力して必殺技を放ち、カルロも同じくらいのスピードで入力した必殺技でお互いダメージを受けずにゲージを貯める。


 カルロが瞬時に入力した必殺技で俺のキャラクターに近づいたが、俺のキャラクターが下蹴りを入れるも、ブロッキングされた。


 じれったい感じだな。


 俺の次の行動を読んでいるのか?


 お互いジャンプして俺のキャラクターの弱パンチが当たる。


 そのまま降りて俺のキャラクターが一瞬でコマンドを入力し、必殺技を使うがガードされる。


 入力の早さもそうだが、それにもまして良い対応だ、やはりカルロは強い。


 カルロのキャラクターが一瞬で必殺技をかますが、距離が足りなくて外れる。


 その隙をついて俺のキャラクターが中パンチを命中させる。


 間合いの基礎が一瞬だが、忘れているのかもしれない。


 カルロの場合は間合いの基礎について……気がついていない……そこに隙があるはずだ。


 カルロのキャラクターがダッシュして下蹴りをするが、俺はしゃがんでガードする。


 お互いジャンプし攻撃を始めようとするが、俺のキャラクターが強パンチでカルロのキャラクターを吹っ飛ばす。


 そのままお互い距離をとりながら弱パンチと必殺技でゲージを貯める。


 またけん制とゲージ貯めか


 このカルロのキャラクターはゲージが他のキャラより長いから、仕方ないと言えば仕方ない行動だろう。


 だが俺の場合はカルロのこのキャラクターより短い。


 そこに余裕が生まれる。


 接近したカルロのキャラクターが下蹴りをした瞬間に俺のキャラクターがジャンプして中キックを当てる。


 ダウンすることなくカルロのキャラクターが下蹴りで、俺のキャラクターにダメージをわずかに与える。


 ここまでカルロのキャラクターの体力は6割で俺のキャラクターは9割だ。


 ここまで通常技で戦っている。


 俺はともかくカルロはこのラウンドの前半は必殺技をあまり使わない戦法なんだろうか?


 俺のキャラクターが弱パンチ2発をそのままカルロのキャラクターに与え、次に強パンチを押した。


 カルロのキャラクターが一瞬で入力した必殺技で、先にダメージを貰い吹っ飛ばされる。


 ダウンしたところをカルロのキャラクターがジャンプして接近する。


 そして起き上がりと同時にカルロのキャラクターは俺のキャラクターに下蹴りを命中させる。


 そのまま追撃をしようとするので俺のキャラクターがしゃがみ強キックでダメージを与えた。


 ダウンしたカルロのキャラクターが起き上がると同時に俺のキャラクターが一瞬で入力した必殺技を出して防御する隙を与えずに命中させる。


 俺もカルロもお互いにタイミングも完璧だ。


 そして画面をちゃんと見ている。


 1フレームの動きが読み合いでコマンド入力出来て対応している。


 必殺技を喰らったカルロだがキャラクターが起き上がり、けん制も込めて下蹴りを放つ。


 だが俺のキャラクターにガードされ、同じく下蹴りでカルロのキャラクターにダメージを与える。


 そのまま俺のキャラクターが強パンチを押してダメージを与えるが、中キックボタンを押した後でカルロのキャラクターが必殺技を使う。


 俺のキャラクターにカルロが入力した必殺技が命中して、俺のキャラクターがジャンプして後退する。


 ダウンしなかっただけ儲けたな。


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