第11話 最初に歌う人

「まあ、そうだな」

 握った手からは、何も感じられない。寂しさ。怖さ。緊張。その全てが、ない。

「握ってるから分かるんでしょ。私が何考えてるか」

「何も考えてないな」

「正解」

 握った手を、彼女が振り回す。

「おまえ、何歳なんだ。高二ってのは分かるけども」

「わかんない。たぶん成人してると思う」

「そうか」

 とても、つらい。

 成人していて、高校二年の課題を苦心して解いてて、そして、感情がない。

 しかし、このつらさも、自分が感じているだけ。繋いだ手の先は、無。

「あ、お?」

「なんだ?」

「なんだろうこれ、え、あれ?」

 彼女が、急に泣き出す。

「うえ、え、え?」

 何かにびっくりしている。喉の動き。おかしい。

「おい。どうした」

 手を離して、彼女の首と額に手を当てる。触れる場所は、口と腹に近いほど分かりやすくなる。

「うわあぐ」

 彼女。更に不安定になる。

 呼吸。目の動き。

 もしかして。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る