第8話 最初に歌う人

 部屋を出た。

「なんなんですか、あれは」

 長い髪を束ねているマネージャに、声をかける。眼鏡。綺麗な顔に、沈んだ目。そして大きめの隈。

「この世界が生んだ、どうしようもなく、かなしい化け物です」

 寂しいという感情。それだけじゃない。心の均衡が取れ過ぎていて、緊張したり高揚したりしないのだろう。

「私にできることは、芸能界に入れて、なるべく近い感性の人間を探すことだけでした。普通の場所では生きられない」

 感情がないから、おそらく学校ではいじめられるだろう。それだけならいい。犯罪に巻き込まれて大変なことになっても、おそらく何も感じない。

「こわいな」

「それでも、どうかお願いします。たまにでもいい。彼女に会っていただけないでしょうか」

 マネージャ。頭を下げる。長い髪が、ばさっと下りる。

「顔をあげてください。そもそもなんで俺が」

「あの子が、曲を聴いてたんです。何にも興味を持たない子が」

 自分の歌に。

 発声も曲もトークもだめな、自分の歌を。

「わかりました」

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