第5話 本名
「おい」
「きゃああ」
誰か入ってきた。
「いやおまえ、こんなところに住んでるのか。すごいな」
「あ、今日の、最後のほうに歌った人間さん」
「あ、ああ。そうだな。おまえより後だった」
とりあえず通信機器の電源を入れた。
「通報しますね」
「なんで」
「入ってきた。女の子の部屋に。不法侵入」
「マネージャの許可は得てるけど」
「は?」
「芸名に関することだって言ったら通してくれたけど」
「あ、そうですか」
怒る気もなくなってしまった。この人が入ってくるのも、避けられない流れなんだろう。
「で、なんですか。私にどうしろと」
「いや、どうもこうもないが。こんな部屋に一人でいて、さびしくないのか?」
さびしい。
「生まれたときからひとりなので、さびしいってのがよくわかんないですけど」
「は?」
「さびしいって何?」
「いやおまえ、両親とかさ」
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