第379話 屋敷をご案内
今現在俺たちが拠点としている場所には建物が四つできている。
俺たちの家と、ヒノマルの本拠地に、使用人たちが住む寮の他にあるのはダンジョンの出入り口用の建物だ。
最初は俺たちの家の地下にダンジョン出入り口があったけど、それだと他の街からヒノマル本拠地へ行きたいだけの人も、俺たちの家を通る必要があって煩わしかったからだ。
ダンジョンの入り口に入れば、ヒノマルの各拠点へとつながる扉が並ぶ階層へと行くことができる。この大陸を縮小したような形のドーム型をしており、およそ百メートル四方のフロアに各地へと繋がる扉が存在している。
大陸の中央から南東部にかけては各拠点に繋がる扉がそこそこあるが、それ以外の地域はまばらになっている。もともと本拠地があったフェアリィバレイは大陸の南東部にあるため、そこから離れるほど下部組織は浸透していないのだ。
拠点以外に臨時で作った扉もあるが、この中に本来のダンジョンへつながる扉は存在していない。なので、今回雇い入れた奴隷たちは全員、他の拠点にも移動ができるように権限を付けた鍵を渡している。
鍵を奪われて利用されても困るので、鍵に本人の魔力を登録して他者が使えないようにしてある。
「ここがシュウ様たちの屋敷になります」
奴隷たちを連れて本拠地を出ると、メサリアさんに代わって俺たちの家を案内するエルが目の前にある家を指し示す。
「あれがあなたたちが寝泊まりする寮になります」
そして屋敷と渡り廊下で繋がっている隣の建物を指さす。
「え? あれが寮なのですか?」
執事のセバスチャンが驚くのも無理はないかもしれない。大きさだけなら俺たちの家と遜色はないからだ。三階建ての立派なアパートになっていて、各階には十二の部屋がある。地下には食堂と共用風呂も用意されていて、寮専用の管理人も置かれる予定だ。
「ええ。あちらは後で案内するとして、まずはシュウ様の屋敷です」
「わ、わかりました」
戸惑う執事に目を丸くするメイド。料理人は表情を変えていないが、庭師は何も手入れされていないどころか、どこまでが庭かわからない家の周囲を見て困惑の表情だ。
庭師のためにも早急に家の敷地がどこまでなのか分かるように、壁を作ったほうがいいのかもしれない。近くに危険な魔物がいないからって後回しにしすぎたか。
エルに先導されて付いていくと、その後ろを執事たちが付いてくる。
「ここが玄関になります」
大きめの外開きの扉を開くと、なんということでしょう。
三階まで吹き抜けの大きな玄関ホールが現れたではありませんか。
天井には大きなガラスがはめ込まれていて、陽光に照らされた玄関ホールが照明も付けていないのに輝いて見えます。
「うわぁ……」
「すごい……!」
「素敵!」
誰かが漏らした感嘆の言葉に、なんだか嬉しい気持ちが湧いてくる。今まで野営用ハウスを見た人間からは、文句を言われることが多かったせいだろうか。
広い玄関ホールの左手に、手前から奥に向かって登りの階段が設置されている。上がった二階の、玄関ホールを見下ろせる廊下を右手へ進むと、三階へと続く階段が奥から手前に伸びている。
「まずは一階から行きましょう」
玄関ホールの奥には左右へと続く廊下があり、エルはその廊下を左へと進んでいく。
「左手にあるのが厨房と食堂で、右手に大浴場があります」
料理人として働くことになるフランクとレイチェルが興味深そうに目を輝かせている。エルが扉を開けて中に入ると、壁にある照明のスイッチを入れる。
そこに現れたのは自重を一切投げ捨てた厨房だった。IHコンロが設置されているのはもちろん、電子レンジや大型オーブンに冷蔵庫などありとあらゆる電化製品が設置されている。
「す、すごい魔道具の数ですね……」
家電製品は魔道具ではないが説明してもわからないだろうし、実際に魔道具も置いてあるので訂正しなくてもいいかな。
「そしてこれが食糧庫替わりの収納カバンです」
厨房の一番後ろにずらっと並ぶ蓋つきのケースを指し示すエル。どんな種類の食材が入っているのかが蓋に書かれていてわかりやすい。十数個も置いてあると壮観という気もするけど。保存するなら収納カバン、冷やしたいなら冷蔵庫といった使い分けだ。
エルが使いやすいように仕分けしていたものがここに設置されているようだ。
「使い方はまた教えるので次に行きましょう」
目を白黒させる使用人たちをスルーして次々に家の設備を案内していくエル。大浴場や掃除洗濯周りの設備にはメイドたちが興奮していたが、それに反して庭を整備する道具が少なかったことに、庭師のサムエルが耳を垂れて残念そうにしていた。
うん、今度ホームセンターに行って一式揃えてこようか。一時期街を拠点にしてたけど庭は適当だったし、そっち系の設備はほとんど揃っていないのだ。
ニルも含めて仲間たちの一人部屋を作ってあり、使うかどうかわからない執務室なども案内していく。地下には工房などもあったが、ほぼ魔法でなんとかしてしまうので工房らしい設備は皆無だ。
「ひとつお伺いしたいことがあるのですが……」
三階までの屋敷内部を一通り案内し終わったところで、執事のセバスチャンから声がかかる。
「なんでしょう?」
「客間らしいものが見当たらなかったのですが、来客の際にはどうやってお客様をおもてなしすればよろしいでしょうか?」
「……来客?」
当たり前と言えば当たり前だったが、思わず首をひねってしまった。
そもそもここまで客が来るんだろうかと。
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