第112話 金の部
とうとう迎えたオークション当日である。オークション会場に向かうのであるからして、今日もニルは留守番だ。すごく不満そうだったけど、お土産に肉を買ってくるというと大人しくなった。単純に腹が減っていただけかもしれないので、メイドさんに五人前は食うからと言っておいた。
オークションが行われる劇場のメインホールへと向かい、昨日もらった入館証を警備員に見せる。
「あ、お客様、現金鑑定がまだのようですので済ませておいてくださいね」
「現金鑑定?」
どうやら参加者の所持現金をオークション主催者側に知らせておく必要があるらしい。金を持っていないのに落札して払えないという状況を未然に防ぐためだとか。
というわけで別室で所持現金を数えることとなった。
俺たち二人それぞれの異空間ボックスに現金は入っているけど、合計いくらあるんだろうか。次々と異空間ボックスから現金が出てくる様子に、スタッフが目を白黒させる。お金を数える魔道具に硬貨を次々と投入するだけなので数えるのも簡単だけど、細かい硬貨も多いので時間がかかる。
「二十一億フロンだって」
「おぉ、そんなに現金あったのか」
ラシアーユ商会ではグレイトドラゴン含めていろいろ売り払った。
「何か面白いものでも出品されたら落札しようか」
「そうね。お金も使わないと経済が回らないし」
入札の方法などを軽く教えてもらったあと、準備ができた俺たちは会場である大ホールへと入る。中に入ると、座席の半分くらいが埋まっていた。全部埋まれば千人くらい入るんだろうか。
入館証に記載されている座席へと向かうと、その隣にはフルールさんがすでに座っていた。お互いに挨拶を交わすと俺たちも席に腰かける。
「現金はきちんと用意してきましたか?」
「はい。ちゃんと鑑定もしてもらいました」
「であれば大丈夫ですね。オークションは現金でしか支払えませんから」
しばらくフルールさんと雑談をしていると、会場もほぼ満席に近づいてきた。
そろそろ時間がきたようで、入り口が閉ざされて大ホール内が薄暗くなる。
舞台にスポットライトが当たり、ビシッと黒い執事服のような衣装をまとった人物が脇から出てきた。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。皆様お待ちかねのようですので、余計な挨拶は省きまして、さっそく始めることとしましょう!」
司会の言葉に盛大な歓声と拍手が響き渡る。
「では、最初の品はこちら」
舞台の奥からなんとも露出度の高いお姉さんが、台車を押して出てくる。その上には武骨なナイフが鞘と共に鎮座している。
「
司会の言葉に会場に小さなどよめきが広がる。うん、どんだけすごいのかさっぱりわからん。最初の品だし、様子見だな。武器なら今後いっぱい出てきそうな気はするし。
「では十万フロンからの開始となります!」
金の部初日の午前中は何事もなく終了した。だんだんと最低落札価格が上がっていったが、未だに百万を超える商品は出てきていない。
「最初はこんなものですよ」
なんだかがっかりしている俺たちに、フルールさんは苦笑を漏らしている。
「本番は二日目からですので」
「なるほど」
最初はちょっと珍しいモノ程度しか出てこないとのことだ。とはいえ一般人に手を出せるのも初日といえるため、人が多いのも初日なのだとか。
「でも気になるものはちょっとだけ出てきたな」
この値段帯では魔道具は出てこない。職人が本気を出して遊びで作ったものとか、手に入りづらいけどそこまでレアというほどではない中途半端なものが多かった。
なんというかこう、「欲しい!」とは思う物の、ちゃんと普段使いするのかと問われれば答えられないモノと言えば伝わるだろうか。
「気に入ったものがあれば落札すればいいと思いますよ。落札数に制限などはございませんので」
「そうなんですね。……ちょっと気になった物あったら次入札してみようかな」
やり方は聞いたけど、実際にやってみないとわからないこともあるかもしれない。本当に欲しい物の入札で出遅れるのももったいない。
昼ごはんも食べて休憩を終えると、フルールさんと会場へと戻ってくる。さて、午後の部開始だ。
「さて、次の品はこちらでございます!」
午後の部も終わりに差し掛かったころ。
ワゴンに乗せられて出てきたのは、小物だった。厚さ一センチほどで、縦十五センチと横幅七、八センチくらいだろうか。なんというかスマホサイズの板だ。
「とある冒険者から持ち込まれた品ですが、ええーと、なになに……。第二魔術研究所に解析を依頼したが、解析不可と一切の詳細が判明しなかった品となります!」
「なんだよそれ……」
「ふふ、でも安心してください。オークションに出品されるものは必ず鑑定はされますので」
あぁ、名前くらいは判明するってことなのかな。天狼の森に謎の塔があったみたいに、この世界にはよくわからんアイテムがあったとしても不思議じゃない。
……そういえばあの塔も鑑定しておけばよかったな。
「道具名は『すまーとふぉん』です! では百万フロンからの開始となります!」
――は? スマートフォンだと?
司会から告げられた名前に、思考が止まった。
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