第91話 従魔を連れて納品に行こう

 気が付けばお昼を過ぎていたが、まずは魔獣の登録だけでもということで早速手続きを行った。


「さて、どんな名前で登録する?」


 ギルドの裏資料にはフローズヴィトニルで登録するためか、登録作業もギルドマスターが直々に行っている。

 にしても名前か……。呼び名もないと不便だよなと思ってたけど。


「なんかいい名前とかある?」


「うーん。柊がテイムしたご主人様になるんだから、柊がつけてあげたほうがいいんじゃないかなぁ?」


 莉緒にも聞いてみるが一蹴されてしまった。言われてみれば確かにと思わなくもない。でも名前か……。よく見れば光の加減で虹色にも見える白いふかふかの毛皮をしている。


「虹……、レインボー、しっくりこないなぁ」


 頭を撫でて、首を撫でると気持ちよさそうに目を細める。


「よし、種族名から取って『ニル』にするか」


「わふぅ」


 安直だけど思いつかないときは単純で行こう。特に嫌がってもなさそうだし。


「わかったよ。じゃあ『ニル』で登録しておくね」


 登録料の千フロンを払うとこれで完了だ。ニルの首に従魔の印としてタグが付けられた。これで堂々と街中を連れて歩けるようになった。


「サイズは自動調整する魔道具にもなっているよ。再発行には二万フロンかかるから気を付けてね」


 登録が終われば腹ごしらえだ。

 ギルドに併設された酒場でお昼ご飯を済ませると、次はシルバーウルフの引き渡しに移る。ちなみにニルは出てきた料理を普通に食ってた。大量に。これは食糧の確保が大変だ。ニルからはひたすら「うまー!」という意思が伝わってくる。


 莉緒が異空間ボックスから四メートルほどのシルバーウルフを取り出し、『天狼の牙』の代わりに運搬したというていでギルドに売り払う。もちろん森に出現したデカい狼の正体はコイツだったと大げさに喧伝しながらだ。


「これで一連の騒動は落ち着いたかな」


「そうですね。……しかしこのシルバーウルフは本当におれたちがもらっていいのか?」


 いったん落ち着いたところで、ワイアットさんが戸惑いつつも確認してくる。


「くれるってんだからいいんじゃねーの?」


「このサイズですと、それなりの値段はしますよ……?」


 遠慮がちなメンバーと、もらえるものはもらっとけなメンバーと半々くらいだろうか。


「一応面倒になりそうなことを黙っててもらうってことで、お礼も兼ねてますのでかまいませんよ」


「私たち、お金に困ってるわけではないので大丈夫ですよ」


「はは……、そんなやつを従魔にできる実力があればそうだよな。さて、じゃあおれたちはそろそろ行くとするか」


「あ、はい。お世話になりました」


「いやいや、世話になったのはこっちのほうだ。おれたちじゃあれは手に負えなかったしな」


 ちらりと小さくなったままのフローズヴィトニルに視線をやると、肩をすくめた。


「じゃあな」


 手をひらひらと振りながら去っていく『天狼の牙』のメンバーたち。


「それじゃあ引き続きシュウとリオの二人には、詳しい話を聞かせてもらおうかな」


 しかし俺たちはまだ解放されたわけじゃない。またもやギルドマスターに個室へとひっぱり込まれることとなった。




「やっと終わった……」


「長かったね……」


 夕方近くになってようやく解放された。

 あれこれ聞かれたが、しゃべるとまずいことは伏せてある。当たり前だがアークライト王国王城をぶっ壊したことは伝えていない。魔の森でしばらく生活していたことは伝えたら驚かれたが。

 この街や周辺の魔物についても聞けたのでよしとしよう。それにギルドマスター権限で俺たちのランクもDに上がったし。さすがに護衛依頼を一度もやったこともない者はCに上げられないとのことで、渋々のDらしいけど。


「とりあえずフルールさんに依頼の報告に行こうか」


 ギルドを出るとラシアーユ商会へと歩いて向かう。ニルが一緒にいるからか、住民からの視線をいつもより多く感じる。この国に来るまでに通った街でもほとんど見かけなかったし、従魔を連れた冒険者というのは珍しいみたいだ。


「こんにちはー。フルールさんいますか?」


 商会に着くとさっそく店番をしていた店員さんへと声を掛ける。


「はい……っ!?」


 返事をして顔を上げてこちらに視線を向けるが、ニルが視界に入ったところで一歩後ずさる。


「……失礼しました。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」


「シュウです。依頼の木材を届けに来ました」


「かしこまりました。少々お待ちいただけますか」


 すぐに立ち直るとはさすが六大商会の従業員だけはある……のかな。


「やっぱりみんな驚くわよね」


「だよなぁ」


「そのうち慣れるでしょ」


「いや無理だろ。次の街へ行ったらまた同じことになるだろ」


「そうじゃなくて、みんなが驚くことに私たちが慣れるでしょってことよ」


「そっちかよ!」


「ほら、ギルドで獲物を売るときに、いちいち異空間ボックスから出して驚かれてたけど慣れたでしょ」


「あぁ、まぁ、確かに」


 そう言われると納得せざるを得ない。自分自身が慣れてしまったんだから。でもまぁそういうもんかもしれないな。


「お待たせしました。奥の倉庫へどうぞ」


 くだらない話をしていると、先ほどの従業員が戻ってきて店を出ると裏へと案内してくれる。どうやら倉庫のようだが、そういえば木材持ってきたんだったか。

 五十メートルのを持ってきたけど、街中にそんな広い倉庫なんて……って広いな。


「フルール様、お客様をお連れいたしました」


 さすがに依頼されたお届け物が入らない場所には案内されなかったようだ。従業員が倉庫の中にいた人物に声を掛ける。


「ええ、ありがとう――っ!?」


 そうして振り向いたフルールさんも、ニルを見て従業員と同じ反応をしていた。

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