第75話 天然物のお値段
「いやー、思ったより大量に天然物が手に入ったな」
「薬草も採集できたし、一石二鳥だったわね」
群生地などもあったが、天狼苑みたいに同じ木にいくつも生えてるといったことはなかった。やっぱり密集させすぎはよくない気がする。
「だけど……」
「……何かあるの?」
莉緒が訝し気に首を傾げる。
遠くに大きな気配を一つ感じるのだ。今では数キロ先まで気配や魔力を感知できるようになっている。
「あれがシルバーウルフを殺った魔物かな?」
「何か見つけたのね……。私は遠すぎて感じないけど、柊がそう思うならそうなんじゃないかしら。それで、どう?」
「うーん。……魔の森奥地の魔物に比べても遜色はないかもしれない」
「へぇ。それはすごいわね」
森の最奥は師匠ですら苦戦する魔物がいるらしく、俺たちも戦ったことはない。だけど奥地の魔物は俺たち二人がかりでも狩るのにそこそこ時間のかかる、やっかいな奴らもいるのだ。
中でも一番手こずったのは
「うん。面倒だから避ける方向で」
「それがいいわね」
「もし見つかったら異空間ボックスにある適当な獲物をエサにして逃げるか」
「あはは、そうね。食べ応えのある獲物はいっぱいあるし」
「よし、んじゃ今日はそろそろ帰るか」
「日も暮れそうだし、そうしましょうか」
大きい魔物の気配から遠ざかり、村への帰路に就く。途中で熊の魔物を見かけたが、こっちに気付いて逃げ出したのでスルーしておいた。ギルドで聞いた限りでは好戦的って言ってたけど、なんでだろうな?
あれから一日が経過した日の夕方となった。今日も薬草採集しつつ天然物の天狼茸を収穫しまくりホクホク顔だ。奥地にもなると人も来ないし、穴場だな。
「宿も今夜一泊したら終わりだし、今日はギルドでいろいろ売ってみるか」
「明日は天狼の森を抜けて職人の街レイヴンに行くんだよね」
「おう。早く野営用の家具を揃えたいし、いちいち国境の街に戻るのも面倒だし」
「あはは……、それは同感」
いつものようにギルドの入り口を潜り抜け、今日は買取カウンターへと向かう。今日はいろいろと売ってみるつもりだ。
シルバーウルフの毛皮も欲しいし。
……え? 自分で剥ぎ取れって? いやめんどくさいじゃん。
「買取お願いしまーす」
軽い口調で告げると、手の空いていた職員が近づいてきた。
「はいどうぞ」
まずは集めた薬草類をいくつか提出すると、そのあとは本命のシルバーウルフだ。
「えっ!?」
ギョッと後ずさる職員の様子に、ギルド内にいる人たちの視線が集まってくる。気にしていたら進まないので、六匹ほどカウンターへと載せた。
「毛皮はください」
「……あ、はい。……えーっと、お肉はどうしましょう?」
ざわつくギルド内に職員の戸惑う声がかすかに聞こえてくる。
肉って食えるのか。狼の肉って聞くだけでなんか硬そうで美味しそうに感じないんだけど。
「肉って食べられるんだ?」
莉緒も同じことを思ったようだ。
「え、ええ。高ランクの魔物は美味しいモノが多いですね。シルバーウルフも食用となります」
「あ、じゃあ三匹分だけ肉ください。あとは売却で」
「わかりました」
「あとはコレも売却で……」
そっと懐から取り出したのは、それなりのサイズの天然物の天狼茸である。思ったより採れたもんだから、いくらで売れるのかちょっとした好奇心が出てしまった。
「て、天然物!?」
シルバーウルフを出した時よりも驚きが大きい。遭遇率となるとやっぱりシルバーウルフのほうが高いよな。あっちは近づいたら襲い掛かってくるし。
「し、失礼しました。解体と査定もありますので、また明日来ていただけますか」
引換券代わりの割符を受け取りギルドを後にする。好奇心や疑いの視線が向けられるがすべてスルーした。
そして翌日。ギルドで戦利品と報酬を受け取ると、さっそくシルバーウルフの毛並みを確認する。
「おおー、思ったよりもふもふ」
「気持ちいいわね」
サイズも大きいので一枚でも地面に敷けば、寝転がってもはみ出ることはないだろう。
「あと天然物だな」
「思ったより高かったわね」
持ち込んだ天然物は二本だが、それぞれ5万3千フロンと12万フロンにもなった。この間宿で食ったコース料理に出てきた天然物は偽物だったのかと思える値段だ。奥地で採れるものほど高価とは聞いていたが、想像以上だったってことだな。
「よし、んじゃ行くか」
「うん。長閑でいい村だったね」
「そうだな。……いるだけで腹が減る村ではあったな」
「あはは!」
今もかすかに漂ってくる茸の匂いがたまらない。ここの村人たちはよく耐えてると思う。いやそれも慣れなのか。
感慨深げにギルドを出ようとしたところで、その声は聞こえてきた。
「昨日天然物の天狼茸を持ち込んだという冒険者に会いたいんだが、どこにいるか知らないかね」
高圧的な感じのするぽっちゃりと太ったオッサンだ。冒険者というよりは、依頼をする側だろうか。実力者という風には見えない。
なんとなく嫌な予感がするが、外に出るにはオッサンの近くを通らないとダメだ。さらに言えば、オッサンに詰め寄られていた職員がこちらにちらりと視線を飛ばしている。
つられてこっちを向いたオッサンと目が合ったところで、なんかダメな予感がひしひしとするのだった。
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