第73話 森の奥地を見学しよう

「思ったより早く終わっちゃったわね」


「予想外に時間が余ったなぁ」


 時間帯はちょうど昼前だ。今から戻ってもギルドに依頼達成を報告するくらいか。


「よし、ちょうど森にいるんだし、ちょっとぶらぶらしようか」


「そうね。魔の森ほど凶暴な魔物はいなさそうだけど、シルバーウルフはちょっと気になるかも」


「あとは天然物の天狼茸だな」


 そうと決まれば行き先を変更だ。森の中の主要道路へと出ると、村とは反対方向の奥へと歩を進める。ご丁寧に立てられている『この先森の奥』と、もう天狼苑がないことを知らせてくれる看板をスルーする。Dランクの天狼苑周辺の魔物討伐はこのあたりまでだったかな。


「ここなら人も通らないかな」


 ということで軽く昼食を摂るとさらに奥地へと進む。道中は樹木を注意深く観察しながら進んでいたが、天狼茸が生えてそうな樹は見当たらない。


「そうそう簡単には見つからないか」


「ちょっとスピード上げようか?」


 景色が変わらない道をゆっくり行くより、景色が変わるかもしれない奥まで一気に飛翔して進むことにした。

 十分ほど進むと道も狭く細くなり、やがて獣道と呼べそうな跡もなくなった。天狼苑周辺で感じていた魔物の気配も数が少なくなり、それよりもちょっとだけ強そうな気配が遠くに群れているのが感じられる。


「これがシルバーウルフかなぁ」


「かもしれないわね」


「茸を食べる魔物を探したほうが早いかもしれないな」


 やみくもに樹をひとつひとつ探すより、気配察知にひっかかる魔物の方が探すのは楽だ。進行方向を魔物の群れへと変更する。風下から近づいていくと、視界にも入ってきた。確かに銀色の毛並みをした狼が見える。鑑定結果からもシルバーウルフで間違いなさそうだ。


「何やってんだろ」


 何かを探すように地面の匂いを嗅ぎながらうろうろするシルバーウルフたち。中には地面を掘ったり、地面に顔を突っ込んでるやつもいる。


「まさか天狼茸でも食ってるんじゃ」


「えええ……。狼が茸を食べるの?」


「いやだって、天狼って魔物がいて、天狼茸っていう名前の茸だろ? 茸食べてそうじゃね?」


「そうかもしれないけど……」


「じゃあ確かめてみよう」


 すぐ目の前にいるんだから確認してみればいいのだ。


「それもそうね」


 そうと決まればあとは突撃あるのみ。全部で十二匹の群れだったが、莉緒と半分ずつ受け持つことにする。

 二人して飛び出すとまずは先制攻撃だ。使い慣れたアースニードルを周囲に浮かべると一斉に射出する。

 何かを夢中で探していたシルバーウルフたちの頭部へと次々と突き刺さる。……が、一匹だけ気づかれたのか、回避されるとそのまま逃げられてしまった。


「……思ったよりあっけなかったな」


「不意打ちがうまく効いたんじゃないかしら」


「だなぁ」


 一匹逃がしてしまったが、わざわざ追いかけることもない。むしろ目的はシルバーウルフが探しているものだ。

 顔を突っ込んでいた地面を覗き込んでみるが、特に何も見当たらない。


「うーん、ないなぁ」


 莉緒も同じように地面の苔の下や樹の根元を探しているが、何も見つからないようだ。ひとまずシルバーウルフの血抜きが終わるまでは探してみることにしたが、結局この日は天然の天狼茸は見つからなかった。




「そう簡単にはいかないわね」


 莉緒の言葉に頷きつつも、日が暮れる前に村へと戻ってきた。


「まだ初日だし、もうしばらく探してみようぜ。あの味は忘れられない……!」


「あはは」


 決意を新たに拳を握り締めると、莉緒に苦笑されてしまった。呆れられたとしても俺は食欲に忠実に従うのだ。


 冒険者ギルドへと戻ってくると、依頼達成の報告と共に天狼苑で仕留めた獲物を売りさばく。シルバーウルフは驚かれるのでまだ出さずにおく。天狼苑で出くわしたと思われたら面倒だし、天狼苑の奥へ向かったとばれても面倒だ。まだしばらく滞在する間はできるだけ大人しくすることにする。

 異空間ボックスと、中から出てきた獲物の数に驚かれるがいつものことなのでスルーする。これでEランクの依頼達成数は28になった。次のランクまでは遠いな。


「それでは報酬は現金と天狼茸とどちらにしますか?」


 報酬の計算が終わった後、カウンターの受付員から尋ねられた。そういえばここって選べるんだったか。もちろん俺の答えは決まっている。


「天狼茸でお願いします」


「かしこまりました」


 手渡された天狼茸は小ぶりなサイズが四本だ。依頼の報酬額を思えば多い気もするが、原産地だとほぼ原価だろう。この世界だと輸送費もバカにならないからな。


「うーん、天狼茸を見てると腹減ってきた」


 天然物には劣るが、普通の天狼茸もそれはそれで美味い。


「宿に帰って夕飯にしましょうか」


「おう。宿で頼んだらこの天狼茸も料理してくれないかな」


「あはは、言ってみるだけ言ってみればいいんじゃないかしら」


「そうだな」


 そうして俺たちは今日の仕事を終えて、宿へと戻る。

 持ち込んだ天狼茸は快く宿で料理をしてくれた。相変わらずの美味さだったのはもはや言うまでもない。

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