木の枝の伝説(9)
こうして、おれと、フォルテボアとの、熱く、激しく、長い長い戦いの幕が、開いた!
え?
なんかカッコよさげな書き出しでごまかそうとしてないか、だと?
そ、そそそ、そそそそ、ソンナコトないヨ?
なっ?
そんなことないならちゃんと説明しろって?
い、い、いや、もう、前回さ、語り尽したっていうか、もう下手したら「完」とかって、一文字で書くしかないっていうか……。
ぐっっ!
おまえまだ木の枝トリプルオー・オリジンまともに使ってもねぇじゃんって……どこが伝説だよって……。
……反論できねぇ。
木の枝どころか、魔法だってまともに使えず、いたずらに摩耗するだけだったりしたしな。
うへっ?
今日のお話から読む人がいるかもしれないんだからちゃんとやれ?
いや、そんな奴はいねぇーよ。さすがに。いないよな? いないよね? いないと思うんだけどな?
あああーたたたたたたたたっっ、あべしっっ!
……おまえはすでに死んでいる、だと。
……ああ、その通りだ。おまえの言う通りさ。前回のSP消耗で正直なところおれはもうフォレボによる突進に苦労して轢死、黒・歴・死だよ! ビー・ヒストリー! ビーはブラックのビーっ! はっはーんっ! やっちまったよ! 二度と取り戻せないね! ゲーマーとしての尊厳は既に尊厳死! セーブアンドロードでやり直してぇぇぇっっ!
はああっっ?
今北産業……って、おい! 今日の話のこの行から読む人いたのかよっ! ドン引きだよっ!
……ああ、やってやる。やってやるさ。
もはや無残な苦労をした上で轢死体となったおれには恥も外聞も尊厳も放送放映禁止箇所もねぇ。
このいばらの道を進むのならそれは勇者。そう、おれはもはや勇者だ!
いくぜ! 三行だ!
フォレボの突進にビビッてパニくり、詠唱破棄して全力で逃走して木の上に。
突進の衝撃で揺れる木から落ちるのが嫌で、木の幹に「ディー」を捧げるくらいの全力密着ハグ。
ここしかねぇ! という場面であせり、呪文詠唱の起句、最後の一文字を噛んで魔法発動せず。
で、真っ白なハイになって燃え尽きつつ、頭ん中で一人掲示板ごっこだよ……今ココ!
ああ、やり直してぇ。やり直せるなら、プレーヤースキルの自慢なんかおれはもう一生しない。何が呪文の詠唱も物理スキルの予備動作もばっちりだよ。噛んでんじゃねぇーよ。なんだよ『ソルむゃ』って! そんな呪文聞いたことねぇーよ。
などとぐだぐだ一人芝居をしてたらいつの間にやら2時間経過で、フォレボの目が赤くなくなって、おれが登った木からも離れていく。良かった。連続してもタゲ取りでのアクティブ化は2時間までらしい。
SPも回復したし、三度目の正直って言葉もある。あと一回挑戦できる機会は残されてる! あるんだけどな! 今日はもう無理! メンタル崩壊!
だって、おれならレベル2でもフォレボとかいけるね! みたいなこと言ってたくせに、実際にはビビッてほぼ何もできなかったんだぞ……。そりゃ、心も折れるって。
おれはフォレボ……いや、このフォレボは世界一の神童たるおれに人生初の敗北感を心のもっとも奥深くまで億千もの傷として刻み込んだ間違いなく世界最強のフォレボ。ただのフォレボと呼ぶには惜しいフォレボだ。
もはやフォレボにしておくのは惜しいということになる。よし、今日からこのフォレボはフォルテボア・ビリオン・スクラッチとでも名付けよう! フォルテボア・ビリオン・スクラッチよ! おまえはいつか必ずおれが倒す!
……おまえ全然反省してないだろ? って、しょうがないじゃん! そんなことでもしないと前向きな気持ちになれねぇんだからな! これは前向きに頑張るためのものだから!
おれはフォルテボア・ビリオン・スクラッチがノンアクティブ状態のままかなり離れたところに行ったことを、7回くらい確認を繰り返してから木を下りて、抜き足、差し足、忍び足で、ゆっくりと確実に森を出て、草原からは、てってけ、てってけ、全力疾走で村へと帰った。
脇目もふらず走って家へ。
そしたら、家の前にちょうど姉ちゃんがいた。
……なんか、姉ちゃん見た瞬間、ものすごくほっとした。姉ちゃんの顔見たら、なんかどこかわかんないけど、とにかくあったかくなってきた。
そんで、なんか気づいたら、姉ちゃんにしがみついてたな。
おれも自分でわけわかんなくなってたけどな、たぶん、姉ちゃんはもっとわけわかんなかったと思うな。
でも、姉ちゃんは「アインってほんとうにばかよね」といつもとちがう優しい感じでいつもと同じこと言って、おれをそっと抱きしめてくれたんだよな。頭の後ろをなでつつ、背中をそっとぽんぽんと叩きながら。
背中をぽんぽん叩く手が止まったと思ったら、姉ちゃんが「なきやんだ?」と聞いてきて、そこで初めておれは自分が泣きじゃくってたことに気が付いたんだよな。
もはや何が起こってるのか、おれ自身が混乱してた。
「アイン、そんちょうさんのとこでなにかあったの? なにかあったなら、ねえちゃんがそんちょうさんいますぐはげにしてきてあげるわよ?」
…………姉ちゃんこええーっ。いや、強い味方だけど! 最強の味方だけどな!
とりあえず、おれは必死で首を横に振って、姉ちゃんを押し止めておいた。
「じゃあ、ズッカとティロにやられたの? それならほねのにさんぼんはおっとくわよ?」
それもちがう! あの二人はいつも一緒で、おれとのかかわりはほぼゼロ! ほぼゼロだ!
やめてあげてぇ~っ、絶対にダメだから~っ。
おれは全力で首を横に振る、振る、振りまくる。
「じゃあ、シャーリーにふられたの? それならしょうがないわよね、アインだもの。アインってほんとうにばかよね」
姉ちゃんはそう言うと、おれの頭をそっとなでて、家の中に入っていった。
……あ、しまった。否定するヒマなかった。ていうか、シャーリーは乱暴枠じゃない? 保護枠なの? 良かったよ。安心した。姉ちゃん、とりあえずまだ人間として正しいものがあったみたいだな。
……でも、最後のアインだものってどういうこと?
確認したいような、したくないような気持になりながら、おれも家に入る。
それからはいつも通りな。
夕食を食べたら強制スタンまで木の枝トリプルオー・オリジンでカッターの素振り。今日も300回ぴったり。やっぱりおれのプレーヤースキルは……いえ、なんでもありません。
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、その先も、最強の森の猪フォルテボア・ビリオン・スクラッチにおれは挑む。挑み続ける。あきらめたら……だ。つまり今んとこ死合は続いているので全然仕留められていない、と。
もちろん、早朝の素振り、朝食の銅のつるぎのくだり、じじいの計算機役、シャーリーと小川におでかけ、といういつもの行動は変化なし。
森から戻って、夕食のあと素振りしてそのまま強制スタンで死んだように眠るのも同じ。まあ、日によって? シャーリーと石を投げたり? 小魚をキャッチアンドリリースしたり? 文字や数字を教えたり、足し算を教えたり、引き算を教えたり、九九を覚えさせたり……などの変化はあるんだけどな……え? 何か問題でも?
はあ? シャーリーにじじいの手伝いを押し付けようとしてないかだって?
何言ってんだ? びっくりだよな? そういうんじゃねーだろ。
そもそもシャーリーはじじいの孫娘なんだから、シャーリーがじじいを手伝えるように教えるのは最高の親切だろーが?
いや、まあ、日常生活は特に変化なしでいつも通りって話だから、別方面のツッコミは今はおいとこうかな? いいよね?
大事なのは、そう! フォルテボア・ビリオン・スクラッチの方だ。F・B・S! 福岡放送じゃねえからな! フォルテボア・ビリオン・スクラッチだからな!
奴へのリベンジは、待ち伏せ作戦。
そう! もう先に木の上に登って、フォルテボア・ビリオン・スクラッチが近づいたら呪文詠唱でタゲ取りしてソルマをぶち当てる、という単純な作戦だ! 成功間違いなし!
おれは森へ行き、フォルテボア・ビリオン・スクラッチの縄張りで木の上に登って、奴の接近を待った。ひたすら待った。いつでも呪文が詠唱できるように頭の中で繰り返しつつ待った。
そして、奴が近づいてこなかったら6時間で木から下りて村へ帰った。つまり、森に行き、木に登り、6時間待って、木から下りて、帰る。そういうことだ。真剣勝負なんだ、慎重にな!
そうして十日間、おれは待ち伏せ作戦を実施した。
ん? 十日間とかいつまでそんなのんびり戦う気なんだ、だと?
何言ってんだ、こっちは最初からそう言ってんじゃねぇーか!
こうして、おれと、フォルテボアとの、熱く、激しく、長い長い戦いの幕が、開いた!
ほらな! 思い出したか!
いいか! ステ3で安全マージンとったら、チャンス待ちなんて当然だろーが! どんだけ勇気出してもまだ命は投げ出せねぇよな! 絶対ムリっ!
……とか言いながら、実際んとこ、おれがビビってるだけなんだけどな。
待ち伏せ作戦十日目。フォルテボア・ビリオン・スクラッチとの戦い十一日目の帰り道。
おれは、自分がフォルテボア・ビリオン・スクラッチにビビッてることをはっきりと自覚した。
いや、分かってたけどな! そりゃ最初っからそうだと思ってたけどな! だってマジで死ぬかと思ったんだからな! ビビらない奴がいたら教えてくれ? できる? おまえにできる? はっ!
でも、なんつーか、木の上で待ってて、フォルテボア・ビリオン・スクラッチが最後の瞬間まで近づいてこなくて、ほっとしてる自分には情けないっつーか、なんつーか、辛いんだよな。やってやるって決めたはずなのにな、ってな……。
でも自覚したら、ある意味で目が覚めた。フォルテボア・ビリオン・スクラッチの動きをもう一度検証して、初日の反省を活かした作戦で挑んだ十二日目。
ロープのある木とフォルテボア・ビリオン・スクラッチとおれの位置関係を90度にすることで、ロープのある木への逃走が可能な限り短い距離になるようにする。ただし、おれとフォルテボア・ビリオン・スクラッチの距離はぎりぎり6mにしなければならない。6mでないと、ソルマの詠唱でタゲ取りできないからだ。
カッターでタゲ取りしようと思うと3mまで近づかなければならない。それだと逃げられない可能性が高い。どちらにせよSPは消費するんなら6mが安全。
立ち位置が決まったら詠唱するが、ハナっから詠唱放棄するつもりで、奴の目が赤くなったら詠唱はやめて、奴の動きを注視する。ビビってもいい。パニクらなければそれでいいんだからな。
前足の準備運動ではまだ逃げない。突進開始まで待つ。でないと逃げた方に突進されちまう可能性が高い。これが怖い。でもこれを耐えないと、きっと痛いし、痛いどころか死ぬ。そんなら耐えろや!
突進開始を確認して、ロープの木へ走る。木登りはすでに何日もやってきたことだからな。落ち着け、間に合うから。きちんと枝の上に。
別に「ディー」をこの木に捧げたって死ぬ訳じゃねぇし、おれの両手で抱きしめて愛してやるぜ! くらいのつもりで、全力で木の幹にしがみついて、フォルテボア・ビリオン・スクラッチの突進による揺れに耐え抜く。
2時間。2時間の我慢。昨日まで木の上で6時間過ごしたからか、2時間はあっという間のような気がしたな。タッパの表示色が変わり、SP3/3に回復。
右腕でしっかり木の幹に掴まり、右足は気合いを入れて枝の根元で踏んばる。
左腕を伸ばし、さらにその人差し指をフォルテボア・ビリオン・スクラッチに向け、詠唱を始める。
『われ太陽神に乞い願う、敵を貫くひとすじの光をこの指に、ソルマ』
再び赤目になり突進してきたフォルテボア・ビリオン・スクラッチが木に頭をぶつけ、落ちていって着地した瞬間、おれの左手の人差し指から発したまっすぐな光が、フォルテボア・ビリオン・スクラッチを貫いた。
……できた!
たが、フォルテボア・ビリオン・スクラッチは、光に貫かれた後も、いらいらしたような動きを繰り返し、何度も木に突進してきた。
残念ながら即死効果は出ていない。
どのくらいダメージを与えられたのかも分からない。たぶんSP回復待ちの2時間で全快するんじゃね? そんなくらいのダメージかもしれない。
だけど、この日。
おれは間違いなく、生まれてはじめてモンスターにダメージを与えた。
2時間後、目から赤い光が消えたフォルテボア・ビリオン・スクラッチは、おれの登った木からいつものように離れていく。なんとなくその背中に、好敵手の不敵な笑みを見た気がした。
もう一度ソルマを当てることもできるが、この日はこれで終わりにして、おれは村へ戻った。
怖いのは当たり前。
ビビったっていい。
だから冷静に、やるべきことをやる。そのために勇気を振り絞る。
できることを全力でやるのは恥ではないなとおれは思ったのだ。
次の日。つまりフォルテボア・ビリオン・スクラッチとの戦い十三日目。この日から2発のソルマを当てられるようになる。
ただし、十七日目と二十二日目と、二十五日目は最初の一発を外し、十五日目と三十日目は後半の一発を外し、二十八日目は両方外した。
そして、三十七日目。
『われ太陽神に乞い願う、敵を貫くひとすじの光をこの指に、ソルマ』
詠唱の最後の起句でおれの指先から光がまっすぐに伸びていく。
いつもの着地点にフォルテボア・ビリオン・スクラッチが落ちると同時に、光がフォルテボア・ビリオン・スクラッチを貫き。
そのまま、フォルテボア・ビリオン・スクラッチが横倒しに倒れ。
音はなかったけれど、なんだか、ポンっという音がしたような感じでフォルテボア・ビリオン・スクラッチの姿が泡のように消え。
その跡にはキバと毛皮がなんか変なエフェクトとともに現れたのだった……。
『な、なんで……なんでVRからVが抜けてリアリティばっかになったと思ったら、こういうところはきっちりゲームクオリティなんだよおおおおおおおっっっっ!!!』
おれは思わず叫んだ。叫ばざるを得なかった。いや、叫びはいらなかった! あ、間違えた。やり直し。……叫ばずにはいられなかった! 世界の中心でもなけりゃ、叫ぶ内容は愛でもないけどもなっっ! うおおおーっっっ!
いや、助かるけどな! 助かるけども! 猪の解体とかできそうもないけどな!
強敵フォルテボア・ビリオン・スクラッチを一か月以上かけてようやく倒した感動なんか一瞬で吹き飛んじまったじゃん! なんだこれ? 返せ! おれの積み重ねた苦労とともに訪れるはずだったかけがえのない感動をっっ!
すぐにタッパを操作する。するとキバと毛皮はそのままアイテムストレージに収納可能だ。すぐに収納するように操作した。
それから木をおりて、その木に背中を預けて座る。
タッパの表示をステ画面に切り替え。
「……おおお」
(無職)アイン Lv3 HP23/23 MP23/23 SP23/23 筋力12 耐力10 魔力22 すばやさ17 器用さ14
初のレベルアップは一気に二つ上がっていた。
そりゃそうだ。適正レベルを超えてんだからな。ツノうさじゃなくてフォレボ狩ったんだからな。
いや正確にはフォルテボア・ビリオン・スク……なんだっけ?
ま、それに、ありがたいことにレベルアップの瞬間回復でMPもSPも全快だしな! って、ステ3問題解決してんじゃん! HP23じゃん! 何なに? 何なの? レベルアップはフツーに10ずつアップなのかよ?
うわぁ~こりゃ助かったな~……。
わー、魔力たっか。まあ、魔法ばっか使って最後も魔法で仕留めたしな。
耐力が低いのは結局ダメージは一回も受けてねぇもんな。レべ6くらいんなったらわざと攻撃も受けてみないと伸ばせないだろうな。
でも、すばやさなんでだ? どうも補正が入った感じだけどな?
あ、あれか、頑張って逃げたやつかな? ま、上がってんだからどうでもいいか。ソルマの熟練度はっと……おっやっぱ上がってるよな。よし、これなら詠唱省略でいける……。
おれはすぐに立ち上がり、別のフォレボのポイントに急いで、てってけ、てってけと移動する。
タッパの表示が黄色になってることを確認して、ゆっくりと森の中を歩き、フォレボを見つける。
距離を確認しつつゆっくり近づく。もう木の上に逃げるためのロープなんかいらねぇんだよな!
距離7m。熟練度2になったソルマの距離だ。左手を伸ばし、人差し指でフォレボを指し示す。
『ソルマ』
MP消費2倍の詠唱省略でソルマを発動。消費MP4、消費SP2。
フォレボの目が赤くなったと同時に光がフォレボを貫く。即死はなし。
右腕を左肩の横へと動かし、タッパのファンクションキーでその右手に木の枝トリプルオー・オリジンを装備。
前足の準備運動を終えたフォレボが突進してくる。
距離3m。左腕を引いて腰だめにして拳を握り、手のひら側が上向くようにする。その左拳がうっすらと光る。体術系初級スキル・セイケンの予備動作完了。
距離1.5m。木の枝トリプルオー・オリジンを真横に右へと振るって通常攻撃。
木の枝トリプルオー・オリジンがぱしっとフォレボの鼻先に当たって、おれの身体の右へと伸びていく。そのまま伸ばした木の枝トリプルオー・オリジンを頭上に上げて、剣術系初級スキル・カッターの準備完了、うっすらと木の枝トリプルオー・オリジンに光がまとわりつく。
これが通常攻撃と予備動作の重ね合わせって奴だな!
それと左拳にセイケンの準備完了だからスキルの同時発動ってやつもな!
見たか! これがプレーヤースキルってんだ! ステがありゃやれるんだよっ!
距離0.5m。左拳を突き出し、セイケンを発動! ノックバック(小)効果でフォレボが止まる1秒とおれが技後硬直クールタイムで固まる1秒が相殺され、フォレボの動きだしと同時に木の枝トリプルオー・オリジンでカッターを振り下ろそうとした瞬間。
ポンって感じでフォレボの姿が消えて、キバと肉がなんか変なエフェクトとともに現れた。
「ありゃ、カッターなしでHP0まで届いたか。ソルマと通常とセイケンでHP20が削れるんなら、これはSPがちょっともったいなかったな。魔力22のソルマ熟練度2はフォレボにはおいしいんかもしれんな、むっふふ」
アイテムストレージにキバと肉を収納して、ついでに木の枝トリプルオー・オリジンも収納する。
HP23あれば、こんなもんだな。ふぅおおおっっっ! マジでっ! マジでっ! もうとにかく超マジでっっ! HP3はきつかったあああっっっ! マジきつかったあああっっっ!
ただのフォレボはやっぱおれの敵じゃない。やっぱりあいつは、フォルテボア・ビリオン・なんちゃらは最強のフォレボだったな。もう名前忘れたけど! もう名前忘れたけどな!
そこからさらに一頭のフォレボと、バンビも試しとかないとな、と一頭のバンビ狩り、レべ4になった時点で本日の狩りは終了。
えっ?
レベルアップで瞬間回復があるゲームなのに、レベルアップしてすぐ狩り終了はないだろうって?
そりゃ、その通りですな。もちろんあなたの言うことはとても正しい。
でもな、それ以外の事情が絡んだ場合は、そうもいかないだろって話だな。ゲームじゃなくてリアルだってことも含めてな。
正直おれだってめちゃくちゃガンガン狩りたかった! やりたかったんです!
……あっ間違った。狩りたかったんです!
ここまでめちゃくちゃ我慢してたった一匹の強敵フォルテボア・なんとか・かんとかと戦い続けてきた!
強敵だったけどもう名前忘れたけどな! おれが勝手につけた名前だったけどもう忘れたけどな!
バンビ倒した時に木の枝トリプルオー・オリジン折れたからな!
武器補正2の最弱武器は耐久値もかなり低いみたいだな!
びっくりしたからな!
なんだよあのバンビ! レアモンスターか?
いや、奴はおれが最初に戦ったバンビ。そしておれの愛用武器木の枝トリプルオー・オリジンをへし折った強敵!
こりゃ名付けるしかねぇ! あいつの名はバンビ・バージニア・スリム! BBSだ! 掲示板じゃないぞ、バンビ・バージニア・スリムだ!
戦闘中に木の枝トリプルオー・オリジン折れてカッター使えなくなって、慌てて詠唱省略で二発目のソルマをバンビ・バージニア・スリムにぶちこんだからな!
そんでバンビ・バージニア・スリムから一発もらったからな! HPひとケタに一時的になったからな!
だから、安全なステ状態の時に、森ん中歩き回って、武器扱い可能な木の枝めっちゃ集めて回りましたからな! レベル上げの前に武器確保の方が先! これ絶対!
あとっっっ!
ゲームとちがってモンスター倒してもお金が手に入らんのは納得できるけど、なんかモンスターあんな消え方してるのにって考えたらやっぱり納得できんからな!
お金ほしーっっ! 超ほしいっっ! 木の枝じゃない武器買いてぇーっっ!
それから、以前、木の枝なんて100本もいらねぇみたいなこと言ってた昔のおれ! 謝れ! 絶対に謝れ! ごめんなさいっっ!
とりあえず見つけたのを片っ端からストレージにぶっこんでいったらすでに200本超えてたっっ! ストレージで一番多いの今は木の枝だな! レベル4だから最大400本入るし、今後も拾い続けるかもな!
「……帰るか」
レベルが上がってゆとりが生まれても、武器は木の枝、防具なし、といううすら寒い状況にちょっとブルーになりながら、おれは村へとてけてけ歩いていくのだった。
さようなら、「木の枝トリプルオー・オリジン」よ、永遠に……。
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