シャガ

 最初は、中学一年の夏。その年、急に背が伸びて筋肉がついてきたと感じていたから、居間のドアを乱暴に閉めてみた。母さんがソファから飛び上がり、目を丸くして「ぼくを見た」。帰宅した父さんの、恒例の小言に、言い返してみた。母さんが慌てて「話に」割って「入り」、場を取りなした。

 そうか、こうすれば良いのか。

 それから、ぼくは母さんの財布から金を抜き出したり、深夜に外を歩き回ったり、わざと食器を割ってみたり、出された食事に手をつけなかったり、不良連中とつるんでみたり、万引きしたりと、考えつく限りの悪いことをこなした。悪いこと自体は、楽しくもなんともなかった。ただ、理科の実験をこなしているような気分だった。

 最初、オロオロと慌てた様子で「ぼくを見ていた」母さんだったが、やがて諦めたような顔になり、ぼくと出くわすのを避けるようになった。食事さえ、もう作ってはくれない。

 そんな。予想と違う。

 身体を壊し、塞ぎがちになる前の母さんが、ぼくを抱いて弾けんばかりの笑顔を向けている写真が、昨日までは居間に置いてあった。

 のに。

 屑籠の中に無造作に捨てられた写真立てとアルバムに、何もかもがどうでも良くなってしまった。もう、見てくれなくても良い。気にしてくれなくても良い。

 でも。だけど。

「……ぼくを認めてよ、母さん」

 居間に入って来た母さんが、ぼくに気づかず横を通り過ぎた。

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