クロユリ

 恋は呪いだ。

「恋に落ちる」とはよく聞くけれど、落ちた先がどこまで続くか分からない暗い穴なら、それはもう呪いとしか言えないだろう。必死で這い出そうと光へ手を伸ばしても、甘い闇が足に絡みつくのだ。自分の醜さが絶えず身を苛むのに、それから目を逸らすことは決して出来ないのだ。

 君と顔を合わせるのは、だから苦痛でしかない。自分の内心を自覚してしまってからは、その声を聞くのも、気配を感じるのでさえも辛い。

 その薬指さえなかったら。

 呪いがこの頭に完全に回って、抑えが効かなくなる前に、ぼくは君の前からいなくならなければいけない。君に新たな呪いをかけるくらいなら、ぼくは一生、深い穴へ落ち続けるつもりだ。

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