ツバキ

 真っ赤な着物を着た女だということは分かった。暗い、小さな部屋の真ん中に、座る私と向かい合って、脚を横に崩して座っている。全体的な体の輪郭から女だろうと思うが、首より上が無いので確実なことは分からない。だが、きっと長く綺麗な髪の持ち主だろうと思う。

 女の首は、さっき落ちたのだ。私がここに座る前に。

 この部屋の襖に手を掛けたとき、何か、重くて柔らかいものが落ちた音がした。あれはきっと、この女の頭が落ちた音だったのだ。だがしかし、その落ちた筈の頭は、どこにも見当たらない。

 美しい女だろうに勿体ない。

 そう思って見つめていると、真っ赤な着物の女の胴体が、私の方に擦り寄ってきた。花の香りに目眩がする。

 女の白い指が私の喉元に触れた時、私は嘗て、この女の首に手を掛けたことがあったような気がしてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る