ブバルディア

 ーーでは、教授の新たな研究は、当初、夢物語だと思われていたんですね?

「ええ、そりゃあ当たり前でしょう。誰が本気で、あんな研究をできると思いますか。前から変わり者ではありましたが、私たちのような彼の仲間でさえ、本気で止めようとしたくらいですよ」

 ーーでも、彼はやめなかった。

「そうなんです。たった一人でもやってのけると言って、はは、本当にたった一人でやってのけてしまいましたね。ああ、いや彼の場合、奥さんの手助けもありましたか。しかし、執念……夢に向かう執念ですね、あれは。狂気とほぼ紙一重の」


 ーー教授、今回は素晴らしい研究成果を残しましたね。

「素晴らしい? いや、あれはまだ研究の初期段階に過ぎない。本当ならこんな話をしている時間も勿体ないのに……」

 ーー最初は夢物語だと反対されたとか。

「反対も賛成も無い。私は可能性を追求したかっただけだ。夢の何が悪い、夢に見もしないものを、人は現実になど出来ない。現実はだね、夢から出来ているんだ。ありとあらゆる現実が、人々が見てきた夢によって現出しているんだ」

 ーー全ての夢追い人へのエールともとれるお言葉、ありがとうございました。


 ーー奥さま、この度は伴侶でらっしゃる教授の素晴らしい成果、おめでとうございます。

「素晴らしい成果、ですか……。あれが、そんなに素晴らしいものなんでしょうか……」

 ーー世界中で、教授の研究成果が称賛されていますよ。

「あれは、もちろんあの人の成果ではありますけど、あの人がここに至るまでに傷つけてきた、いや、殺してきた人たちの成果とも言えるでしょう。あの人は、自分の夢のために、私を初めとした多くの人間の心を殺してきました。まったくの無邪気に、人の心を踏み台にして研究を積み重ねてきたのです。それが、素晴らしいと貴方は言う。私にはもう分かりません」


 上記インタビューの収録後、教授は会見中に毒を煽り重体。彼の手元に置かれたノートには、以下のような記述があった。

『私の夢は、全て妻のためだった。しかしそれが彼女を殺していたのなら、私も命を以て償うしかない』

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