グロリオーサ

 炎の女王は誰も寄せつけない。生まれた時から全身を炎に包まれている彼女は、王国に伝わる炎の剣を軽々と扱い、多くの戦果を上げてきた。国民は彼女の燃え盛る赤髪を勝利の象徴とし、崇敬した。誰もが彼女の孤高に敬意を払った。その中に、女王が遥か昔、愛した者もいる。

 まだ若く、自らの力を正しく振るう方法を知らなかった頃、彼女は一人の召使を愛した。召使は、彼女が感情の昂りとともに炎を制御できなくなった時、身を挺して彼女を止めた。全身に火傷を負って尚、涙に咽ぶ彼女に微笑んで見せた。

 それを境に、彼女は変わった。自らの炎を律し、扱えるように、更に努力を重ねた。それまで重くて持てなかった炎の剣も、振るえるようになった。感情と共に爆ぜる炎の力を抑えるために、感情そのものを鎮めるようになった。愛した召使は生まれ故郷に帰し、誰とも距離を置くようになった。

 炎の女王が誰も寄せつけないのは、もう誰も傷つけたくはないからだ。戦火の中に身を置き、その名を轟かせるのは、自らの参戦によって相手国の戦意を削ぎ、双方の被害を最小限に留めるためだ。

 そして必ず無事で帰るのは、かつて愛した者が暮らす国を、明日もまた守るためなのだ。

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