ストレリチア
『風喰い鳥』なんて動物を、よりによってこの星に持ち込んだ連中のことを、おれは絶対に許せない。年中、清々しい風の絶えないこの星は、風力発電に頼りきりだ。他の発電方法なんて必要無い。吹き続ける風のお陰で、他星で流行した病も根付くことはなく、風の神への信仰が厚いから結束力も強い。そんな素晴らしい風の星に、『風喰い鳥』だ。馬鹿にしている。
「そうカッカしてたら、あの鳥に勘付かれちまうぜ」
隣で特殊鳥網を構えた相棒が囁く。しかし、おれたちが隠れている木陰から数メートルの位置に標的がいるのだから、落ち着いていられる訳がないのだ。
「アイツはおれたちの電気になるはずの風を、あらかた食っちまってるんだ。ここで仕留めないと、この星を捨てなきゃいけなくなって、うちの子ども達が悲しむ。カッカするに決まってるだろ」
おれの答えに、相棒は肩を竦めた。
鳥は鮮やかな黄色の羽をふわりと広げ、青紫の頭でキョロキョロと辺りを窺っている。羽と同色の嘴が大きく開く。食事の合図だ。
「今だ!」
鳥が風を吸い込み始めたのに合わせて、相棒が特殊鳥網を投げつけた。辺りの空気が鳥の方へ流れるのに乗って、網は鳥にクリーンヒットした。自動的に広がり絡みつく網に自由を奪われ、鳥はけたたましく鳴きながらもがく。
「やった、捕まえたぞ!」
相棒と手を合わせて喜んで、早速近づき銃を構える。その時、鳥が何かを腹の下に隠していることに気がついた。慌てて探ると、岩の窪みに卵が数個。
「おい、これ……」
相棒が戸惑ったようにおれを見る。おれの頭に、子ども達の姿が浮かぶ。
鳥が哀れっぽく鳴いた。
持ち込まれた『風喰い鳥』は一羽だったが、近日中に数羽に増えることが見込まれる。リストの数合わせは出来たので、宇宙動物愛護法に則り、鳥は元いた星に帰す……家族一緒に。
「それにしても、愛護法なんて気にせず殺すと息巻いていたお前が、世話することになるとはね」
相棒がくっくと笑い、おれは肩を竦める。ケースに入った卵に向かってうちわを動かす手が、そろそろ疲れてきた。
肩の上で、親鳥が嬉しそうに鳴いた。
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