アザレア

 熱で朦朧とする頭に、ひんやりとした感触があった。目を開くと、坊っちゃまの手が、私の額に当てられていた。

「坊っちゃま……いけません、風邪がうつってしまいます」

「気にするなよ。お前たちは、いつもぼくのために働いてくれているんだからな。それにしてもまだ熱が下がらないな」

 別の使用人にさせれば良いのに、坊っちゃまは手ずから水に浸したタオルを絞り、看病してくださった。申し訳なさとありがたさに、涙が出そうになる。更には私の身体の汗も拭き、冷たい水まで含ませてくださり、私は何度も感謝の言葉を口にした。

「良いんだよ。お前にもすぐ良くなってもらわないと。病気の豚は不味いからな」

 最後の言葉の意味がよく分からなかったけれど、きっと熱のせいで変な聞き間違いをしたのだろう。だって坊っちゃまはとても優しそうに、慈しむように微笑んでくださったのだから。

「ぼくのために、体を大切にするんだぞ」

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