キキョウ


 出会った時、彼女は全身に包帯を巻いて、ヨタヨタと歩いていた。その翌年は黒いマントに貴族のようなシャツとスカートという出で立ちで牙を生やし、さらに翌年は頭に斧を突き刺した状態でケラケラと笑っていた。

 そして今年。タブレットの画面越しにジョッキをあおる彼女は、何のソフトを使ったのか、全く姿が見えなくなっていた。

「今年は透明人間? 凄いね、オンラインだからこそって感じ」

 おれの言葉に、彼女はフフンと笑った。顔は見えないけれども、得意げな表情を浮かべているのだろうことが分かる。

「コレね、凄く上手く出来たんだ。本当は直に見せてあげたかったんだけど」

「え?」

 画像合成ソフトを使っているんじゃないのか。仮装と言っても、ここまで完全に透明を装えるものではないだろう。

 戸惑っていると、彼女はプッと吹き出した。

「やだなあ。まだ気付いてなかったの」

「な、何に?」

「いや、気付いてないなら良いんだ。そっかそっか」

 何だか凄く居心地が悪い。おれはもぞもぞと座り直しながら、見えない彼女を凝視する。なぜだろう、付き合いだして数年は経つと言うのに、彼女が今どんな顔をしているか想像がつかない。

「ねえ、一つ確認しておきたいんだけど」

 突然、真剣な声が響いた。

「私のこと、好き?」

「そ、そりゃあ好きだよ」

「私が何であっても?」

「え……? う、うん……」

 言いたいことが分からないまま曖昧に頷くと、彼女はホッと息をついた。少しだけ間が空いて、明るい声に戻る。

「それなら大丈夫だね! 安心した!」

 サッパリ訳が分からないおれを置き去りに、彼女はそれから明け方まで楽しそうに喋り倒した。

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