タマスダレ
この柵を越えた先には、見たことのない世界が広がっているのに違いない。いつか、ここから出ることができたなら……。
「ティム、ご飯だよ」
少年がぼくを呼ぶ。柵の向こうからやって来る少年と彼の父親は、ぼくの食事や水を運び入れ、住処の清掃もしてくれる。なぜ彼らがそんなことをしてくれるのかは分からない。気がついた時にはもう、ぼくは彼ら親子に囲われていた。
何不自由ない生活。ぼくの周りには同年齢の仲間たちが、ぼくと同じように囲われ、生活している。ぼくらの耳には名札が付けられ、少年はそこに記された名を、愛情を込めて呼ぶ。確かに、そこには愛情がある。ぼくには、ぼくらには、それが分かる。
時折、いた筈の仲間が消える。少年も彼の父親も何も語らない。そして、新しい仲間が増える。
一定のサイクルの中で、ぼくは自分が柵の外に出られる日が近づいていることを悟る。仲間たちと別れるのは辛いけれど、それ以上に期待がある。
柵の外には何があるのか。そこで、ぼくを待ち受けるのはどんな運命なのか。
丸くなって藁の中で眠るぼくの背を、少年が愛おしそうに撫でてくれた。
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