第22話 ヨシの本音

 きゅいーん、きゅきゅきゅきゅきゅいーーーーーーん!!


 中に入った途端、リュウの頭の中で頭が割れそうなほどの大きな音が鳴り響き、すぐにこの中にヨシがいるのがわかった。

 真っ暗でよく見えないが、薄らと光が差す方へと向かう。

 すると、部屋の奥に誰かがいるのが見えた。

 ゆっくりとリュウとヒナはその人影に近づいていく。

 そして、中には予想していた通りヨシとビョードーがいて、何やら2人で話をしているようだった。


「ねぇねぇリュウくん。今、2人には私達のこと見えてないんだよね?」

「うん。だけど時間はいつまで保つかわからないから、隠れて見ないと」

「あ、そっか。じゃあ、あんまり近く寄ったらバレちゃうのね」

「うん。あと音を出しても気づかれる」

「え、そうなの? なんだかリュウのその力って使えるようで使えない感じ?」

「悪かったな! ヒナみたいにいつでも使える力じゃなくてっ」

「しっ! 静かにせい。ここで争ってどうする。とにかく聞こえるところまで近づくんじゃ」

「「はーい」」


 ヒナの言葉にリュウが食ってかかろうとすると、すかさず小さなビョードーが止めに入る。

 2人は反省するように小さく返事をすると、ヒソヒソと話しながら2人に近づく。


「あのヨシくん、まだいつものヨシくんのままじゃない?」

「確かにそうっぽいな。2人で何を話してるんだろう」


 ヨシとビョードーは一方的に話してるわけでも、言い合いをしているようにも見えなかった。

 どちらかと言うと会話をしているように見える。

 さっきのリュウのときとは大違いの様子だった。


「もうちょっと近くで見てみよう?」

「でも、あんまり近くに行ったら……」

「そのときは、すぐにヨシくん連れて飛んで逃げれば大丈夫でしょ? それに、小さなビョードーもいるし、何かあったら助けてくれるんでしょ?」

「アタシの力をそんなに過信されても困るが、それなりには役立つよう努力するよ」

「ほら。だから、もっと近くで様子を見てみよう?」


 ヒナがリュウを引っ張って、2人の顔がよく見える距離まで近づく。

 コソコソと話しながら近づいたけれど、2人は自分達の話に夢中なようでリュウやヒナ達の会話は聞こえていないようだった。


【どうして、あのとき帰らなかった?】

「えっと、それは……」

【あの中でお前のみ、帰ることに戸惑っていただろう?】

「…………っ」

【あたしは人の心を見るのは得意なのさ。お主はあの小僧に嫉妬しているのだろう?】


 __え、小僧ってオレのこと……だよな?


 ヨシが自分に嫉妬している、というビョードーの言葉にリュウは戸惑った。

 まさかあの勉強もできて、優しい親友のヨシが自分に対してそんな感情を持ってるなどとは全く思っていなかったからだ。

 ヨシは去年からの転校生だった。

 最初ヨシは人見知りだったのか、誰が声をかけても反応せずにうつむくばかりで、誰とも仲良くしようとしなかった。

 それでも、リュウが辛抱強く何度も何度もヨシに声をかけていくうちに、ヨシもリュウにだけはだんだんと話すようになり、そこからずっと仲良しの親友になったのだ。

 だからこそ、リュウはヨシが自分に嫉妬してるなどとこれっぽっちも思ってみなかった。


「……うん、そうだよ。ボクはリュウが羨ましいと思ってる。ボクにはない、何でもできるところや友達が多いところ、誰にでも平等に仲良くできるところとか、家族の仲がいいところとか……リュウはボクにはないものをいっぱい持っているから……」


 ヨシの言葉に、リュウはギュッと胸が締めつけられる。

 ヨシがそんなことを思ってただなんて全く知らなくて、ヨシの本音に苦しくなった。


 __ヨシ、オレだけなのか……? 親友だと思ってたのはオレだけなのか!?


 リュウはグッとこぶしを握り込んで震える。

 それを見て、ヒナが心配するようにリュウの背を優しく撫でた。


【ほう、なるほど。自分にはないもの、か】

「うん。ボクには勉強しか取り柄がないのに、リュウは何でも持ってる。それがどうしてもボクには我慢できなかった。また元の世界に行ってしまったら、せっかくのこの特別な力もなくなって、ただの平凡なボクになってしまう……。それがボクは嫌だったんだ」

【平凡が嫌、だと……?】

「うん。ボクは特別になりたい。普通の人間じゃ嫌なんだ! ボクはみんなと違ったものになりたいんだ!!」


 必死なヨシの姿に困惑する。

 ヨシはそんなことを思っていたのだと思うと同時に、自分の知らないヨシの一面に、リュウはこれからどうしようか悩んだ。


「何よそれ。ただのワガママじゃない。それにリュウくんは何も悪くないのに八つ当たりみたいに……っ!」

「ヒナ、そんなこと言うなよ」

「だって……っ、転校してきたばかりのヨシくんって何も喋らなくて、暗くて、挨拶もしなくて、みんなから遠巻きにされてたのに、リュウくんが何度も何度も声かけて、仲良くしてあげてたじゃない。それなのに……、酷い!」


 ヒナがいきどおる。

 ヨシの言い分があまりに身勝手すぎて、ヒナはリュウが可哀想だと怒っていた。

 しかしリュウはヨシに対して、ショックな気持ちはあれど、怒る気にはなれなかった。


「でも、どうする? このままじゃヨシくん連れて帰れない、というか私達も帰れないよ?」

「そうだな。どうするか……」


 ヨシがこの世界にいたいと言うのなら、2人は元の世界には戻れない。

 元の世界に戻るためにはヨシの考えを変えさせなくてはならないが、今の話からすぐに考えを変えさせるのは難しいかもしれない、とリュウは悩んだ。


【面白い。そうか、では……こういうのはどうじゃ? あの2人をここに連れて来たらお主をずっとこの世界にいられるようにしてやろう】

「え? 本当?」

【本当じゃ。心ゆくまでこの世界を満喫するがよい。そうじゃな、あたしの魔法もわけてやろう。あの2人を連れてくるのに役立つ】


 ビョードーがそう言うと、ヨシの周りで花火が散る。

 するとヨシの身体がキラキラと光出した。


【これであたしと同じような力が使えるようになった。試しに使ってみせよ】

「う、うん!」


 ヨシは手を出すと、パッとその手から小さな手のひらサイズの花火が散る。

 すると、ヨシの身体が浮遊した。


「ほ、本当だ! 凄い!!」

【これであの2人も捕まえることができよう。あの2人さえこちらが手に入れてしまえば、お主も嫌な世界に帰らずに済む】

「そうだね、ありがとう! 必ず2人を捕まえてみせるよ」


 なんだか雲行きが怪しくなっていき、リュウとヒナは2人でお互いの顔を見やった。


「ど、どうする? 捕まったらまずいよね、私達」

「そうだな。まずヨシをどうこうする前にオレ達が逃げないと……っ」


 そう言い合ってる瞬間、リュウとヒナとヨシの目が合った。


「ヤバっ!!」

【お前達、いつの間に!!】

「に、逃げるよ! リュウくん!!」

「あ、あぁ……っ!!」


 リュウはヨシに後ろ髪を引かれつつもヒナと共に空を飛び逃げ出す。


【小僧達を追うのじゃ!】

「わかった! いってくる!!」


 ヨシはビョードーに呼応するように声をかけると、そのまま飛んでリュウやヒナ達を追いかけるのだった。

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