第16話 ビョードーの物語
むかしむかしあるところに、ビョードーという魔女がいました。
ビョードーはとても魔法に優れていましたが、魔女の中でも誰よりも何よりも身体が大きかったため、魔法の才能を
「魔女がそんなに大きいなんて異常だ、おかしいわ!」
「普通、魔女どころか人さえもそんな大きさにはならないわよ!」
「誰か他の魔女でも食べて大きくなったんじゃないの?」
「普通じゃない魔女だものね! ありえそう!!」
「変よ、変! 何もかもが変よ!」
周りの魔女達はビョードーのことをあることないこと言いながら、何度も何度も毎日毎日飽きることなくいじめました。
そんなあるとき、ビョードーは決意します。
__もう、うんざり! こんな嫌な魔女達だらけの世界はごめんだわ! あたしだけの、「普通」の世界を作ろう!!
ビョードーは常に「普通じゃない」「変だ」「異常だ」と言われ続けたことで、自分の存在が何よりも普通であり、誰もがいじめることのない平和で平等な世界を作ろうと思いました。
そして、ビョードーは自分だけの「普通」の世界を作りました。
ですが、ビョードーは「普通」にこだわりすぎるあまり、ちょっとでも「普通じゃない」住人が出ると、すぐさま自分のところに連れてきて魔法で「普通」に書き換えていました。
ですが、何度も何度も住人の書き換えを繰り返すものの、「普通じゃない」人々は全く消えることはありません。
そのうち、何度やっても「普通じゃない」人が出ることにビョードーは次第にイライラしてきました。
__どうして! どうして私が作った世界だというのに、こうして普通じゃない人が出てくるの!!
普通じゃないものの存在を憎むビョードーは、だんだんと行動が普通じゃなくなってきていました。
些細なことでもビョードーが普通じゃないと感じると、むりやり「普通」に書き換え、そのスパンがだんだんだんだんと短くなってきました。
__あぁ、早く! 早くあたしの望む普通な世界になっておくれ!!
ビョードーは自分の思い通りになる「普通の世界」を強く望みました。
しかしその願いもむなしく、毎日毎日誰かしら普通じゃない人が出てきてしまいます。
そこで疲れたビョードーは、一度休憩をしてじっくり考えることにしました。
そして、どうしてこの世界に普通じゃない人が出るのかを、一生懸命来る日も来る日も考えました。
__何がいけないの? あたしの何が間違っているというの?
自問自答を繰り返すうちに、ビョードーは1つの答えを見つけ出します。
__わかった。この、罪悪感がいけないんだわ。
それはビョードーに残っていた、
いくら自分の世界だからといって、この世界で生きている住人を魔法でむりやりいじるって性格などを書き換えてしまうのはどうなのかという、ほんのちょっとだけビョードーに残っていた良心。
__こんなことをするのは、ビョードーにとってもよくないと思う。
__普通じゃなくたっていいじゃない、それも個性だし、違うことは悪いことじゃない。
そうずっと心の奥で言い続け、むりやり世界の住人に魔法を使うビョードーに抵抗し続けている存在でした。
__あぁ、あたしにこれがあるからいけなかったんだ。これを切り捨ててしまえば、普通じゃない人はもう出ないかもしれない。
普通に考えれば、そんなことをしたところで何も変わらないということはわかりますが、ビョードーはあまりに悩みすぎ、思い詰めすぎてしまったため、正常な判断ができていませんでした。
そのため、正常な判断ができず、これが正しいと思い込んだビョードーは、とびきり強い魔法を使うと、その微かな良心を切り捨ててしまいました。
そして、2度と元には戻れないように、微かな良心をこの小さな部屋に閉じ込めました。
◇
「これがビョードーとアタシの物語じゃ」
「なんだか、ちょっと可哀想だな……」
ずっと身長のせいでいじめられていたということに同情するリュウ。
身長なんて自分はどうしようもできないことに難癖をつけた魔女達のことがあまりにも酷すぎると感じていた。
けれど、小さなビョードーは「それは違う」と首を振った。
「確かにビョードーは、普通じゃないことでいじめられて可哀想な存在だった。けれど、今こうして新しい世界を作ることを選んだのはビョードーじゃ。彼女は本当は「普通じゃない世界」を作るべきだった。そうすれば、何の気兼ねなく過ごせたものを、彼女は選択を誤り、自らを苦しめる「普通の世界」を作ってしまったのじゃ。それは同情されるべきものではない」
なんだかリュウには難しい話で、今はよくわからなかった。
小さなビョードーには否定されたが、リュウはやっぱりビョードーは可哀想だと思った。
「だが、リュウがこうして同情してくれた気持ちはとてもありがたく思う。微かな良心としてお礼を言おう、ありがとうのう」
小さなビョードーが頭を下げる。
なんだかちょっとだけ小さなビョードーは嬉しそうに笑ったのを見て、リュウもちょっとだけ嬉しくなった。
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