第8話 発見

「誰かぁああああ! た、助けてぇええええ!!!」


 聞き覚えのある声が下から聞こえて、屋上から2人で一緒に見下ろすと、そこにいたのはビョードーのところに送還されたはずのヨシだった。

 先程のリュウ同様、複数の大人達に追いかけ回され、道路を走って逃げているのが見える。


「ヨシ! ヨシだ!!」

「な、何でヨシくんがここに!? 送還されたんじゃ!??」

「そんなことはいいから、とにかく助けるぞ!!」

「う、うん! リュウくん、行くよ!!」


 ヒナがリュウの手を繋ぐとふわっと空を飛ぶ。

 そして滑空かっくうするように屋上から地上に向かって降りていく。


「ちょ、ちょ、ちょ、ひ、ヒナ! こわいこわいこわいこわい!!」

「なーにビビってんのよ! ジェットコースターと一緒でしょ? って、リュウくん、ジェットコースター苦手だっけ? でも、ヨシくん助けるためなんだから、ギャアギャア言わないの!」

「そ、そうだけどさぁ!! そんな無茶なぁあああ!!!」


 この世界に来たときもそうだが、落ちるというのがものすごい恐かったリュウは、今にも心臓が口から飛び出しそうなほどの恐怖を抱きながら滑空していく。

 できればヒナにしがみつきたかったが、さすがに同級生の女子にしがみつくのはみっともないと、リュウの理性が必死に抑えていた。

 その代わりにリュウは無意識のうちにヒナの手をギュッと力強く握っていたようで、ヒナはその様子に気づいて、ふふっと笑う。


「わ、笑うなよ!」

「ごめんごめん。てか、もうすぐつくよ! ヨシくんの前に落っことすからリュウくん、ヨシくん捕まえて逃げてきてね!」

「は? え!? お、落っことすってなんだよ!」


 聞いてないぞ!? とばかりにリュウがヒナに抗議すれば、ヒナはけろっとしながら答えた。


「だって、普通に降りたらあの人達に捕まっちゃうじゃん。大丈夫、捕まらないように結構前辺りにゆっくり落っことすから。怪我しないように気をつけてね! じゃ、いっくよー!」

「え、ちょ! ま、待って! 怪我しないようにって、怪我させないようにしてくれっ! って、ま……ひ、ヒナぁああああああ!!!」


 リュウが大絶叫しながら、自分の身長くらいの高さから落とされる。

 一応ヒナが勢いを殺して落としてくれたため、さほど衝撃はなかったものの、それでもリュウは恐くて顔面蒼白だった。

 あともう少し上から落とされていたら腰が抜けて逃げるどころではなかっただろう。


「リュウ! 来てくれたんだね!!」


 ヨシから声をかけられ、ハッと我にかえると目の前にはヨシがいた。

 というか、先程飛んでいたときには気づかなかったが、そのスピードがあまりに速すぎて一気に自分のほうに向かってくるのに、リュウはギョッとした。

 まるで車のようなスピードである。

 リュウは避ければいいのか、受け止めたほうがいいのか困惑していると、キキキーっと急ブレーキをかけたかのようにヨシが目の前で止まった。


「リュウ!」

「よ、ヨシ! お前、随分足が速くないか?」

「そ、そうなんだけど! なぜかはわからないけど、急にこうやって走れるようになってて。てか、とにかく今追いかけられて、逃げているんだ!!」

「あ、そうだよな。とにかく逃げよう! ヒナ!!」


 リュウが頭上に声をかければ、ヒナが「おっけー!」と声をかけてくるのを、今度はヨシが「ヒナちゃん!? な、何で空に!? え、飛んでるの? どうやって!??」と動揺していた。


「その説明はあと!」

「そそ。いいからいいから、とにかく逃げるぞ。オレに掴まれ!」

「あ、うん」


 そう言いながらヨシがリュウと手を繋ぐと、すかさずヒナが空から降りてきてリュウの手を掴んだ。


「待てーーーーー!!!」

「普通になるんだー!」

「ヤバい、追いついてきた!!」


 いくらヨシの足が速いといえど、だらだらと話している余裕はなかった。

 また追いかけてくる人数が増えていて、よく見れば前方からもこちらに向かって大人達が走ってくるのが見える。


「囲まれた!」

「どうしよう! どこに逃げる!?」

「ヒナ、どうする!?」

「うーーーん。よし、じゃあ一気に空に上がるよ!」


 ヒナがそう声をかけると、ギューンと今度は一気に空高く飛ぶ。


「え、うそ! ボク、飛んでる!?」

「ひ、ヒナ!? 一気に飛ぶなんて聞いてないぞ!!」


 ヨシは興奮気味で目をキラキラと輝かせているのに対して、リュウは声が裏返りながらギャアギャアと抗議する。


「しょうがないでしょ! あのままだったら捕まっちゃうんだから! てか、そんな文句ばっかり言ってたら落とすよ?」


ヒナのおどすような言葉に、リュウは一気に青ざめた。


「ひ、ヒナ! それ、確実に死ぬ!!」

「だったら文句言わなーい!」

「わ、わかったから安全運転! 安全運転でお願いしますぅううう!!!」

「どうしよっかなぁー?」

「うわぁああああ、ヒナ! ヒナさま! どうか! どうかお願いしますぅぅううう!!!」

「あははは! たーのしー!! ヒナちゃんもっとやってー!!」


 ヒナがわざと蛇行したり上下したりして揺さぶるのが恐いとリュウは大騒ぎしているのに対し、ヨシは隣でヒナの荒ぶる飛行を楽しんでいた。

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