普通じゃない世界

第4話 ヒナもヨシもいない

「一体どうなってるんだ……」

　景色も人も何もかも一緒なのに、何かが違う。

　そんなモヤモヤとした違和感を抱えながらリュウは登校班の集合場所に向かうと、なぜかいつも１番最初に来てるはずのヒナが来ていなかった。

　＿＿ヒナ、寝坊でもしたのか？　珍しいな。特に連絡帳とか預かってないし、休みではなさそうだよな……？

　リュウがぼんやりとヒナのことを考えながら登校班と合流すると、班長やみんなはヒナのことを気づいていないのか、それとも忘れているのか、なぜか出発しようとする。

「あれ？　班長！　ヒナは？」

　リュウが班長に声をかけると、ぐるん、と班長だけでなくみんながいっせいにこちらを向く。

　その瞳もよく見れば濁ったガラス玉のようで、とても気味が悪かった。

「ヒナ？　誰それ？　とりあえず時間ギリギリだし、早く行かないと遅れちゃうよ」

「え？　ちょ……っ！　ま、待ってよ！！」

　リュウが戸惑っているのなんて知ったことかとでも言うように、班長は歩調速くどんどん先に行ってしまう。

　後続のメンバーもそれに続いて行ってしまって、リュウは慌てて追いかけた。

　普段の班長はとてもおっとりしているというか、のんびりな感じで「みんなついて来れてる？」と気を使って歩調を合わせてくれるのに、遅刻しては大変だというように素早く進んでいく班長に、リュウはますます困惑した。

　＿＿やっぱり、なんかおかしい。ヒナもいないし、みんな見た目は一緒なのに目や中身が違う感じで変だ。

　そう思いながらも、だからと言ってどうすることもできずに、リュウはまたモヤモヤと何とも言えない気持ち悪さを感じながら学校へと向かうのだった。

　◇

　終業式ということで、いつもと同じように体育館で全校生徒集まって校長先生の長い話を聞いたあとに教室に戻る。

　その後、先日の理科のテスト返しということでそれぞれの答案が返される。

　リュウは教科の中でも特に理科が苦手で、毎回点数は60点台か70点台だったのだが……

「おめでとう、リュウくん今日も100点よ！」

「え？」

　＿＿う、嘘だろ？

　自分でも信じられなくてまじまじとテストの答案を見れば、そこには丸だらけの答案。

　100点なんていつぶりだろうか、いや、取ったことなんてあったっけ？　なんて思いながらリュウは自分の席に戻るが、何度見てもテストには自分の名前が書いてあり、全ての回答部分に赤ペンで丸がつけられている。

　でも、よく見れば答えがどう考えても間違えている部分にも丸がついていて、すかさず「先生！」と先生に声をかけた。

「どうしたの？　リュウくん」

「あの、答えが間違ってて……」

「いいのよ、間違っていても。みんな平等に100点なんだから」

「え？　あの……どういうことですか？」

　＿＿平等に100点って……間違っているのに、100点ってこと？

　みんなの答案を見回すと、確かに目につくテスト全てに丸がつけられていて、全部が全部100点の答案用紙だった。

　何もかもがおかしくて、わけがわからない。

　続けてあゆみも返されるが、こちらも全て満点評価で、今まで満点のあゆみなどもらったことがないリュウはあまりにびっくりしすぎて、思わず隣の子に声をかけた。

「なぁなぁ、オレのあゆみ満点評価なんだけど」

「何言っているんだよ、みんな満点なの当たり前だろ？」

「は？」

「大丈夫か、杉野」

　怪訝（けげん）そうに言われて、自分が言っていることがおかしいのか？　とおずおずと大人しく引き下がるリュウ。

　隣の子のあゆみも目に入ったが、彼も満点評価で、それがさも当たり前のような様子だった。

　そしてやっぱり彼も濁ったガラス玉のような目をしていて、周りのクラスメイトも同様に、鈍い輝き方をしていた。

　＿＿ヒナもヨシもいないし、やっぱりなんかおかしい。

　登校中、ヒナはいなくても、学校に行けばもしかしたらヨシに会えるのではないかと期待はしたものの２人ともいないし、机も綺麗さっぱりなくなっていた。

　まるで最初からいなかったかのように。

　それなのにみんな普通にしているし、やたらと普段は男女別々に過ごしていることが多いクラスメイトも、今日はみんな男女共に分け隔（へだ）てなく接しているし、明らかに違う日常に、気色悪くてさっきから嫌なドキドキをすることが多かった。

「リュウくん、さっきからどうしたの？　具合でも悪いの？」

　リュウがあまりにも挙動不審（きょどうふしん）だったのだろうか、声をかけられ、リュウが顔を上げると担任の先生がずいっと顔を近づけてくる。

　あまりの距離感に、「うわっ！」と声を上げて飛び退けば、周りの友達もリュウを囲むように覗き込んできた。

　そしてあの濁ったガラス玉のような瞳が一斉にリュウの方を向き、リュウはどこを見回してもあの濁ったガラス玉が自分の瞳に映り、その光景がとても恐ろしくて息を詰めた。

　あまりの異様さにリュウが心臓をバクバクさせながら小さくなっていると、「リュウくん、具合悪いんじゃない？　保健室に行ったほうがいいわよ」と先生から保健室に行くように促される。

　リュウも、この状況よりかは保健室に行ったほうがまだ安心かもしれないと、素直に従うと保健委員の子が保健室までくっついてきてくれる。

　だが、そのときもなんだか監視されているみたいで、リュウはそわそわと落ち着かなかった。