第7話 慌てる暴風王女と赤い死神
「これはこれは皇太子殿下。お忙しい中良くお出ましくださいました。
しかし、このようなところに毎日のようにいらっしゃって大丈夫なのですか?」
やってきたジャルカがアレクに声をかける。
「部下が優秀だと上司は閑になるんですよ」
「ふぉっふぉっふぉっ、さすが大国は違いますな。
で、今日も成果は上がりましたかな」
「いや、なかなか姫はつれなくて苦戦しております。」
「で、その姫は誰に連絡しようとしておられるのですかな」
「ウィルだそうですよ。サマーパーティに参加している」
「それはそんな楽しいところに参加していたら怖い上司の連絡何ぞ出ませんわ」
笑ってジャルカが言った。ジャンヌから鋭い視線を浴びても年の功かびくともしない。
「サマーパーティと言えばドラフォードの皇太子様もご参加されているとか」
「あの陰険皇太子がですか。そんなに暇なんですかね。」
アレクはライバル国の皇太子の話題に心穏やかで無くなった。
「何故参加なんか。確か皇太子はとっくに卒業している年ですよね。」
「そううちの姫と同じ年でしたな。もう年増ですか」
「ジャルカ爺」
きっとしてジャンヌは睨んだ。
「姫年増とは、皇太子殿下がおっしゃられたのですぞ。」
はめられたとアレクは悔やんだ。
「ジャルカ爺。勘弁してくださいよ。降参です。姫と同じ年だったとは失念していました。」
アレクは謝る。
「ふぉっふぉっふぉっ、口は禍の元ですな。」
また笑う。
「で、そんなに忙しくない陰険王子は何の用で学園に。」
「目の前に座っていらっしゃる皇太子殿下と同じようだそうですよ」
「私と同じ?」
アレクは訝しんで繰り返す。
「確か、ウィルの姉上に昔から懸想しておられると聞いたような気がしますがの」
「何ですと」
それまでのんびりしていたアレクは慌てた。
どこかに電話する。
「今マーマレード王国の王立学園に留学している奴とすぐに連絡を取れ」
「はっ?陛下への報告書?
何を言っている。そんなものどうでもいい。
国家の浮沈がかかっている超緊急要件だ。
第一優先で、全てに優先してつなげ。
繋がったら即座に私に代われ!
判ったな」
叫ぶと電話を叩き切った。
「どうした。今までの余裕はどこに行った。」
笑ってジャンヌはからかう。
「あの陰険王子。女に手を出すのだけは早い。
はっきり言ってあなたのところの弟ではかなうわけもない。」
首を振りながら昔国際会議の休憩時間に女性らに囲まれて優雅にお茶を嗜んでいるオーウェンの小憎らしい顔を思い出していた。
「ついにノルディン帝国の皇太子殿下もクリス様争奪戦に参戦されるのですな」
「何をおっしゃっているんですか。ジャルカ爺。
私は何度も申しておりますように、ジャンヌ王女一筋です。」
まじめにアレクは答える。
「ノルディン帝国としては、うちの王女よりもクリス様が欲しいのでは無いですかな。」
「確かにそうかもしれませんが、無理です。
私は恐怖に震えて彼女と手合わせすらできなかったのですから。」
アレクは対峙した時に思い出すだに恐ろしい殺気を思い起こしていた。
「赤い死神と恐れられたあなた様の言葉とは思えませんな。」
笑ってジャルカはからかう。
「何とでも笑われるが良い。私は生まれて初めて剣も握らずになりふり構わず、逃げ出したのです。」
その時のことはいまだに夢で見るほどだった。
「それ程、アレク様を恐れさせる方なら、そのクリス様を婚約者にしているエド様は最強ですな」
ジャルカは笑った。
その言葉にジャンヌとアレクは思わず目を合わせた。
エドは堅物だ。女の子に対するあしらいなどしていないに等しかった。
クリスに甘い言葉など言ったことなど無いに違いない。
そんなほっておかれた女性が甘い言葉を吐かれたらどうなるか…
いくらまじめなクリスとは言え少しはよく想うだろう。
それも、もしその婚約者にひどい目に合わされていたら。
ひょっとしなくてもなびくかもしれない。
「もし、クリスをエドが振ってオーウェンがクリスの婚約者になったら」
「二度とあの陰険王子に頭が上がらなくなる。」
二人はまた視線を合わせた。
「やばい!」
二人は慌てて精力的に動き出した。
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