第3話転移するウィル

「どりゃー」

掛け声とともに空間から移転してきたウィリアムは全体重をのせてジャンヌに切りかかった。


「まだまだ」

ジャンヌは一瞬ではじき返す。

しかし、その力をそらしつつ更に切り結ぶ。

だが、ウィリアムはじりじりと押し返される。

腕に魔力を込めて強化するがジャンヌの力が勝っていた。


「おりゃー」

ジャンヌの掛け声と共にウィリアムは後ろの木立の中に叩きつけられていた。


「ホッホッホ。ウイリアムも力をつけてきましたが、まだまだですな」

傍で見ていた白髪の老人、魔導士顧問のジャルカは言った。

「でも姫様。おりゃーはちょっといけませんな。お妃さまが聞かれたら何と言われるか」


「ジャルカ爺。お母様に言うのだけは勘弁してくれ」

ジャンヌは苦笑いして言った。


「説教部屋に入れられたら出してもらえなくなるからな」


「今頃はクリス様も苦労していらっしゃるでしょうな」


「うーん、クリスか。クリスには悪い事したかな」

天真爛漫なクリス。


「王妃のお気に入りとはいえあの礼儀作法講座には苦労しているだろうな」

思わず遠くを見たジャンヌの前に


「隙あり!」

瞬間移動でウイリアムが切りかかってきた。

間一髪で剣で防ぐ。


「おのれウィル。卑怯だぞ」

ジャンヌの目が赤く光った。


「えっ。ジャンヌ様ちょっと。あれええええ」

ウィリアムは地面に吸い込まれるように消えた。


「えっ。ジャルカ爺。これはどうした事か」

ジャンヌは慌てた。


「どうした事と聞かれても、姫様は何をされたのですか?」

「何をしたも。今からやろうとした時にウィリアムの奴勝手に消えてしまったぞ。」

「うーん、しかし、あやつめは自分の意志ではなくて飛ばされたように見えましたが、姫様は何をされたのです?」

ジャルカはジト目で見た。


「だから何もしていないって」

慌ててジャンヌは手を振る。


「変ですな。」

ジャルカは首をかしげる


「どっちの方に飛んで行った?」

「この向きですと王都の方ですな」

ジャルカは魔力の流れを辿る。


「王都って500キロはあるぞ。」

驚いてジャンヌは言った。

魔力の多いジャンヌと言えども一度で王都まで行くのはなかなか厳しい。


「そういえばウイリアムはクリス様に騎士の誓いをしましたな」


「ああ、姉を泣かせるやつは許さないと」


「ではクリス様に呼ばれたのではないかと」


「クリスに呼ばれた?」

ジャンヌは胡散臭そうに、ジャルカを見る。


「ジャルカ爺。何をしたんだ」


「いやいや、ウィリアムの心意気にあまりにも感動しましてな。

確か、クリス様が泣かれたら転移するように騎士の誓いの魔法をかけましたのじゃ」


「・・・・・」


ジャンヌは何も返せなかった。


じゃあ地球の反対側でクリスが泣いたら地殻を通り越してウィリアムは転移するんだろうかと今度試してみたいと思わず思ってしまったことは二人には言えないが…

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