ベテラン冒険者が性転換して最速の女剣士になる話

Taso

プロローグ

空風が吹きすさぶ荒野の一角で、緑色の皮膚で覆われた獣人と少女が対峙している。

少女は長細い直剣を細く白い腕で下段に構え、くりくりとした丸い瞳で獣人との間合いをうかがっている。


「ウガアァア!!」


大きな豚鼻で息を荒立てながら突進し、太い腕で棍棒を振り回して少女に襲いかかる獣人。160センチ弱の少女と比較したら2倍以上の体躯の差だが、大少女は慌てた素振り一つ見せずに見つめている。


「ガアアッ!!」


雄たけびを上げながら少女に向かって棍棒を振り下ろす獣人。丸太のような太い腕によって振り下ろされた棍棒の一撃が地面をとらえ、ドオンと地鳴りとともに土煙が当たりを覆う。


標的を仕留めたと満足そうな表情をする獣人だったが、次第にその顔から血の気が引いていく。自身の脇腹に鉄の直剣が突き立てられていることに気づいたのだ。


「ッ!!??・・・ッゴガア!」


少女は棍棒を躱し、獣人の懐へと入り込んでいた。それに気づいた獣人が棍棒を握っていない方の手で少女を殴りつけるが、少女は艶やかな黒髪を揺らし、身をひるがえしてそれをいなす。


「よっ!」


大きくよろめいた獣人。少女は腹に突き刺した自身の直剣を足蹴にすると、カモシカのような細く引き締まった脚からは想像できないほど高く跳躍する。

獣人のはるか上を取った少女は、折れそうなほどに細い腰から短剣を抜き、獣人の脳天に落下の勢いを乗せて突き立てた。


断末魔をあげることすら出来ず、荒野に倒れ伏す巨体。少女は軽やかな身のこなしで獣人から降りると、突き立てた自分の武具を抜き取り、刃の部分に付着した血をぬぐう。


「さすが旦那!その身体でも楽勝じゃないっすか!」


獣人が倒れたのを認めるやいなや、岩陰に隠れていた人影が高い声を上げて飛び出してくる。人影はクリーム色のフードを身にまとった150センチに満たない童顔の少女で、戦っていた少女から武器を受け取って嬉しそうに手入れを始める。


「ありがとうリーン。まあこの程度は流石に倒せなきゃな」

「いやーおみごとでしたよ~」


リーンと呼ばれた少女は背負った大きなカバンから砥石だして剣を研ぎ始める。厚いフードの上からでもわかるふくよかな二つの膨らみが、剣を研ぐために動く腕に応じて小刻みに揺れている。


「はぁ・・・どこまでやれんのかねぇ・・・」


あどけない顔に似合わないリーンの豊満な胸を見ながら、自分の身体に目を落とす少女。白を基調にしたワンピース型の服の胸元を盛り上げる二つの双丘を見つめ、少女は力のない声でそう呟いた。


「とっとと元に戻らねえとな・・・」


可愛らしい声でそう呟く。長いまつ毛の可愛らしい眼で荒野の地平線を見つめながら、少女は数日前に起きた悲劇を思い返した。


―――――――――――――――――――


「はぁ・・・はぁ・・・おい!・・・ほんとにあるんだろうな情報屋!?」

「ちょっと待ってくださいよジークの旦那!・・・こちとらこの身体でこんな荷物しょってんすから・・・」


俺はジーク。この道20年の冒険者だ。この腕一つで技を磨き、身体を鍛えてこの世界を生き抜いてきた。今俺はある目的のため、深い木々が生い茂る獣道を、後ろのやつが通れるようにかき分けながらすすんでいる。


「待ってくださいって・・・っ!・・・大丈夫っす。近づいてるっすよ」

「そ・・・そうか・・・」


後ろをついてきているちっこい情報屋の青白い眼が、一瞬赤く光った。これがこの世界に生きる人間が魔物に対抗しうる最も有力な手段、『オース』だ。

基本的に魔力を一切持たない人間が、なぜか必ず一つ生まれ持ってくる不思議な力。このオースを武器に俺たち人間は魔物を退け、大陸中に点々と国家を形成している。

このガキのオースは空間色覚だとかなんとか言っていた。なんでも自身の周囲数十メートルにある物を鳥瞰するようにすべて把握できるらしい。


「ちっ・・・とっとと俺も強いオースが欲しいぜ」


鑑定士によると、俺のオースは筋肉増強・・・らしい。聞こえはいいが要は身体が頑強になるだけで、空を飛んだり、超パワーで敵をなぎ倒したりはできない。必死に鍛えて努力して、屈強な筋肉と巨躯を手に入れたが、所詮は人間技。炎だの雷だのを操る、いわゆる『強オース』を持つ冒険者に比べたら、俺のはあってないようなもんだ。


「もうすぐです。あ、もうちょっと東寄りに進んでください」

「東だな・・・よし・・」


俺が高い金で雇った情報屋の話では、この森の奥深くには新しいオースを授けてくれる場所があるらしい。

怪しすぎる噂なうえに、ここまで複雑に入り組んだ深い森だ。当然常人なら聞く耳も持たない話だったが、このガキの空間色覚のオースがあればたどり着ける可能性があること。そしてなによりも、俺よりも経験も知識もない若輩たちが強いオースを武器に名を挙げていく現状に嫌気がさし、俺はだめもとでこいつを雇うことにした。


「そうです!そのまままっすぐ~」


後ろのガキの気の抜けた声にイラつきながら、俺は鎧に覆われた太い腕で木々をかき分け道を進む。

早く強い力を手に入れて、己を誇示したい。力を示したい。

半信半疑のはずだったのが、いつの間にかそれを当てにしてしまっていると気づく。それほどまでに俺は強いオースを切望しているのだ。


(強いオースがあれば・・・俺も・・・)


俺が苦労して切り伏せた魔物を一瞬で灰にした炎。それにより祭り上げられる若い冒険者。この世界はオースがすべてだ。リーンとかいうこのガキだって、10代半ばにして便利なオースを売りに情報屋を営んでいる。

俺は、そんなオースに頼り切った冒険者が嫌いだし、自分の力では何も出来ない女子どもも嫌いだった。


----

案内を聞きながら獣道をすすむと、あれだけ生い茂っていた木々が嘘のような広けた空間に出た。足元は複雑な文様が描かれた石畳で覆われており綺麗な十数メートルのサークルを描いている。


「っ!?・・・まさかほんとにあったのか!?」

「あたりまえじゃないっすか~」


高い木々に覆われた、神秘的な石のサークル。その雰囲気はただならぬものを俺に感じさせ、ほんとうに強いオースを手に入れることが出来ると信じ込ませるのに十分だった。

俺ははやる気持ちを抑えながら、俺は円の中心へと歩みよる。石畳を踏みしめるたびに、床の文様が幾何学的な光を放つ。


「ちょっ!・・・ジークの旦那!・・・危ないかもしれないっすよ!?・・・なにが起こるかは、オイラもわからないっす!」

「うるせぇ!・・・これで俺はもっと強くなれるんだ。」


強い力が手に入る。40年以上の年月を、ほとんどオースを持たない状態で過ごしてきた俺にとって、その誘惑は強烈だった。どれだけ鍛えても努力しても埋まらない絶対的な周囲との力の差を、ついに埋めることが出来る。


俺がサークルの中心に立つと、石畳を埋め尽くしていた文様が一斉に光を放ち始める。

周りを覆う木々がどこからともなく吹く風によってざわめきだし、空気が小刻みに揺れているようだ。


「ジークの旦那!・・・・大丈夫っすか?」

「ああ!・・・そこで黙ってみてろ!」


強さを増していく床の光と空気の振動。それに伴って俺の心臓の鼓動も加速していく。


光が大きく強くなり、俺の全身を包んでいく。ついに。強い力が手に入るんだ。


「なんだっ?・・・うわあーっ!!」


全身を包んだ光がさらに強さを増し、俺の身体が不思議と宙に浮きあがる。

周りの文様から発せられる光が、次々と俺を焦点に集まってくる。


一瞬目の前が真っ白になる。


気が付くと俺は自分の足で石畳の上に立っていた。

周りを見渡すと、幾何学的な文様が消えている。空気の震えも木々の揺れも収まっており、先程感じた神秘的な雰囲気が嘘のようだ。


「これで・・・オースが手に入ったのか?」

「旦那?・・・大丈夫ですか?・・・っ!?・・・だっ・・・だんな??」

「っ!?・・・な・・なんだ・・・こりゃ・・・?」


駆け寄ってきたガキが素っ頓狂な声をあげている。何事だと思ったが、次の瞬間、俺は自分の身体に強烈な違和感と熱さを覚えた。


「うぐっ・・・か・・からだが・・・」


身体中の筋肉が勝手に緊張と弛緩を繰り返し始める。勝手に伸び縮みする筋肉に強烈な違和感を覚えるが、変化はそれだけではなかった。


「なんだっ・・・し・・・視界が・・低くっ?」


身体中の筋肉が伸縮しながら少しずつ小さく圧縮されていく。四肢や胴が短くなり、ごきごきと嫌な音を立てて背骨を中心に骨が縮んでいくのが分かる。筋骨隆々だった俺の身体の角ばった凹凸が少しずつ消え、なだらかな線を描いていく。大きな鎧に身体が飲まれ始め、かろうじて頭だけは何とか出せているが、2メートルを超えていたはずの俺の視界は、目の前のガキの頭のあたりまで下がってしまった。


「な・・・なんでこんな・・・っ?・・・こ・・・こえも?」

「だ・・・だんなぁ・・・」


どすの聞いた自慢の声が、だんだんと目の前の女のように甘く甲高い声になっていく。のどぼとけを触って確かめたいが、鎧からかろうじて指先だけ見えている程度の今の俺の手ではのどを触れることすら出来ない。


「うぐっ・・・あ・・・あしが・・・っこしも・・・うわぁっ!」


足の関節が少しずつ下に下がっていく。自然と脚が内またになり、そうでないと立っていることすら覚束なくなってしまう。未知の感覚に困惑していると、腰回りの骨がぐぐっと大きく広がる。広くなった骨盤に張り付くように肉が付き始め、腰が括れた曲線を描くように丸くなる。


「ああっ・・・なっ・・・なんだ・・・これぇ・・・」


変化はまだ止まらない。全身の肌がきめ細かく白くなり、10代の少女のような張りと艶を得る。ごわごわしたインナーと自分の肌が擦れる感覚がこそばゆくなってしまう。

どんどん身に付けた鎧が重くなり、ついに俺は立っていられなくなって石畳に倒れこむ。

尻もちをついてしまうが、着いた尻を押し上げるように下半身に脂肪が付きはじめ、むしゃぶりつきたくなるような細く艶やかな女脚へと変わっていく。


「ひ・・ひげが・・・か・・・髪の毛も・・・・ああっ!!」


無精ひげがパラパラと抜け落ち、それと同時に短く切りそろえていたはずの髪が、あふれ出るように伸びてくる。

続いて、顔を羽毛で撫でられるような感触を覚えると、まつ毛が伸び、唇はぷっくりと艶やかでみずみずしくなっていく。


「うう・・・む・・・むねがぁ・・・ああんっ!」


身体が縮み、鎧との間にできた大きな空間を埋めるように、平らだった胸が少しずつ膨らんでいく。黒ずんだ乳首はピンク色にかわり、乳輪が大きくなっていく。

それに比例するようにぷにぷにした脂肪が胸元にあつまり、胸元だけは、大きな鎧とサイズがフィットする。大きくなった乳頭がインナーにつぶされ、俺の喉から発したことのないような情けない嬌声があふれでてしまう。


「あっ・・・なっ・・ちんこが・・・な・・なくなってくぅ・・・」


体毛一つない真っ白な太ももに似あわないどす黒い男根がしゅしゅしゅと身体の奥へと引っ込んでいく。小さい豆程度まで小さくなった亀頭がだけが残り、その下にはピッチリと閉じた割れ目が形成されていく。


「はぁ・・・はぁ・・おれ・・・おんなに・・・なっちまったのか・・・?」


バクバクと脈打つ心臓に荒い息。俺は必死に状況を整理しようとするが、あまりに壮絶な身体の変化に思考が追い付かない。ただ、今の自分の身体は、以前と絶望的なほどに違うということだけははっきりと分かった。


「じ・・・ジークの旦那!・・・ひ・・・ひとまず転移を・・・!」


心配そうに俺を見つめる少女の顔をみながら、俺はかろうじてつなぎとめていた意識を手放してしまった。

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