06-copycat crime(1)
イヤダ、イタイ、コワイ。街に再び子供の泣き声が響く。中年男がその子供を追いつめているらしい。すでに斬りつけているようで、あちこちから血が流れている。斬り方が下手なせいか、それともわざとなのか、止めを刺すまでには至らない。
子供は痛みに苦しみ続けるだろう。
「なんで、
男は完全に理性を失い、自分が何を考え口に出しているか分かっていない。『悪ガキ殺し』に殺された自分の子供を思い、何故かよその子を殺す。そこに矛盾を感じることはない。何故なら、視野が明らかに狭くなっているからだ。自分の子供が殺された。他の人間も同じ目に遭えばいい。そんなことしか考えられていない。
「お前の、親も、苦しむといいな」
ようやく刺された止めは、相変わらず手際が悪かった。
「
「好物……食べ物の話ですか? なんだろう。ラーメンとかですかね」
「ラーメン? 似合わないね」
「ラーメンって似合うとか似合わないとかあるんですか」
面白がって隣に座った
(新しい『悪ガキ殺し』が出た、ね……)
心の中で呟きながら、どうしようかと栖田を見上げる。どうやらまだこの情報は栖田まで届いていないらしい。
「戸端くん、仕事の愚痴とか無いの?」
「愚痴……ですか……自分のミスに落ち込むことはありますけど」
「え、今度は何したの?」
そこから、戸端のコピー三百枚事件の話が始まる。マンガのような話に思わず食いついてしまったが、それどころではないので、口をパクパク動かして栖田に新しい『悪ガキ殺し』の事を伝える。
「戸端くん、紅茶のお代わりどう?」
栖田のその台詞は、睡眠薬入り紅茶が差し出される合図だった。
「子供が殺されたって?」
「俺じゃねーぞ」
「分かってるよ、さすがに」
相変わらず、戸端と生蛇の監視は続いている。朝から晩まで必ず誰かと一緒にいる。そして何より、
「すごく下手なのよ、色々と」
そう言って依砂が取り出したのは、現場の写真。それを見た瞬間、生蛇は汚ねーなと呟いた。そして、その場にいる写真を見た人間は生蛇の言葉に同意した。利き手は右、ゲソ痕有り、監視カメラに顔は映っていないものの体型等はハッキリ映っていた。
「あっという間に捕まえられそうだな。普通に捜査すれば」
「まともな捜査員いないからね。拘束後は手伝ってくれるけど、拘束前は一切やらないし……毎日簡単な事務仕事だけで帰ってくのよ」
そりゃあ犯罪も増える。呑気に呟いた生蛇の頭が依砂の手帳によって叩かれる。
「いってぇな。なんのつもりだ?」
「殺人犯のあなたに言われるのはなんか腹立ったのよ」
「……そーかよ」
不服そうに返事をした生蛇は、写真を手に取り目線まで持ち上げる。じっと見つめ、考え込む。手がかりを探しているのかもしれない。
「一応これも模倣犯になるのかしらね」
「なあ、あのさ」
口元に手を当て、視線は写真に落したまま口を開いた
「これ、得物は分かってんの?」
「包丁っぽいとまでしか」
落ち込むようにそう言った依砂は、市警向きじゃない。あそこは正義とか人のため世のためとか考えない人間じゃないとやっていけない。それは最初から分かっていたはずだった。でも、変えてみせると言って飛び込んだのだ。好転しないことを嘆きたい日もあるだろう。
「なあ、依砂。明日時間あるか?」
「時間……? まあ作れないこともないけど」
「隣街、行くぞ」
「なんで」
生蛇の急な提案に、誰もが驚いた。タイミング的に事件に関わることなのだろうが、積極的に動くのにも、そこに依砂を連れていくのにも、全員が驚いたのだ。生蛇が行くと決める時は大体、勝手に決めて勝手に出かけ、誰かが必死に追うという形だった。だから、出掛けるのに誰かを誘うなんて、と皆驚いているのだ。そこで、動いたのは
「まさかデートの誘いじゃないよね?」
「あー、なるほど。いや、事件の捜査だ。この前街行ったときに見かけた男の事が気になってな……買った包丁の銘柄は覚えてるから、実物見せて照合とまでは行かなくとも、何か……」
「まって、あの一瞬で見かけた銘柄を今も覚えてるの?」
「覚えてるけど?」
平然と答える生蛇に、驚きが隠せないまま
「で、明日付き合ってくれんの?」
「ええ。事件解決の為なら」
依砂が了承したのを確認して、今度は栖田の方を見る。そして紅茶を要求した。
「つーわけで、依砂借りてくな」
意地の悪い表情を浮かべ、栖田の反応を窺う。栖田は嫌そうな顔を隠さずに溜め息を吐いた。そして、生蛇の前に紅茶を置くと一度睨みつけてから、口を開く。
「明日の夕飯のリクエストは?」
「依砂に危ないことをさせたりはしねぇから安心しろ。そーだな、煮込みハンバーグで」
「別に依砂のことは何も言ってない」
「顔で言ってるじゃねえか結構分かりやすいぞ」
生蛇には栖田と依砂の関係が、なんとなく予想出来ているらしく、既に面白がっているようだった。そういう空気感が分からない笛地は動揺していたが、誰も気にすることはなかった。
今日の夕飯のリクエストは、オムライスだった。
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