第70話

「ありがとうございます。では早速ご協力いただきたいのですが、先ほど会話に出てきた例のサービスとは何のことですか?」

「うわ、覚えとったか。参りよるなー...わしが言ったて内緒にしてくれるか?」

「もちろんです」


 毛利は謎の調査サービス機関について話し始めた。

 基本的には人探しのサービスだが、今まで何度か利用してきて、探し人が見つからなかったことはなかったという。現在の徳永秀康氏の居場所以外は。

 ん?

 ということは、例の魂とコンタクトを取れる能力者もそのサービスを使えば?

 しかし、時子でさえ掴めない情報を持っている機関があるとは信じがたいところだが。

 時子もそれを狙って仲間に引き入れたのか。


「ではそのサービスに、"魂とコンタクトを取れる人物"を探してもらえるように依頼していただけますか?」

「なんやそら、急にオカルトかいな」

「真面目なお話です」

「料金、高くても払ってもらえるん?」

「はい。環境省の予算範囲であれば」

「お!大きく出たねぇ。ほな聞いてみるわ。見つからんでも怒るなよ。それと、決してこのサービスの裏を探らんと約束してくれ」

 時子と共に首肯すると、毛利はどこかに電話をし始めた。

 今時、音声だけの電話?

 会話はこちらにも聞こえるようにしてくれている。


「探し物探索サービスです。お客様の探しているものを番号で選択してください」

 録音されたような機械的な女性の声が流れる。

「人の場合は1を、物の場合は2を、動物の場合は3を、それ以外の場合は4を押してください」


 プ。


「人の探索ですね。手がかりとなる情報をなるべく多くお知らせください」

「手がかりちゅうか、魂とコンタクトを取れる人物を探してほしいんやが」

「条件はそれだけですか?」

「おう。後は生きてるってとこやな」

「畏まりました。料金は100万円となります。これから言う銀行口座番号に振り込みを確認した後、調査を開始します。推定所要時間は30分です」

 銀行口座番号が告げられた後、電話は唐突に切れた。


「推定所要時間が30分って、そんなに早く見つかると思いますか?」

 思わず口走ってしまった。

「けど、最初に徳永秀康調べてもろたときは7分て言うて、3分くらいで見つけてきたで。100万円なら出せるやろ?」

 瞬時に時子が振り込みを完了させる。


 ピリリリ!


「早速きたで」

 まだ3分も経ってないぞ。


「先ほどご依頼いただいた人物の探索について、結果をお聞きになりますか?」

「おう!たのむわ」

「結論から申し上げますと、魂とコンタクトできる能力を持っている人物はこれまで全世界に7人いましたが、残念ながら現在は生存者はいません」

「え?そーなん?」

「ほんの少し前まで日本にも該当者がいたのですが」

「ちなみに何て人?」

「假屋崎静。日本の子として生まれた女性ですが、先日すでに亡くなられています」


 静?!


「そうなんか、そらしょうがないな、おおきにな」

「お役に立てず恐縮です」


 ガチャ!


「すまんな、もうおらんらしいわ」

「毛利さん、ナイスです!」

 思わず声が上ずった。

 毛利氏がキョトンとしている。

 まさか謎だった静の特殊能力が「魂コンタクト」だったとは、チャンスが繋がった。


【瑞希】(環境省)

 日本に帰ってきてから特にやることがなく、家にも帰らず環境省の庁舎に泊まりこんでいた。

 皆を生き返らせるには、月に行って皆の魂に働き掛ける必要があるとソマチットが言っていた。


 そもそも魂って何なんだ?


 人が死ぬと天に還るとか、永遠不滅の存在とか、いろんな説があるみたいだけど、ソマチットの言うとおりだとすると、天がすなわち月で、また地球で生を受けるための待機場所ということらしい。

 確かに人智の及ばない領域はまだまだあるとは思うけど、月ってちょっと安易な気がするなぁ。

 ま、皆を助ける唯一の手掛かりなんだから、月に行くしか手はないんだけどね。


 今ふと思ったけど、僕ってこんなに人のことを想えるんだって、すごく意外な気がした。

 どちらかと言えば、ずっと人を避けて生きてきたのに、今は皆を絶対に助けたいと思ってる。

 ずっと自分自身に対して諦めの思いしかなかったのに 、今は何かを期待してる!

 自分でもビックリだけど、初めて生きてるって実感してるんだ。


 そんなことを考えていたら、鍊から、例の記事を書いたという人物の事情聴取が終わって、報告したいことがあるので集まって欲しいと連絡があった。


 会議室に向かう途中、玲奈さんを見かけた。

「玲奈さんも鍊から連絡があったんですか?」

「あ、瑞希くん。そう。何か重大なことが分かったみたいね」

 玲奈さんは松葉杖をつきながら、結構速い速度で歩いていた。


「わざわざ召集しなくてもAICGlassesで話せばいいですよね?」

「あ、でもリハビリになるから、動いた方がいいんだ。それと、瑞希くん、敬語はやめてよね」

「玲奈さん、実年齢は60歳超えてるし」

「それは言わないで!あ、でも瑞希くんのおかげでまた生きることができたわ。ちゃんとお礼を言ってなかったわね。どうもありがとう!」

「いや、たまたまですよ。お礼はソマチットに言ってください」

「また敬語!ソマチットね。今度じっくり調べてみたいわね」

「いつでもいいですよ。人を殺せとかでなければ」

「そんなことしないわ。安心して」

 玲奈さんと話してると何か楽しいな。


 会議室に着くと、鍊、時子さん、静が待っていた。


【鍊】(環境省)

 皆を呼んで、毛利氏と繋がりのある調査機関が、例の能力者が静であることを割り出したことを告げた

 皆半信半疑だったものの、静ならそういう能力を持っていても不思議じゃないと妙に納得していたが、当の本人は、

「え?俺っち、そんな能力持ってんの?でも今まで他人の魂が見えたことなんてないナリよ」


 当然本人が気づいていればすぐに話が出てきたはずだ。

 さて、どうしたものか。

「静は魂についてどう考えてる?」

「そうだなぁ、あまり考えたことなかったけど。半分物質、半分精神エネルギーってとこかな。まだ見つかってないダークエネルギーが絡んでると思うんだよねー」


 ダークエネルギー?

 世界中の物理学者が血眼になって探していたというアレのことか。

 ダークエネルギーとは、本来物質同士が影響すれば、宇宙の膨張はいずれ停止し、収縮が始まるはずが、膨張は止まるどころか加速しているという観測結果から、見えない何らかの物質と何らかのエネルギーが存在していると予測されたもので、ダーク(解らない)エネルギーと名付けられた。


 宇宙の約7割を占めると言われており、我々が観測できる物質やエネルギーよりもはるかに割合は高いというが、未だに確たる観測はできていなかった。

 そのダークエネルギーが人間の魂と繋がりがあるとは、今まで誰も提唱してこなかった話だ。

 魂とコンタクトできるということは、ダークエネルギーを感知できるということなのだろうか?


「ホントに俺っちにその力があるんなら、使えるのかどうか調べてみるよ」

 静にその能力があると示したのは、毛利氏が知っている謎の調査機関だが、何を根拠にこの能力があると断定したのかはよく分からない。それでも今はこの情報に頼るしか道がない。


「あのー」

 瑞希が何か言いたそうにしている。

「今出てきたダークエネルギーって、ソマチットが前に使ってるって言ってて、その時は気にも止めなかったんだけど、もしかして関係あるのかな?」


 何と!

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