第64話

【瑞希】

 光子ひかるこちゃんて誰だ?

 もしかして、時子さんの妹とか?

光子ひかるこは超強力な閃光弾だヨ」

 静から期待外れの返答が来た。


「内蔵してる水素を核融合させて、瞬時に大量のガンマ線を放出させるんだけど、内部でガンマ線の振動数を落として、赤外線、可視光、紫外線を10秒間くらい出せるんだす。明るさは太陽の250倍!まともに見たらカメラでも壊れちゃうヨ」

 何そのビッグバン直後の宇宙みたいな明るさ。


「武蔵の視力を活かして、光子ひかるこが光ってる間に敵を制圧してちょ」

 え?

「武蔵は眼が良すぎて、そんなもの見たら失明しちゃうんじゃないの?」

 と、率直に訊いてみたけど、

「武蔵の眼はそんなヤワじゃないのよ。ねー武蔵?」

「確かに通常の閃光弾なら直視しても問題ないが、そんな桁外れの明るさ、試したことないぞ」

「大丈夫大丈夫、実はあの目薬に特殊な機能があるから、武蔵の眼を守ってくれるよ」


 例の武蔵が自分で点せない目薬(笑)には、眼球表面を滑らかにする機能と、もう一つ、あまりにも光度の高い光(光波の振幅の大きい光)は一部を反射して、眼に入る光を調光するという機能があるらしい。

 という訳で、穴から光子ひかるこを発射して、閃光でこちらが見えなくなっている隙に武蔵がM107で敵を倒すという作戦で行くことになった。

 ホントにうまく行くのかな...


【武蔵】

 父ちゃんが大丈夫と言うんなら、大丈夫なんだろう。

 早速光子射出機とM107を持って穴の中に入って行く。

 既にこの穴は敵にバレてるから、出口の手前から光子を射出する準備をする。

「じゃ、始めるよ」

 皆は光の届かない穴の奥で待機している。


 パシュッ!


 光子を射出すると、すぐ後に炸裂して辺り一面が真っ白になった。

 光子は途中で敵に撃たれて、100mくらい飛んだところで炸裂したらしい。

 穴から出てM107を構え、スコープを覗くと、扉のところに大型のアンドロイドらしき影が2つ見えた。

 光学迷彩を纏っているが、あまりの光量で影ができてしまったようだ。


 ドン!ドン!ドン!ドン!


 早速、M107で頭部と胸部に1発ずつ、計4発撃ち込んだ。

 全弾命中、その後光学迷彩の機能停止を確認。

 唐突に光子が燃え尽きて、辺りは真っ暗になった。

 反撃される気配はないようだ。


「皆、大丈夫そうだ。先に進もう」

 皆を呼んで穴から降りて、警戒しながらトンネルを進む。

 扉までは特に危険はなさそうだ。

 扉の前まで行くと、例のアンドロイドが2体倒れていた。

 眼の部分にかなり大きなゴーグルのようなものを着けている。

 これで光学迷彩も可視化してたんだな。視力強化、長距離射撃に特化したアンドロイドだったようだ。

 そんな眼で光子を直視したら一溜まりもないな。


 扉は高さ3mほど、アリアの話によると、厚さ1m、裏側に直径20cmほどの鋼鉄製のシリンダーが両側に11本、計22本で固定されているらしい。

 核攻撃を想定して作られたものだから、茉莉姉の斬擊でも破るのは困難だろう。

 扉の横に随分古そうな端末が設置されている。

 AICGlassesでアリアを呼び出し、セキュリティの解除方法を聞こう。


 アリアは呼び出しにすぐに反応した。

「ご無事で何よりです。え?見つかっちゃったんですか?あぁ、そうなるとこのトンネルの先は危険ですねぇ」


【果歩】

 今のところ、ほとんど武蔵のおかげでここまで来られた感じだけど、いつまでも小学生に頼ってばかりでは心苦しいわね。

 瑞希も若干そう思っているようだし。


 アリア曰く、

「見つかってしまった以上、手前の扉から奥の扉までの約30mの区間は、マイクロソフトブラックホールで攻撃されるのは避けられないと思います」

 とのこと。マイクロソフトブラックホールって、アレでしょ、当たると何でも吸い込まれちゃうっていう、ヤバい兵器。

 でも、逆に自分たちに当たる前に何かが当たれば消滅するってことよね。

 うーん、何かを投げてぶつければ防げるってことかしら。

 取り敢えず、扉の方は時子に任せて、マイクロソフトブラックホールの攻略方法を考えましょう。


【瑞希】

 何この古めかしい端末。

 扉の横にある、キーボードがカールコードで繋がっている端末を調べてみる。

 付いてる端子に知ってる端子が一つもない...

 裏側を覗くと、見たことのない接続端子がたくさん付いていた。


「これはRS-232Cという端子です。通信速度は20kbit/sec程度ですね」

 時子さんが教えてくれた。


 20kbit/sec?

 アルファベット1文字で8bit使うとすると、1秒間に2,500文字、2,500文字しか送れないの?!

 今のEPR通信では20Tbytes/secの通信速度が標準のはず、一体何桁違うんだ?!

 僕が愕然としていると、時子さんはおもむろにその端子に繋がるケーブルを掌から引き出した。


 あぁ、やっぱり時子さんてアンドロイドだったんだね。

 姿や造作が人間そっくりだったから、今までほとんどアンドロイドなんて感じがしなかったけど、手からコードが出てくると、さすがに現実を直視させられた気がする。

 しかし、あんな古い端子のケーブルが出てくるということは、時子さんには、それ以降全ての端子が内蔵されてるのかな?


「そんな訳ないでしょ。超小型3Dプリンタで今作ったのよ。因みにプラスチック、金属、ビニール、材料も自由に精製できるのよ」

 何か果歩が偉そうに説明してくる。

 僕が時子さんに振られたからって、上から言わなくたっていいのにー。

「のにー、じゃないわよ。あんたはここを突破する方法をしっかり考えなさいよ」


 ここを突破する方法って、マイクロソフトブラックホールがどこからどのくらい撃ち込まれるのかも分からないし、真下から撃たれたら防ぎようがないんじゃない?

 取り敢えず、通路に入ったらどうなるかを試してみないと。

 でも、ブラックホールってことはかなりの重さがあるはずだから、撃ち出すには相当なエネルギーが必要になるはずだし、スピードが遅いと地球の重力ですぐに落ちちゃうから、普通に考えると真上から落ちてくる軌道が一番確実な気がするな。

 ということは、傘みたいなものをさして、その上にたくさん物を載せれば防げるんじゃないかな。


 その案を皆に話してみたところ、

「ありです」

 と時子さんに認められた。

 かなり嬉しい。

 でも、だからと言って側面や下から攻撃されないという保証は全くない。

「そうなったら茉莉のジャグリングの技と武蔵の射撃で防げばいいんじゃない?」

 果歩がフォロー案を出してくれた。


 そうこうしていると、時子さんが扉のセキュリティを解除して、大きな音を立てながら防爆扉が開き始めた。

「セキュリティ自体はほぼないに等しいのですが、通信速度が遅くて手間取りました」

 通信速度が遅いって、ある意味有効なセキュリティなのね。

 向こう側の扉も同じように開いている。

 で、誰が最初に行くのかな。


「茉莉と武蔵は援護だから後でしょ。私がやられちゃったら皆の中継ができなくなるでしょ。時子ちゃんがいないと先に進めなくなるかもだから、必然的に瑞希でしょ?」

 ま、そうなるとは思ってたけど、ホントに僕がいなくなったら皆困るんじゃないかなぁ。

 ま、立案者だし、しょうがないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る