第21話

「とのことですが、いけますか先輩?」

「村雨先生の戦闘力は期待できるのか?」

「五十三万です……と言いたいところですが、大きな戦力にはなりえないと思います。ただし――」


「「ただし?」」

。取り乱すこともないでしょう。なのでバールを一本霧島先輩にお渡ししておきます。先生と合流後は屠り方を教えてあげてください。そうすれば単体相手ならなんとかやってくれると思います」


「精神面が成熟しているのは助かるな」

「はい。よって霧島先輩が確保するのは村雨先生、車の鍵、保健室で役立ちそうなもの三点となります。瀬奈、サポートを頼む」

「OKよ。ちなみに村雨先生合流後はどうするつもり?」


「OA室で集合。瀬奈は駐車場まで安全なルートを調べてくれ」

「秋葉くんの合流を待つ、というわけだな」


 さも当たり前のように言う霧島先輩だが、

「いいえ。もしも霧島先輩の方が先にOA室に到着していた場合、俺の合流を待たずして駐車場に向かってください」


「「なっ!」」

「ちょっ、ちょっと待ちなさい。まさか秋葉くんを置いて先に別の合流地点に向かえ、なんて言わないでしょうね?」


 勘の良い瀬奈。俺は彼女の決め台詞を拝借する。

「ビンゴ」

「呆れた……」

 額に手を当ててため息をこぼす瀬奈。


「君の合流を待たない理由を聞きたい」

「ますどう言う形で決着がつくかが読み切れません。どれだけ時間を要するか分からない以上、先輩たちの〝ただ待つだけ〟という浪費を避けたいのが一点です。最悪の場合、俺が感染者となってしまう可能性もあります。そうなれば合流などもってのほかです」


 この意見に納得がいかないのだろう。瀬奈は食い気味に、

「学校には医薬品のある保健室、食料のある調理室があるから籠城には悪くないと思うのだけれど。OA室ここを拠点にしている限り外部の様子も監視カメラで確認できる。もちろんいずれは学校を脱出することにはなると思うわ。それは確定でしょう。けれど日没前に脱出するために秋葉くんの合流を待たないのはどうかしら。仮に秋葉兄弟のケンカが長引いて日が落ちてしまったら脱出を明日にすればいいだけじゃないかしら。感染云々だってスマホで知らせてくれれば確認できるのだし」


 一理ある、というよりもごもっともである。

 俺は三人をチームに誘った身だ。

 リーダーとしての役割を果たすべきなのは間違いない。

 そんな立場の人間が先に行けと言っているのだからそれなりの説明が必要だ。


「学校を脱出するなら日が落ちるまでだ。暗闇に感染者という組み合わせ一気に難易度が跳ね上がります。これが俺を待たずして別の合流地点に向かって欲しい理由ですが、それだけじゃありません」


「……ほう。最大の理由は他にある、ということか?」

「はい。俺はチームを率いる立場である以上、瀬奈、霧島先輩、村雨先生の生存率を高めることが仕事です。世界は終末に向かいますが、それでも少しでも快適で楽しい生活にしたいと思っています。そのためにどうしても手に入れたい――手に入る場所に向かって欲しいんです」


「OA室以上に安全で快適、楽しい拠点があると言いたいのかしら」

「そうだ」

「ではその正体を聞かせてもらおうか。この作戦を受け入れるか否かはそれ次第だ」


 俺は深呼吸し二人の目を見据える。

「俺が先に向かってもらいたい場所は――◾️◾️◾️◾️◾️◾️です」

「「はぁっ⁉︎」」


 新たな合流地点を告げた俺に瀬奈と霧島先輩は驚きを隠せない様子。

 まあ村雨先生と合流する目的の一つと被っているわけだし、意味がわからないのも無理はない。


「すまない。君のことだから何か考えがあるのだろうが、新たな拠点がどうしてそこなのか理解できない」

「正確にはその場所が拠点になるわけじゃありません。そこで手に入るものが拠点になります」

「???」


 首を傾げる霧島先輩とは対照的に俺の発言をなんとか理解しようと顎に手を置く瀬奈。やがて彼女の頭にあるものが閃いたのか。ものすごい速さでキーボードを打鍵し始めていた。


 よき。よきかな。

 瀬奈は自分の任された役割をよく理解している。きっと最も近くでそれが手に入る先とルートを検索していることだろう。そこへ天才三人が手を携えながら向かう光景を浮かべるだけでも楽しくなってくる。


 彼女たちならきっとやってのけられるはずだ。

「なるほど。秋葉くんの目的は◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ね」

「ビンゴ」

「その発想は無かったよ。さすがだな秋葉」


「もちろんメリットばかりじゃありません。決してデメリットも無視できないです。しかし俺はこれから◾️をしながら生き永らえようと目論んでいるんです。もし良かったら二人にもぜひ付き合って欲しい」


「でも……」

 未だ決断しきれない瀬奈。一方、霧島先輩の決断は早かった。

「瀬奈くん。このチームのリーダーは秋葉くんだ。その彼が約束の場所に必ず帰還、合流すると言っているんだ。統率者の言葉を信じ我々も任務を遂行しよう」


「これだから脳筋は……」

「なっ……!年配者に対してそれは無礼だぞ瀬奈くん」

「ただし条件があるわ」


「聞かしてくれ」

「必ず合流しなさい。もしも学校でくたばることがあったらあの世まで追いかけて殺しに行くわよ」

「もちろん私も同行させてもらう」


 怖い女だな。死んでんのに、あっちまで追いかけて殺しに来るのかよ。

 執着心がハンパじゃねえよ。

 だが、もちろん俺の答えは一つしかないわけで。


「承知した。約束は必ず守ろう」

 こうして全体の流れを共有できた俺たちは細部を詰めて行くことにした。

 周辺機器の設定、ルートの検索、通信・連絡方法やその手段etc……。

 瀬奈が立ち上げた計画プランに時間や各々の役割が追記されていく。


 さあ、いよいよだ。学校を脱出するための最終計画が始動する。

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