星の降る丘
平中なごん
一 流星
「――うわぁ~きれい! ウオーレス、あなたが見せたかったのってこの星空なの?」
細く眩い光の線を夜空に描き、降り注ぐ無数の流星にフランソワが感嘆の声をあげる。
「……ああ……そうとも言えるし、そうでないとも言える……」
環状に立ちながら並ぶ石柱の中心、テーブル状の平たい石の上で私もその美しい天体ショーを見上げながら、そんな謎かけのような曖昧な答えを彼女に返した。
その落ちて来る光の背後に目を向ければ、濃紺のキャンパス地には牡牛座が天球の頂に上り、中でもヒアデス星団のアルデバランが一際力強く輝きを放っている。
「どういう意味? ……確か、あなたは珍しい動物がいるから見に行こうって言ってたのよねえ? じゃあ、やっぱりこの星空が見せたかったわけじゃないってこと?」
「……ああ……この美しい光景は副次的なものさ……そう、副次的な結果なんだ……」
訝しげに眉をひそめて聞き返すフランソワに、私はますます彼女を混乱させるであろう、意味深長な言葉を感情に任せて口にする。
ここは、マサチューセッツ州アーカムからほど近い場所にある、かつてはダンウィッチ村(英国風の発音ならダニッチ村)と呼ばれていた地方の小高い丘の上……昔はひなびた寒村だったようだが、今ではすっかりベッドタウンとして開発が進み、同じような一戸建ての民家が軒を連ねる、ごくごくありふれた郊外の街になっている。
それでも、古代の環状列石遺跡が残るこの丘陵の周辺は、地元の伝承で〝呪われた土地だ〟とまことしやかに言い伝えられており、現在でも近づく者のほとんどいない、当時の景色を留める静かな場所のままになっている。
私――ウォーレス・ナンは、恋人のフランソワ・モルゲンの誕生日にこの観光名所でもなんでもない…否、それどころか、いわく因縁つきのうら淋しい田舎の丘陵地へと彼女を誘った。
誕生日プレゼントとして、生物学者でもある彼女にある
「言ってる意味がよくわからないけど、とってもうれしいわ! ありがとう、ウォーレス」
だから、幸いにもフランソワは喜んでくれているようであるが、私が本当に見せたかったのはこの流星群ではない……否、それは
「それにしても、残酷なほどに美しい光景だ……」
いつまでも降り続く無数の光の線を見つめ、いつしか私の両の眼からは自然と涙が溢れ出して冷たい頬を伝ってゆく。
だが、それはこの美しすぎる絶景に対する感動の涙でも、ましてやフランソワが喜んでくれたことへのうれし涙でもない。
これは、もう如何なる行いを以てしても取り返しのつかない、人類史上、最悪とも呼べる大罪を犯してしまったことに対する後悔と絶望から流れ出た涙なのである。
今、私達の上に降り注いでいる〝流星〟は、いわゆる隕石が大気圏突入時に燃えて光っている類のものではない……。
あれは……あの何百、何千と降り注いでいるものは、私が星の彼方より召喚した
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