いじめられっ子だった俺はダンジョンの現れた世界で最強能力【トランスフォーム】を駆使して無双する

TB

第1話 防府で始まる終焉

「くそつまらねぇこの世界、無くなっちまえばいいのに……」


 俺は、切れた唇を噛みしめながら呟いた。


 その時……


 世界は終焉を迎えた……


 俺をたいした理由もなく殴りつけて来た男が、もう一発パンチを放ってきた瞬間に、足元が大きく揺れて足場が崩れた。

 態勢を崩した男は俺に覆いかぶさるような形になり、俺も必死でその男の胴体に抱き着いた。


 そのまま足場は崩れ去り、殴りかかって来た男の勢いで加速がついたまま、その場に出来た穴に落ちて行った。


 体勢的には、バックドロップががっちりはまってるような感じだ。

 一分近く落ち続けるが、俺は恐怖で男の胴体に回した手を放す事も出きなかった。


 そしてようやく落下が終了する瞬間、とてつもなく巨大な何かが俺をにらみつけてきた気がしたが、そのままにらみつけた瞳に、俺と一緒に落ちた男が、頭から突き刺さった。

 見ようによっては俺がその巨大な目に向かって武器を突き刺したようにも見えたかもしれない。


 そんな気はさらさらないがな。

 俺は、目の回りの瞼のような場所に激突したが、そこはフカフカのクッションの様な柔らかさで衝撃を吸収した。


 だが結果として巨大な瞳に突き刺さった男の身体は、巨大な生物の脳みそにまで達してしまったようで、そのまま巨大な生物も倒れた。

 突き刺さった男もモンスターの脳みその中にうずもれて、ピクリとも動かない。

 俺が殺した? いや違うな…… 勝手に落ちて死んだだけだ。

 そう思う事にした。


『世界で最初のモンスター討伐を確認しました』

 スキル『鑑定』を習得しました。


『世界で最初の階層クリアを確認しました』

 スキル『収納』を獲得しました。


『世界で最初のダンジョンの踏破を確認しました』

 このダンジョンは10秒後に消滅します。

 スキル『トランスフォーム』を獲得しました。


 何だ一体。

 何が起こっている。


 そう思っているうちに一瞬目の前が暗くなり、次の瞬間には、俺が殴られていた場所へと立っていた。


 俺を殴っていた男の仲間が、俺に声をかけて来る。

「おい、正木、重野はどこ行ったんだ? 今お前どうやって現れた?」


「重野? 誰だそれ? 俺は興味のあるやつ以外の名前なんか覚える気もねぇし知らねぇぞ」

「ああ? 何だと? お前と一緒に穴に落ちて行っただろうがよ」


「何寝言言ってるんだ。何処にあるんだその穴」

「何処にってそこに……」


「ねえよな? 馬鹿に付き合う気にもならんから帰るぞ」

「待てよコラ」


 そう言いながら、その場に居た男3人が俺の前に回り込んだ。

「ちゃんと、お話をしたくなるまで、殴ってやれば喋る気にもなるだろ?」


「勝手にやって見ればいい、もしかしたらお前の考えが正しい可能性もあるからな」

 そう言いながら普通に歩き始めた。


 3人の男が殴りかかって来る。

 見えるな、普通に、だが……

 よける必要もなさそうだ。


『ズガッ、ボキ、 ドゴッ、ペキ パシン、パキッ』

 3人の拳はそれぞれ俺の顔を捉えたが、次の瞬間3人とも手を押さえてうずくまった。

「なんだお前ら勝手に殴り掛かってきて、勝手にうずくまるとか、新しいコントか? 全然面白くないから、他でやらない方が良いと思うぞ?」

「ア、アヒ、来るな、近寄るな、バケモンが」


「あ? 俺がお前らに何かしたか? お前らが勝手に俺の前にしゃがみ込んでるだけだろ? あ、ほら俺が歩いてる前に転がってるから、脚踏んじまったじゃねぇか。邪魔だな」


 俺が踏みつけた足首の辺りは、はっきり見て取れるほどに潰れてた。

「ヒッ……」

「なんだ汚ねぇな、小便まで漏らしやがって。俺の前に二度と顔を出すな。次に見かけたら、壊すぞ」


 ◇◆◇◆ 


 その日世界中に突然俺が落ちたのと同じような穴が1000か所以上も開き、更にその穴は1分後には構造を変え、下に降りる階段の様な作りになった。


 更にその穴からは、モンスターと呼ばれる事になる【UMA未確認生物】が現れた。


 このUMAと言う言葉は、英語の様に見えるが日本人が勝手につけた和製英語だ。

 英語では、Cryptid (クリプティッド)が正しいらしい。

 どうでもいいけどな。


 ◇◆◇◆ 



 俺は家に帰りながらスマホを見た。

 世界中に巨大な洞窟が突然現れる。

 詳細不明。


 という文字が見られるだけだった。

「ここだけじゃ無かったんだな」


 家までの道のりの20分程の時間が経つ頃には上空にヘリコプターの音も聞こえて来た。


 ここ山口県の防府市は瀬戸内海に面した小さな地方都市だ。

 上空を飛ぶヘリコプターはこの市の海側に存在する、航空自衛隊の所属機だろう。


 家に着くと、俺はテレビを付けた。何処の局もこの突然開いた穴の事を放送してる。

 テレビ局のカメラがとらえる映像は、穴から湧き出る見た事のないような醜悪な生物たちだ。


 そのUMAは、本能のままにやじ馬で集まっていた人間を襲い始めた。

 すぐに映像が途切れる。


「何が起こったんだ」


 テレビの映像は流石に人がUMAに襲われる姿を流すわけにもいかずに、スタジオの映像に変わる。

 悲痛な面持ちのアナウンサーが、現時点解っている概要を喋る。


 世界中で1000か所以上の穴が確認され、その穴からは例外なくUMAがあふれ出している様だ。

 日本でも20か所ほどが確認されている。


 この辺りでは福岡県の福岡市内と広島県の広島市内に現れているらしいが、どちらもここからは遠く離れているので、すぐにどうこうという事は無いかもしれない。


 ◇◆◇◆ 


 改めて俺は先程の事を思い出す。


 俺は苛めにあっていた。


 クラスの気の弱い女子に対して、無茶な要求をしていた所謂いわゆる不良グループの、重野と言う男に盾突いたからだ。

「おう、カッコいいな王子様かよ? 俺がこの女をどうしようがお前に関係ないだろうがよ? まぁお前がサンドバッグ代わりに殴らせるなら、こんなブス相手にするよりは、暇つぶしになりそうだな」


 それが始まりで、それから事あるごとにこいつらのグループに、暴行を受けていた。

 クラスの奴らは、関わり合いになりたくなくて、俺と口も利かなくなっていく。


 その時庇ってやった女子も「私、助けてなんて頼んでないよね?」と礼も言わずに俺を避ける。

 クソな世界だ。


 今日も放課後にいつもの様に殴られて、その時に地震が起こり穴に落ちたんだが、スキルってあれか?

 ラノベで主人公が当り前の様に手にする能力だよな?


 俺が主人公なのか?

 ありえねぇな。

 今の俺なんて力を手にしても、人を助けたいなんて思わない。

 積極的に殺そうとも思わないがな……


 3つあったな……


 鑑定、収納、トランスフォーム


 俺は鑑定と念じてみた。

 

 正木勇気 16歳

 人間

 168㎝

 53㎏


称号

 世界初モンスター討伐者

 世界初階層クリア者

 世界初ダンジョン踏破者

 

ギフトスキル

 鑑定

 収納

 トランスフォーム

  【エンシェントドラゴン】


 表示はそれだけだ。

 HPやLV、ステータスってッていうのは無いんだな。


 これじゃ何もわからないのと同じだ。

 もう一回エンシェントドラゴンを鑑定してみた。


 エンシェントドラゴン☆☆☆☆☆☆☆

 体長40m

 体重420トン

 無属性ブレス

 飛翔

 身体強化Ⅹ

 物理耐性Ⅹ

 魔法耐性Ⅹ

 状態異常耐性Ⅹ


 あーダンジョンのラスボスだけあって強そうだな。

 トランスフォームって言う事は、それに変身できるのか?


 やって見るか……

 あ、結構でかかったよな。

 ここで表示通りのサイズになったらこの家どころかこの町内が壊滅しそうだ。


 近所の大きな神社の横にある天神山の頂上なら大丈夫か?

 

そう高い山でもないし30分もせずに辿り着く。


『トランスフォーム』


 俺の身体は見る間に膨れ上がった。

 着ていた服ははじけ飛ぶ。

「やべぇ今元に戻ったら、俺ただの変質者じゃねぇかよ」


 だが、恐らく今の俺はほぼ無敵だ。

 全ての存在が、ちっぽけに感じる。

「取り敢えず、服探しに行くか」


 俺は大空高く飛び立った。

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