重なり

長かった授業と終礼が終わり、僕はみんなが教室を出たことを確認してから担任に一言、感謝の意を告げてから教室を出た。ドアを開けてすぐ、女生徒がこっちをじっと見て立っていた。そしてゆっくりと口を動かした。

「逃げるの?」

一体なんのことだろう。主語をここまで明白にしない人がいたことに素直を感心した。意味が分からないので無言を貫いていると

「涙解離性障害は逃げてばかりだとずっと治んないよ」

さっきの僕の心の声が漏れていたのか、しっかりと言葉にして伝えてきた。

「なんでそんなこと分かるの?」

思ったことを正直に口にしていた。すると彼女は考えるような仕草を見せ、顎に指を当てた。あざとい女だ。

「んー、勉強出来ない人の気持ちが分かるのは、勉強が出来ない人でしょ?それと同じだよ」

「普通に言ってほしい」

僕がそう言うと彼女はカバンから1枚の紙を取り出し、僕に見せた。そこには『診断書』『夏城青葉』『病名 涙解離性障害』と書かれていた。彼女の長い髪が揺れ、僕に一歩また一歩と近づいてきた。

「つーまーり!私は君と同じってことだよ」

口角をあげ、ニヒッと笑う彼女は続けて言った。

「このあと時間くれるよね?」



「いやー、まさか同じ症状の人が同じ学校で同じクラスとはすごい偶然だね」

学校の近くにあるカフェに着くなり彼女は僕の肩を叩きながら笑ってそう言った。

「確かに。僕も少し驚いた。それで僕をカフェに連行して何を吐かせるつもり?」

「つれないなー。少しは花のJKと仲良く話そうとは思わないのかね」

「何をするつもり?」

クラスの人に見られたら後々めんどくさいことになるから早く帰りたい。その気持ちがつい言葉に出てしまった。彼女は観念したかの様な顔で小さく声を発した。

「涙解離性障害になったきっかけ‥かな」

涙解離性障害は過度のストレスにより発症すると言われている。しかしおかしなことに発症したきっかけは忘れることはなかった。

「つらいことを言わせるんだね」

気づいたらそう言っていた。すると彼女はまたニヒッと笑い口を動かした。

「だって、お互いのことが分かれば、これから話す時に地雷踏まないで済むでしょ?」

「そういうことか」

「これからってところについては否定しないんだぁ」

言われて気がついた。これから?

「どういう意味?」

「つーまーり、私は君と友達になるってこと」

なるほど、この女おかしいぞ、と心で唱え続けた。けど友達になると言うことについては反対する気はなかった。涙解離性障害の二人が友達になったとして、ケンカなどをしたら、二人とも忘れてしまう。つまり、誰も傷つかないと言うことになる。

「そっか、友達か。いいよ」

「え、案外あっさりだね。映画とか小説だと断ってるところだよ⁉︎」

なんかいちいちめんどくさい。ラブコメのヒロイン級に疲れる女だ。

「まぁ、いいや!君がそういってくれるなら今日から友達ね!春樹って呼ぶから春樹は青葉って呼んでね」

「うん、よろしく」

頼んでいたアイスコーヒーが運ばれてきてから彼女は少し真面目な顔つきになった。

「じゃあ、本題にもどそっか、春樹のきっかけを教えてほしい」






 






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