第37話 夜空に咲く花

「うわぁ!」


「おぉ~」


「すごいねぇ」


「だね」


 バーベキュー大会が終わって。

 その後みんなでゲーム大会をしたりアイスを食ったり。そんなののほんとした時間を過ごしていたら、気づけば辺りは暗闇に包まれていた。


 バーベキューの残り物で夕飯を食べた後、俺たちは庭で花火をしていた。 

 今日一日だけでどれだけ夏らしいことをしたのやら……もはや今日で夏休みが終わりでも信じれるレベルだ。


「花火ってほんと綺麗だよねぇ」


「だねぇ」


 暗闇に鮮やかな色たちを着色していく花火は美しくて、さっきまであんなにはしゃいでいた四人も静かに花火を見ている。


「夏って感じだねぇ」


「夏だねぇ」


 今日アイツらは何度このセリフを吐いたのだろうか。

 いや、分からんでもないんだけどね?


「よしっ! どんどん花火やっていくぞ!」


「おう!」


 テンションが上がってきた花が、どんどん花火をつけていく。

 俺とみくるは、そんなフレッシュな若者たちを横目に、またもや夜空を眺めていた。

 実は今この場で、最も綺麗なのはこの夜空なのだ。


「なんだろうね、この夏の終わり感」


「分かる。こういうのって大体夏休み最後の方に畳み掛けて、『夏休み楽しかったね』って思い出を振り返るとこなんだが……初発だからな」


「だね。でも楽しいからいいんだけどさ」


「まぁな」


 そう返事して、俺たちはまた夜空を眺めた。

 満点の星空が広がる夜空には無限大の可能性が広がっていて、ロマンを感じずにはいられない。


 気持ちの高ぶりを感じる。

 

 すると突然、みくるが俺の手を包むように握ってきた。


「み、みくる?」


「……い、今寒いからさ」


「夜とはいえ、めちゃくちゃ夏なんだけど……」


「うっ……な、なんていうの? えいちゃんが今の状況に興奮して走り回らないように……ね?」


「俺は犬か。リードなんていらないんだよ」


 もし本当に犬扱いされていたのだとすれば、ショックこの上ない。

 せめて人間でありたい。


「……だめ?」


 上目遣いでみくるがそう言ってくる。

 俺は不覚にもみくるにドキッとした。


 だって、みくるの上目遣いが可愛すぎたから。


「ダメじゃねぇよ……」


 今度は俺から少し握る。

 一瞬ぴくっと震えたみくるだったが、すぐに俺を受け入れ、今度は指を絡ませてきた。

 なんという積極性。グイグイくる。


「……そんなに、寒いのか?」


「……ま、まぁね」


 照れながらもそう言う。


 昔は手を繋ぐことなんて当たり前で、よく手を繋いでいた。

 だけどお互いを男女として認識するようになってから、どこか手を繋ぐことを恥じらう気持ちが湧いていた。


 でも、今こうして数年ぶりに手を繋いだ。


 懐かしい――


 多分昔も、こうやって手を繋いで夜空を見上げたんだと思う。


「……」


「……」


 俺たち二人の間に会話はない。

 あるのは夏の夜の涼し気な風と、一瞬をきらめく花火とそれではしゃぐあいつらの声だけ。


 でもそれらが全部、一枚壁を隔てて向こう側にあるような感じがあった。

 だが、それでいい。いや――それがいいのだ。


 

 その後、俺とみくるはあいつらの花火がなくなるまで、手を繋いでただひたすら夜空を眺めていた。

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