第109話 運命の出会い?
舞台の内容は王道な、仲間と共に悪を討つ、といった内容だった。
そして、このお話の勇者達がこの世界の人間と結ばれた事により、『髪色が色鮮やかになるきっかけとなった異世界人』と言われている事を知った。
舞台が終わり、セルヴァとシャナスルに別れを告げて、精霊界へと帰した。
そして、挨拶をする観客が少なくなるのを地上で待ちながら、ハルカとカイルとサンはお伽話の話をしていた。
「混じり気のない赤やら金やら、そんな髪色だったと記述が残っている。ようは異世界からそのまま渡ってきた、という事を伝えるような書き残し方だったんだ」
「勇者達みんなが、そのままの姿でこの世界に来たの?」
「そうみたいだ。この時代は記録に残る異世界人の他に、そこまでの記録に残らないほど生活に溶け込んでいた異世界人もいた、とされている。不思議な事が起こりやすい時代だった、なんて言われていたんだ。竜なんて存在も、今は確認できないしな」
かなり大昔の話のようで、カイルもあまりはっきりとは理由を説明できないようだった。
「難しい話はわかんねぇけどよ、この勇者達は、この世界になんの義理もねぇのに命を賭けてくれた事がすげぇと思うんだ。普通はさ、いきなり知らない世界に来て、やばい奴となんか戦いたくないだろ?」
サンは至極真面目な顔でそう語った。
「そうだね。私もそう思う。とても心が強い人達だったんだろうね」
「かっこいいよな。俺もそんな勇者みたいになりてぇもんだ」
サンはキラキラとした目をしながら、そんな願いを口にしていた。
「本人が勇者だと思えば勇者だ。ほら勇者、そろそろ挨拶しに行くぞ」
「カイル、お前、本っ当にそういうとこ、直せよな!」
カイルはサンの言葉を呆れたような顔で聞き流しながら、演者達の方へ歩き始めた。
「ったく。まぁ、あながち間違いじゃねぇけどな。さぁ、俺らも行くか!」
「うん!」
きっとカイルの言葉通り、本人が本当に勇者になると決めてしまえば、そうなるのかもしれない。
そんな考えを浮かべながら、ハルカも2人に続いて歩き出した。
舞台となった広場の左端にある白い大きな壺に観覧料を入れ、それから演者に挨拶をしたい人はそちらに立ち寄るような流れだった。
「ど、どうしよう。何話すか、考えてなかった」
「思ったままの感想を伝えたらいい。さぁ、ようやく俺達の番だな」
エルフ族の勇者役の女性はファンが多いようで、中々順番が回ってこなかった。
しかし、待った甲斐があって、ハルカ達が最後の挨拶をする観客になれた。
「は、初めまして、ハルカと言います! 初めて観ただけなのですが、演技がとても凄くて、どうしてもお話ししたかったんです!」
「まぁ……! それはとても嬉しいお言葉です。私はミア、と申します。初めて観ていただけて、それにご挨拶まで。こんなに幸せな事はありません」
目の前で微笑むミアさんは、よく通る声で答えてくれた。
背はハルカと同じぐらいの高さで、前下がりのおかっぱのような髪型をしており、淡い金色の毛先をしっかりと切り揃えていた。
目はつり上がり気味の猫のような目でキリッとしているが、小さな口が桜色をしていて、全体的に涼しげな美人の印象が強かった。
舞台が終わったままの格好なので、耳は尖った装飾が付けられたまま存在するミアさんは、本物のエルフ族に見えた。
「動きがとても優雅なのに、力強くも感じました。それが何かに祈るような姿に見えて、とっても素敵でした。あと、心まですっきりして、とても元気になれました!」
「そこまでお褒めいただけるなんて……。本来なら、お客様に対して気持ちを込めなければいけないのですが、またやってしまったようですね」
ミアさんは困った顔をして、そんな事を言い出した。
「何かいけない事でもあるんですか?」
「私は物語に心奪われて、『あなた方のお陰で私達には今がある』と、想いを昔の英雄達へ込めてしまうのです。すると、お客様の姿が目に入らなくなって……。お客様の気分を晴らすのはいいが、舞台だという事を忘れないように、と団長によく叱られているの」
何かが違うと思った理由はこれだったんだ、とハルカは思った。
「私は素人でよくわからないのですが、人の心を動かす演技に悪いものなんてないと思います。それに、観ている人を元気にするのは、ミアさんだから出来る事ですよね? だからそれも含めて、こんなにも感動している人が沢山いるんだと思います」
「そう言っていただけるだけで、私は救われます。嬉しいお言葉の数々、本当に感謝しかありません」
頭を下げようとするミアさんに慌てつつも、ハルカは急いでカイルとサンの紹介もした。
「私だけじゃないんです! 私の連れも、お礼を言いたいと言っているんです。カイル、サン、お待たせ!」
まずはハルカからゆっくり話せばいい、と2人から気を遣われ、少し離れた場所で待ってたカイルとサンを呼び寄せた。
「もういいのか?」
「まだ話し足りなかったら、遠慮せずに話せよ〜」
そんな事を言いながら、2人は歩いてくるとハルカの横に並んだ。
すると、カイルに負けないぐらい色白のミアさんの頬が赤く染まった。
「とても心地良い癒しだった」
「本当に凄かった! 君だけ別の世界の人間に見えた。舞台なんてちゃんと観た事なかったけどよ、感動したぜ」
カイルとサンがそれぞれ感想を伝えると、ミアさんがカイルに一歩近づいた。
「あの……、お名前はなんて?」
「カイルだが……」
「カイル様……」
なんだかよくわからないけれど、ハルカはとてつもなく嫌な予感がした。
「あの、ご職業は?」
「冒険者だが?」
「まぁ……!」
カイルも怪訝な顔をしているけれど、サンも同じような顔をして、事の成り行きを見守っているようだった。
「これは運命なのですね!」
そう言うと、ミアさんはいきなりカイルの手を掴んだ。
「私を、カイル様の伴侶にして下さいませ!」
「「えぇっ!?」」
伴侶って、結婚!?
あまりにもよくわからない言葉が飛び出し、ハルカとサンの声が重なった。
当のカイルは目を見開いたまま、動かなくなってしまった。
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