第92話 私だけの通信石

 セドリックさんに自身がカイルの遠い親戚だという事を、今更だが伝えた。

 そして今までの過ごしてきた境遇の設定を初めて聞かされ、唖然としていたハルカだったが、今は通信石の事に集中していた。


 さっきのカイルの話は、宿できっちり問い詰める。


 そう決意して、目の前の様々な形の通信石に目を向けた。


「冒険者なら装飾としての小さなものより、大きめの頑丈な通信石がいいじゃろ」


 その助言通り、ハルカは大きな通信石に目を向けた。


「沢山ありますね」


 シンプルな四角や丸い石、他には葉っぱのような石や動物の形をしている石と種類が多くて目移りしてしまう。

 そして1番気になったのが花の形の通信石だった。


 ルチルさんの宿は白いユリだったし、アルーシャさんのは青バラだったよね。

 私も花がいいな。でも花だけでも沢山ありすぎて悩む……。


 どれを見ても色鮮やかで可愛いく、決めかねていたハルカはカイルに声をかけた。


「沢山ありすぎて私だけじゃ決められないから、一緒に選んでもらっていい?」

「いいぞ。ハルカはどんな形がいいんだ?」


 隣で一緒に見ていたカイルは、すぐに承諾してくれた。


「1番気になってるのは花の形なんだけど、みんな綺麗で迷ってる。それと……」


 精巧な作りに透明度の高い赤やピンク色の花は、どこかに飾っておきたくなる綺麗さだった。

 そう考えながらも、ハルカはカイルの通信石も気になり、尋ねる。


「カイルの通信石はどんな形なの?」

「俺か? 俺のはこれだ」


 そう言ってカイルが収納石がら取り出したものも一瞬、花のように見えた。でもよく見ると、細長く尖った葉っぱが、手のひらに収まるぐらいの小さな花束のような形を作り上げているのがわかった。


「これ……、葉っぱ?」

「そうだ。この葉が邪気払いを意味するから、と持たされていたんだ」

「とっても、大切なものだね。見せてくれてありがとう」


 葉っぱ、かぁ。

 こうやってまとめるのも、いいなぁ。


 こうして、更に悩み始めたハルカに、カイルが1つの通信石を手に取って渡してきた。


「俺はこれがハルカには似合うと思うぞ」


 そう言ってカイルが手渡してきたのは、ハルカの手のひらに収まる大きさの、オレンジ色のガーベラのような通信石だった。


「これ、綺麗だね」


 カイルが選んでくれのもあって、ハルカには余計にその通信石が輝いて見えた。


「……カイルよ、わかっていて選んだのか?」


 すると、セドリックさんがそんな事をカイルに尋ねていた。


「わかっていて……? 何かあるのか、この通信石」

「自覚無し、なんじゃな……。ハルカさん、それでよければ受け取ってやってくれ。その花がこやつの想いじゃ」


 カイルの想い?


「あ、あの! 想いって?」


 自分でもわからないが、ハルカは慌ててセドリックさんに尋ねた。


「いや、わしから言わんでもそのうちカイルの口から聞く事になるじゃろう。教えてやりたいが、この老いぼれは無粋な真似はせんでおくぞ」


 そう言って、ほほっ! と笑うとセドリックさんはカウンターの向こう側へ行き、椅子に座った。


「ハルカさんが選んだものならわしからの贈り物にするところじゃが、選んだのはカイルじゃ。ここは男らしく、ハルカさんへの贈り物にするがいい」

「そのつもりだ。ハルカ、これでいいか?」

「う、うん! それがいい!」


 こうしてハルカはカイルが選んでくれた通信石を手に入れ、帰路についた。


 ***


「まずは、通信石を選んでくれてありがとう。それに贈り物にしてくれた事、とっても嬉しかった」

「気にするな。俺が買いたくて買ったんだ」


 ハルカは宿の部屋に着くとすぐ、カイルに真剣にお礼を伝えた。

 そしてそのまま、先程の事を問いただした。


「あのさ、私に言ってない事、あるよね?」

「言ってない事?」


 驚いた顔でこちらを見られたが、ハルカはじっとカイルを見つめ続けた。


「わからない? じゃあとりあえず、椅子に座ってくれる?」


 少しイライラしながらも、ハルカは話が長くなりそうなので、着席を促した。


「どうしたんだ? 言ってない事……。そうか、武器の支払いの事か! 事前に言わなくて悪かった。でもあんなに大量のフェザーラパンをおびき出せたのはハルカのお陰だったから、素材の金はハルカの為に使おうと思ってたんだ」


 そう言いながら椅子に座ったカイルを見届け、ハルカも対面に座ると更に尋ねた。


「そう、それはありがとう。でもね、それじゃないの。あの通信石の説明は……、何?」


 セドリックさんに説明していた私の『カイルの遠い親戚』設定。カイルの中ではもう既に物語が出来上がっているようだけど、私は何も聞いてない!


 そんな事を考えながら質問したので、ハルカの声が若干低くなった。


「通信石って……、あっ」


 面白いほど表情が変わったカイルは、小さな声で言葉を紡いだ。


「ハルカがこの町に来るまでどうやって過ごしてきたのか、の説明で合ってるか?」

「それです!!」


 対してハルカの返事は、カイルの声をかき消すぐらいの大きな声だった。

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