第55話 変化する魔法
探知の魔法の成功が早かった為、補助魔法を頼まれたはるかはカイルからフェザーラパン討伐の作戦を聞かされていた。
「ハルカは補助系が得意だと思うから、まずはさっきの魔力を広げる応用で対象を掴む事をイメージしてほしいんだ」
「わかった、やってみる」
掴むだけでいいなら私にも出来るかもしれない。
そう思ってはるかは短い返事をした。
「捕まえたら俺が仕留める。時間があれば魔法で俺を捕まえられるか試してから実戦に移るのが理想だが……今はフェザーラパンが逃げる前にやってみよう。失敗しても気にするな」
「うん」
さっきからずっと何かを食べているようなフェザーラパンの姿を見ながらはるかは返事をした。
「ハルカの好きなタイミングでいい。魔法の言葉も好きにしていい。任せた」
その言葉が嬉しくて頷いたはるかはすぐに魔法を発動させた。
「捕獲」
言葉はもう短くていい。
探知を成功させたイメージを忘れないうちに魔法を使ってしまおう。
そう思いながらはるかは両手で自身の武器を握った。
先程成功させたからか、魔力を広げるスピードが早くなった。
はるかが思った以上にフェザーラパンに早く到達し、うまく片足を捕まえた。
「キュイーーー!!」
一瞬、はるかと悲鳴を上げたフェザーラパンの目が合った。
「上出来だ、ハルカ! あとは任せろ」
カイルは自身の武器に手をかけ、走り出そうとしたその時——異変は起きた。
先程の声を聞いて、はるかは別の事を考えてしまったのだ。
可愛い鳴き声……。
ここにいなければ倒される事もなかっただろうに……。
こう思った瞬間、魔法が変化した。
フェザーラパンを黒い霧が球体のように覆ったと思ったら、その球体が花開くように拡散した。
そしてその霧が晴れると……フェザーラパンの姿は跡形もなく消え去っていたのだ。
「ハルカ……消失なんてえげつない魔法を使ったな」
「うそ……消えちゃった?」
そんな魔法に変化すると思わなくて、はるかはしばらくの間唖然としていた。
倒すつもりなんてなかったのに……!
そんなはるかの気持ちに反応したかのように森が少しずつざわめき始める。
自分の魔法を使うのが怖い。
そんな消極的な考えがはるかの頭に浮かんだ瞬間——
「守護せよ」
カイルはいつの間にか双剣を構え、何故かはるかに魔法をかけた。
「えっ? どうしたの?」
「ハルカ……何か違う事を考えたんだな? 本当なら説教ものなんだが、今回は褒めておく。でかした!」
理解が追いつかないはるかはカイルの生き生きとした表情を見て更に混乱する。
森のざわめきが次第に大きくなる。
鳥達も慌ただしく飛び立ち始めた。
「ハルカ、もしもの時の為に原っぱの入り口付近まで移動してくれ。守護の魔法はかけたから怪我はしないはずだ」
「待って待って! どういう事?」
訳が分からなくてはるかは慌てて声をかけた。
「もうそろそろ来るぞ。森の中は面倒だからここでケリをつける。あとは、さっきのフェザーラパンは多分生きてるぞ。ハルカの魔法は……仲間の所に転移させたんだろ。アイツらはしつこい。仲間を連れてここにやって来る」
そう早口で言い切ると、カイルは下がれと言うように手で合図をしてきた。
「さっきのフェザーラパンはハルカを狙って来るはずだ。気を付けろ」
その言葉に体を押されたようにはるかはよろよろと後方に後ずさる。
心の準備が出来ないまま、はるかにとって初めての魔物との戦いが始まろうとしていた。
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