無色透明な君の声

JO太郎

第1話

 春の爽やかな風を感じながら、桜並木の下を自転車で走り抜ける。春という季節は、本当に不思議だ。

 短い春休みが終わり、これから新学期が始まる、という憂鬱な朝なのに、春というだけでそんな鬱屈した気分は吹き飛んでしまう。やっぱり俺は、この季節が一番好きだ。

 わくわくするような、浮き立つ気持ちが抑えられない。二年になるとクラス替えがあるので、そのせいかもしれない。

 いち早く自分のクラスを確認したくて、いつもより三十分早く家を飛び出してきた。

 学校が好きなわけじゃないけれど、この日だけは特別だ。


 緩やかな下り坂に差し掛かり、ペダルから足を離した。この下り坂を越えたら、学校が見えてくる。

 ブレーキに手をかけ、桜の花びらが舞い落ちる中、勢いよく坂を下っていく。心地良い風を全身に浴び、一気に駆け下りる。

 軽くブレーキを握り、角を曲がる。

「うわっ」思わず声が漏れた。

 曲がった先に俺を待っていたのは、一台の軽トラックだった。運転席の禿頭とくとうのおっさんが目を見開くのがはっきりと見えた。

 俺は力いっぱいブレーキを握りしめた。しかし間に合わず、正面から軽トラックに衝突した。

 激しい衝撃の後、俺の身体は投げ出され、視界がぐるぐると回り、自由を奪われたまま地面に叩きつけられた。

 それは一瞬の出来事だった。何が起きたのか、考えることもできない。身体はピクリとも動かせない。

「大丈夫か!? 兄ちゃん!!」

 誰かの叫び声が頭に響いた。

 一匹の黒い猫が、遠くで欠伸をしているのが見えた。

 そこで俺の意識は途絶えた。

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