第11話 修行編11 初心者講習7 再戦
育成強化が終わったメンバーは
まだ若干名が来ていない。
そこへシイナ様の苛立った通信が入る。
『時間切れだ! 育成強化はここで終了だ!
きちんと育成強化出来ていようが出来ていまいが現在の艦で
『えー!!!』
フォレストが騒いでいる。
あの様子だと時間切れで満足な強化が出来てないんだろうな。
もう放っておこう。
僕らが待つヴァーチャル・プレイ受付にフォレストのアバターを引きずったシイナ様のアバターがやって来た。
これで全員集合。お約束の初心者講習Bチームで受付を終了すると控室に飛ばされる。
「今回は少し作戦を打合せておこう」
「うん」
「そうね。昨日みたいに開始して直ぐに撃たれるようなことは避けたいわね」
僕の提案にアヤメとタンポポが応じる。
「その対策なんだけど、VP開始と同時に回避運動と索敵の開始を電脳に予め命じておくことが出来るみたい。所謂予約機能?」
「そうなんだ。直ぐに命じておくわ」
2人が電脳に命じ終わるのを待ってから僕は続ける。
「後は単従陣で防御しつつ、敵の戦力を分析して弱い艦を集中して撃破していくでいいかな?」
「それでいいと思う」
「いいと思うわ」
そうこうするうちにVP開始時刻がやって来た。
良かった。最低限の事は伝えられた。
『初心者講習Bチーム、第1回戦。宙域は通常宙域。試合開始10秒前です。5、4、3、2、1、試合開始!』
僕たちは仮想宇宙空間に飛ばされた。
電脳に命じていた通り回避運動とレーダーの起動が行われる。
敵艦隊は巡洋艦2駆逐艦1。
レーダーと光学観測の併用でレールガンを持っていないことが判った。
レーダーを強化したかいがあったというものだ。
『敵はレールガンを持っていない。距離を取りつつレールガンで攻撃すればアウトレンジで叩ける』
『なら私は防御に徹することになる』
アヤメはレールガンを装備しなかったようだ。
『私は攻撃に参加するわ。見てなさい。長距離射撃は得意なんだからね』
タンポポは地味な外見のわりに発言がイケイケだな。
あれか。眼鏡女子は仮の姿。眼鏡を外すと超美人ってやつだ。
そんなわけあるわけないか……。
『なら僕とタンポポでアウトレンジ攻撃に徹する。アヤメにはミサイル防御を任せるね。
最初は駆逐艦を叩くよ』
『了解』
『わかったわ』
僕達の攻撃は一方的なものになった。
ミサイルで撹乱しつつレールガンを発射、防御の弱い駆逐艦が簡単に沈んだ。
『次は突出している巡洋艦を狙う』
敵巡洋艦2艦は距離を詰めようと
レールガンにより防御力の下がった敵巡洋艦が脱落していく。
『チャンスだ。一気に距離を詰めてビーム砲も併用して叩くよ』
『了解。やっと出番が来た!』
『私は無理。アウトレンジで後方の脱落艦を叩くわ』
どうやらタンポポ艦の育成強化はビーム砲までは手が回らなかったようだ。
だがずっと活躍の場が無かったアヤメ艦は嬉々として吶喊していく。
相手の巡洋艦がいくらビーム砲特化といえどもレールガン+ビーム砲で2艦に叩かれれば一溜まりもない。
ついに2艦目の巡洋艦も撃破され戦闘終了となった。
『やったわ! 私はノーダメージで勝てたわ!』
『うん。やりきった』
タンポポが大喜びだ。
アヤメもビーム砲を撃ちまくれて満足そうだ。
次は準決勝。ミサイルとレールガンの弾を消費した程度で戦力的には充分戦える余力を残すことが出来た。
『次も頑張ろう!』
『『おー』』
僕たちは準決勝に向け必勝の決意を新たにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
『初心者講習Bチーム、準決勝。宙域は岩石宙域。試合開始10秒前です。5、4、3、2、1、試合開始!』
準決勝の試合が始まった。
開始早々レーダーで敵艦を探索したが、宙域に広範囲に浮遊している岩石により敵艦を捕捉することは出来なかった。
岩石は小さいものは2mぐらいだが、大きい物は数kmはあり小惑星と言っても過言ではなかった。
『こちらはレールガン装備の巡洋艦が2艦いるから待ちぶせ攻撃にしようか?』
『索敵しつつの攻撃では遭遇戦になるでしょ? 私としても接近戦は避けたいからそれがいいわ。』
『待ちぶせは性に合わ無いんだけど?』
タンポポは納得の様子。
アヤメはお気に召さないようだ。
『ならアヤメが囮になる?』
『嫌っ!』
『だよね。じゃあ待ちぶせ決定ね』
『ぐぬぬ』
1回戦でもあまり出番が無かったし、アヤメには我慢を強いてしまったかもしれないな。
活躍の場を考えてあげないと。
『では、こちらが有利になる宙域を確保しますか』
敵艦隊との接触に注意しつつ有利な宙域を探す。
こんな時に攻撃を受けては間抜けなのでレーダーを切って光学観測のみで移動する。
レーダー波というのは出していることで敵に所在がバレるものなのだ。
そこに何もいなければレーダー波なんて出てないはずだからね。
しばらく移動すると、待ち伏せに適した隠れられて視界を確保出来る場所を発見した。
そこに僕の艦とタンポポ艦を配置する。
アヤメ艦は接近して来た敵艦隊の横を取れる位置に隠れてもらう。
・
・
・
『両艦隊とも警告1です。戦いなさい』
急に運営から警告が出た。
『『なんなの?』』
アヤメとタンポポが困惑する。
僕には理解出来た。柔道と同じでお互いに攻撃をかけないために試合が膠着したんだ。
『どうやら相手も待ちぶせを選んで試合がずっと止まっていたようだ。
警告をもらったからには最低限移動しないと判定で負ける』
『どうすればいいのよ!』
『やっぱりアヤメが囮になる?』
僕は冗談めかして言ってみる。
『わかった。どうすればいい?』
『え?』
『え?』
言ってみるもんだ。アヤメがやる気になった。
タンポポも冗談だって気付いていたのに。
『しばらく移動して僕らから遠ざかったらレーダーを起動して敵艦を探索してみて。
進路はこの宙域の前を通過する感じで』
『やってみる』
悪いな。アヤメ。そのレーダー波に敵が寄って来るはずだ。
・
・
・
『敵に見つかった。3艦に追われている! よし接近戦で『待てい!』』
『そのままこの宙域に誘導するんだ!』
『くっ。了解』
危ねー。アヤメがあんな直情型だとは思ってなかった。
このまま上手く誘導してくれれば……。
『タンポポ、戦闘準備。レールガンで狙撃するよ』
『わかったわ』
アヤメが敵艦隊に追われながら接近して来る。
後方から敵艦隊、巡洋艦3が追って来ているのが見えた。
『敵艦隊が横腹を見せているうちに一斉射撃するよ……よし発射! 僕は敵艦隊に突っ込む!』
タンポポ艦がレールガンを連射する。僕はレールガンを撃ちつつ敵艦隊に接近する。
『アヤメ! 出番だ! 反転攻撃!』
『待ってました!』
僕とタンポポに横腹を突かれた敵艦隊が回避行動を取った所にアヤメ艦が突っ込んで来る。
初撃のレールガンが命中した敵艦隊はダメージを負っている。
そこへアヤメ艦が突っ込みビーム砲を撃ちまくる。
僕も接近しレールガンとビーム砲で敵を叩く。
乱戦となったが初撃の有利で僕達の艦隊が勝った。
だが、僕とタンポポが待ち続けたのは賭けだった。
相手がベテランだったら僕達の警告負けを狙われていたことだろう。
攻撃のフリだけして僕とタンポポが動かないことで警告を付ける。
それで相手はタイムアップまで待つだけで優勢勝ちだった。
艦の性能が低く互角同士ならば、このようにギリギリの戦いが続くのだろう。
艦を育成強化して圧倒的な優位を得なければ厳しい戦いが続く。
僕の専用艦じゃ戦いようがないことを再認識した。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
『初心者講習Bチーム、決勝戦。宙域は通常宙域。試合開始10秒前です。5、4、3、2、1、試合開始!』
『!』
なんの運命の悪戯か目の前に敵艦がいた。
試合開始後の宙域への配置はランダムなので、これは意図して起きたわけではない。
『タンポポ、ミサイル!』
そう言うより早く敵艦のビームがタンポポ艦に突き刺さった。
ミサイルは発射しなければ爆弾を抱えているのと同じだ。
タンポポ艦がミサイルの誘爆で轟沈する。
『くっ』
アヤメ艦がビーム砲を四方に発射して牽制する。
僕もビーム砲を撃つが1門しか無いので手数で圧倒的に不利だ。
レールガンは近距離だと取り回しが利かず照準さえ付けられない。
とうとう僕もやられてしまった。
当然3:1となってしまったアヤメも撃破された。
決勝戦は不慮の遭遇戦となってしまい負けてしまった。
『残念だったな。あれは運が悪かったと諦めろ。男子チームはまた1回戦負けだ。女子チームは頑張った方だ』
僕らが落ち込んでいるのを見てシイナ様が慰めてくれた。
何故かシイナ様の言葉にフォレストが視線を逸らしている。
オオイ氏とキリさんはフォレストを睨んでいる。
なるほど。察します。
『明日は各々の専用艦を使った最終演習の予定だ。
喜べ。男子チームには今日の参加賞1万Gを。
女子チームには決勝進出賞金5万Gを支給する。
各自この予算で専用艦を育成強化して良いぞ。これにて解散!』
『『『『『『ありがとうございました』』』』』』
ちょっと待って。僕の専用艦じゃ育成強化しても戦えないよ?
なにせエネルギースロットの空きもない弱小艦なんだからね?
僕は頭を抱えるしかなかった。
とりあえず今から回収で稼ぐしかない!
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