第14話 コックトレント誕生

 それは何の変哲もない大きな木であった。

 特に人間と接点があった訳ではない。ただ鳥がよく枝に止まってくれる。

 その時に鳥から色々な情報を大きな木は得ていた。


 自我が目覚めたのはいつの頃だっただろうか、自分の枝に実をつける果物達がてんでばらばらである事に気付いたくらいだ。



 自我が目覚めたとしても大きな木は動く事が出来ない。

 考える事が出来てもそこを踏み出す足がなかった。



 しかし大きな木はある時に気づく、根っこを足にして歩けばいいのではないだろうかと。

 しかし地面の奥深くに突き刺さった根っこを抜くのは至難の業であった。


 

 それでも鳥達が人間達の話をする。

 人間達が自分勝手にやりたい放題な事をしているという情報。

 その情報を聞く度に、大きな木は怒りを覚える。

 しかしなぜ怒りを覚えているのか忘れてしまっている。


 

 ある鳥達が体中を煙まみれにしてやってきた。

 その鳥達は教えてくれる。人間達が森を燃やしていると。

 理由は無礼な魔族がいたからその魔族を焼き討ちするとの事。



 大きな木は思い出してくる。その王国の名前を【山々の王国】それがこの山を支配する王国の名前であった。この辺りは沢山の山と森に囲まれている。自然豊かな王国なのだ。


 

 沢山の人々は魔族を敵として奴隷にしたり、捕まえて玩具にしたり、今回のように無礼があったからと焼き討ちされる。



 大きな木はその事について疑問に思った事はなかった。

 それが魔族との違いなのだと。

 しかし彼は魔族を見捨てる事が出来なかった。

 飢えて苦しむ魔族に最高な料理を送った。


 

 魔族達は涙を流しながら食べた。

 そう自分はコックだった。


 大きな木は自我を取り戻したのではない、魂が転生したのだ。

 そして自分がトレントに生まれ変わった事をようやく知った。

 巨大なトレントが今の自分である。

 口を動かすイメージをする。

 するとトレントは話が出来るようになった。


 

 人間の頃のイメージをする。するとトレントはみるみるうちに小さくなり、1人の人間の姿になった。しかし全身が大樹のような肌をしている。頭には沢山の葉っぱがあり、無数の果物がある。



 自らの頭からリンゴと葡萄を採って口の中に運ぶと、自らの栄養で作られた果物がとてつもなく旨い事に感激していた。


 コックのトレントは動き出す。

 今までは人間の為に戦ってきた。

 しかし彼等は凄腕のコックを処刑した。

 その理由は分からないが、とりあえず【山々の王国】を滅ぼすなりして探そう。



 そう仲間達を、恐らく全員死んでいるだろうが、奇跡は重なる物だと信じている。

 きっと彼等も何かしらのモンスターに転生している。


 

 コックは確かに経験した。それは地獄をなぜ自分が地獄にいかねばならなかったか。

 それは自分で探すしかない事、しかしコックがやった事は片方では善となり片方では悪となる。



 全てを善にする事も全てを悪にする事も出来る。

 それが今回のあの世での地獄と天界でした経験と学習だ。


 

 コックは同じ過ちをしない。これでも女性なのだ。

 立派な男性を見つけて結婚したい夢は捨てていない。


 こんな木々の肌になってしまったが、なんとか美貌を手に入れる。


 コックトレントには夢があった。


「昔の夢より今の夢も大切」



 それは人間を滅亡させる事であったのだから。



 眼の前に見えてくる巨大な王国。山そのものを王国にしている。

 城壁で囲まれた絶壁。門はふたつあり、入り口と出口のように使われている。


 

 国王は豪勢な生活にしか興味がなく。

 その息子と娘は良い大人なのにやりたい放題の生活。

 コックの時に料理を運んだ経験がある。


 王子の舐めるような視線にコックは身の危険を感じたほどだ。

 凄腕のコックになる時に決めた事があった。

 それは弱すぎるコックはダメだという事。

 最前線で戦えるくらいのコックになれと。

 昔誰かに教わった記憶がある。


 どうやら全ての記憶が戻った訳ではない。


 コックトレントは城門に到達していた。


 今は暗闇、空に7つの星空が浮かび上がる。

 まるで流れ星のように7つの星がこの王国に落ちてくれたら。

 さぞ気持ちのいい朝を迎えて光合成を行う事が出来るだろう。


 右手をかざす。

 その右手はぼろぼろのトレントの肌。

 足元から地面のエネルギーを吸いこむ。

 頭には沢山の果物が実る。


 

 沢山の果物を口の中に入れて栄養補給しつつ、足からも口からも栄養を補給していく。


 沢山の木々が成長していく。


 それは瞬く間に移り変わった。

 城門にいた兵士達はパニックを引き起こした。

 なぜなら入り口の城門が見た事もない木々の枝により押し潰された体。

 兵士の体に突き刺さる枝が。兵士の体から一気に生命エネルギーを吸い取る。



 すると兵士は即死していた。

 ただコックトレントは立っているだけで、人々の悲鳴が始まる。


 トレントの力とは増殖だったのだから。

 

「コックは基本的に調理室からでないものだろう? うふふ」



 コックトレントの恐ろしい笑顔であった。



 木々は増殖に増殖を繰り広げる。

 今まで家にて寝静まっていた人々は何事かと起き出す。

 すると木々に貫かれて死ぬものや生命エネルギーを吸われて死ぬもの。



 生命エネルギーを吸われると、トレントの頭の葉っぱには無数に果物が出現する。

 コックトレントも急がしてく、出来上がった果物を片端から食べる。



 口の中に広がるフルーティーさにさすがはこのコックが作った果物だと納得する。

 その時だ。冒険者ギルドがあったようで屈強な冒険者達が表れる。

 その冒険者と兵士達が力を合わせようとしている。



「どうやら簡単には倒せそうにないわね」



 コックトレントは楽しみのあまり愉悦に微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る