第8話 聖女スライム誕生

 ぶよぶよしている。

 それが肌の感触であった。

 そいつはぶよぶよとひたすら進み続けた。

 大きさはとても小さくて球技用のボールくらいであった。

 


 それはスライムであった。

 スライムの中に入っている女性の魂が時折自我を取り戻す。

 するとその魂は恐ろしい悲鳴を上げるのだ。


 

 それがスライムの口から発せられるものだから、スライムを食べて生きている捕食者であるモンスター達は、そのスライムには襲いかかる事はしなかった。


 

 スライムであるそれが1人の聖女である事を思い出した。

 水の池に移る自分の姿を見て絶望の声を張り上げそうになった。

 しかし聖女スライムは心を冷静にと努める。

 

 

 スライムとしての記憶も蘇らせる中で、自分自身の記憶すらも蘇らせる。

 いつしか水に池に移った姿かたちは聖女の頃の人間の姿であった。



 沢山の人々からその美貌を称賛された彼女は上手く聖女の姿である事をイメージし続けた。

 


 その時だった。

 周りには沢山のスライム達が表れた。

 まるでアメーバーのようなグミがぶよぶよと動き。

 はっとなって気付く、彼等の中にも聖女の魂があるのだと。



 いくつかの魂が恨みの記憶を提供してくれる。

 

 全てのスライムを吸収しても膨大なエネルギーが体内で爆発しそうでも。

 姿形は1人の女性に縮小されている。


 

「さぁ、待ってなさい、庭園の王国、うふふふふ」



===庭園の王国===


 一方で庭園の国ではお祭り騒ぎになっていた。

 国王の弟が婚約したのだ。相手の女性は王族とは関係のない一般市民であった。

 人々はそのなれそめを話したりして盛り上がっていた。


 庭園の王国には3人の将軍がいる。

 1人の将軍が先代の国王から仕えている老齢の将軍。

 1人の将軍は球技大会でリーダシップを披露した若造であり統率力が認められた。

 1人の将軍はとても臆病であるが、その剣術の腕前が達人を超えている事から認められた。



 その3人の将軍もその婚約パーティーに出ている。

 老齢の将軍はいつもの如く国王の隣に立ち、一本の槍を地面に当てている。

 それはいついかなる時でも闖入者を殺せるという意思表明でもあった。



 2人の若造の将軍は若い女性に言い寄られて困り果てているが。

 彼等も悪い気はしていない。



 そんな平和は1人の女性の心臓を捧げた事で成り立つ事をこの場にいる誰もが理解している。



 石材と特殊な鉱石を使った城の建造物はそう簡単には崩壊する事はない。

 はずだった。


 

 窓から見える景色にその場の全員が落胆している。

 


「息子の婚約パーティーに雨とはな」


 国王が呟くと、天井がぼろぼろと崩れて来た。

 それは終わる事がなく、城自体が崩壊を辿り始める。


「一体何事じゃ」


 国王が訳の分からない表情をしながら、ゆっくりと城門が開いていく光景を見ていた。


 城の外にある城門が開かれ、城の中にある城門が開かれる。


 国王達が見たのは内側の城門が開く所だけ。

 

 外側の城門には沢山の人々が悶えていた。

 

 それはまさにダンスをするように悶えている。


 単純に悶えている訳ではなく、全身が火傷を覆うような激痛のダメージを負っているから。



「スライムの雨は皆さん好きなだけ浴びて頂戴、うふふ」



 スライムを蒸発させる事で、空に舞ったスライム達は聖女の魔力により水から酸に変換する。

 その為空から降ってきているのは雨ではなくスライムの酸であった。

 役目を終えたスライム達はエネルギー補給の為に聖女の元に戻って行く。




 スライム達は人間の活力、生命力、気力などを吸収すると本体の聖女スライムに運んでいく。

 そこで魔力に変換して分離する時に魔力をスライムに与えるのだ。


 

「まるでどこかの国の錬金術みたいね、ウフフ」



 全身がスライム状態の聖女スライムは扉を開ける。

 もちろん1人の女性が引っ張って開く扉ではない事を皆が知っている。



 国王は唖然としてその女性を見ていた。

 球技大会で有名になった将軍はひゅうっと口笛を吹いた。

 それは聖女の容姿に驚いているのだろう。

 どんな男性も虜にしてしまう。しかし仲間達には誘惑出来なかったが。


 弱気な将軍は剣術の達人でもその聖女に驚きを隠せないようだ。



 その場にいる殆ど叫んだ。



「ど、どういうことだ」

「ウ、嘘ヨ」

「お化けよきっと」

「ちゃんと心臓を抜いたぞ」


 最後の叫んだのは。


「なぜ来たのじゃ、メイアリナよ」



 現在の国王は弟の誕生日をぶち壊された怒りより。

 なぜ忘れさせてくれないのかとい問うた。



「あなた達の事は地獄でも天界でも忘れなかった。お仕置きタイムよ、うふっふ」



 かくして1人の女性の恨みが張らされる時がやってきた。



 至る所にスライムが散らばっていく。

 それは周りからみたら水が増えている程度にしか見えなかっただろう。

 しかし水は次から次へと雨となって増えて行く。

 城の崩壊などありえないと考えている国王。



 国王達は断固として逃げる事を拒否する。

 それが国王達の体に酸のスライムでダメージを負わせる事が無かった要因だった。



 国王達はその場で剣を引き抜く。

 淑女たちは1人残らず城のあちこちへと避難を始める。

 男達は聖女を次こそは殺す為に残った。



「なんでわたくしだけがこんなに苦しまなくてはいけないのかしら? ねぇなぜ? 教えて?

 美しいから? うふふ」


 高速移動で持って剣を叩き落したのは、将軍であり剣術の達人であった人物だった。



「おばさんはとっとと死んでおけ」


 彼はいつもびくびくとしている臆病者だ。

 しかし剣を握るとそれは別人となる。



 だが達人は気付く。

 これが人間の感触ではないという事を。


 

 両断できた。


 しかし血液ではなく水が噴き出す。

 それは明らかにスライムであった。



「う、そだろ」



 その時達人の将軍の顔面に液体がぶっかかった。

 あまりにも激痛で、悲鳴をあげる。

 地面にぶっ転げて子供のように暴れる。



「スライムの槍」


 そこに出現したのはスライム状態の杖であった。

 それをもがく剣術の達人に向かって突き刺す。



「ぐおおおおおおおおおおおおお」



 それは1人の将軍が吸収された時だった。


 そこには衣服しか転がっていない。



「まぁまぁの力ですね、うふふ」



 その場の全員が数に任せて戦いを仕掛けたのはその時。

 沢山の人々の悲鳴が響いた。

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